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【秘話】がん治療の「常識」を変えた日本発のヒット薬
村上 和巳フリージャーナリスト
率直に言って、日本の製薬企業は国際的な創薬競争、とりわけ人工的に製造した抗体を医薬品として利用する抗体医薬品の研究開発では遅れをとっています。そうした中で抗体医薬品で久々のブレイクスルーが今回記事となった第一三共の抗体薬物複合体・エンハーツです。
この薬が生まれた背景には、現第一三共の誕生前までさかのぼることができます。第一三共は2005年に旧第一製薬と旧三共が合併して成立しました。
記事にあるような今回のエンハーツの源流となる抗体医薬品の研究開発を当初進めていたのは旧三共、そしてペイロードに使われた抗がん剤「トポイソメラーゼI阻害薬」は第一製薬が有していた化合物ライブラリーにあったものです。
このトポイソメラーゼI阻害薬は現在、胃がんなどの標準治療薬に使われている塩酸イリノテカンの類縁化合物です。
この塩酸イリノテカンは効果は高いのですが、難点は副作用も強めであること。1990年代前半に承認された時は臨床試験中に参加患者の5%弱が副作用死したほどです。
エンハーツで利用したのは、この塩酸イリノテカンをモディファイして副作用が起きにくくなった成分です。
このような経緯を考えれば、この薬が誕生したのはそれぞれの企業努力を追求した2社がたまたま合併した結果というある種のドラマチックな巡り合わせがあります。
【治療と仕事】肺がんステージ4でも働き続けた僕が伝えたいこと
村上 和巳フリージャーナリスト
今回取材と記事執筆を担当させていただきました。実はコロナ禍前の2019年、清水さんの講演を聞いたことがあり、いつか取材したいと考えていました。
今回取材して記事にする機会が得られ、念願が果たせました。
改めて働きながら治療を続ける難しさとともに、清水さんのある意味壮絶ながらしたたかな生き方に感心してしまいました。
今回の清水さんの提言をざっくりまとめると
・会社の制度を熟知して使えるものは使いながら周囲への感謝を忘れない
・障害年金や健保組合の付加給付など思いのほか使える制度がある
・がん情報サービス、がん相談支援センター、患者会などが重要な情報源
ということでしょうか。
私はがん治療という領域を取材して30年になりますが、この間の進歩は目を見張るものがあります。私が記者になった当時は清水さんが罹患した肺がん(非小細胞肺がん)のステージ4は、シスプラチンという抗がん剤の使用することで、使用しない人に比べ6か月間の生存期間延長が科学的に証明されたという研究結果に医療従事者が歓喜する時代でした。
そこから数々の治療薬が登場し、生存期間は当時に比べ飛躍的に延長しました。私用している治療薬が無効になったら次々と別の治療薬と変更していき、時には選択肢が尽きることもありますが、その段階で新薬の臨床試験に参加するという選択肢も日常的になっています。
その分だけ治療しながら日常生活を送るケースが増えています。平たく例えれば一部のがんについては、高血圧などの生活習慣病に近い現象が生じています。だからこそ清水さんのような経験が多くの人に役に立つと考えています。また、他の病気の療養でも応用可能です。
余談ですが、清水さんの講演を聞いた時、同じ壇上で講演したのが、免疫チェックポイント阻害薬オプジーボの原理を発見したことでノーベル賞を受賞した京都大学の本庶佑氏でした。
記事には書いていませんが、清水さんは最後にオプジーボ投与に至り、画像上がんが消失してしまった方です。オプジーボ投与例ではごく一部にそうした方がいます。当時清水さんが「オプジーボは僕と家族の未来を変えた。本庶先生は命の恩人」と語った時、私はメモを取りながら不覚にも涙を流してしまいました。
【図解】痛くても絶対に受けるべき「がん検査」はこれだ
村上 和巳フリージャーナリスト
この記事のインフォグラフィックス作成に協力させていただきました。ここで取り上げられた国の推奨する検診はいずれも重要であまり軽重はつけたくありませんが、特に重要なのが子宮頸がん。
子宮頸がんは発症の原因の多くがヒトパピローマウイルス(HPV)の感染。意外と知られていないようですが、ウイルス感染が原因になるがんは他にも肝臓がんなどがあります。
こうしたウイルス原因のがんの場合、ウイルスへの対抗手段ができればかなり発症リスクを減らすことができます。
肝臓がんの場合は、前段階のウイルス性肝炎に対する抗ウイルス薬の登場が今後の肝臓がん減少に寄与することが指摘されていますが、子宮頸がんの場合はさらに前段階のHPVウイルス感染リスクを減らすワクチンの有効性の高さが知られています。
さらに最近は記事中にあるように子宮頸がんは検診手法の選択肢も増加しています。
その意味で子宮頸がんは撲滅の可能性が浮上しているがんの1つです。実際、イギリスは2040年、オーストラリアは2035年という子宮頸がん撲滅目標を公表しています。
さらにHPVは男性の中咽頭がんの原因などにもなっています。
その意味でとりわけ若年層では男女ともHPVワクチン接種は有効な対抗手段です。ただし、男性の場合はどの年齢層でも現時点ではワクチン接種費用が自己負担であることがやや難点です。ちなみに中高年となる私ですが、HPVワクチン(4価)は接種済みです。
自衛隊派遣、増員が容易でない背景 能登半島地震と熊本地震の差
村上 和巳フリージャーナリスト
まさにこの通りだと思います。
能登半島は、半島中央部にある能登空港までの自動車専用道路と半島1周するカーブが多い国道249号本以外は、より狭い県道などがほとんどです。国道249号ですら道幅が狭いため、大型車両が車線をオーバーして走る地点もあります。そうした元来極めて脆弱な陸上交通網が至る所で損壊しています。
半島中央部の山間部に位置する能登空港から各地に放射状に伸びる道路も損壊していて空路の大量輸送も機能しがたい状況です。
さらに被害の大きい半島の外浦海域は、波が荒く岩礁海岸が多く、これまで使われていた輪島や珠洲の港も損壊しています。
この状況で万単位の自衛隊員の活動が困難なことは明白です。
「だからこそ各土砂崩れ地域に大量に自衛隊員を投入すべき」という人もいるでしょうが、被害地域の地質は、軟らかくてもろい堆積岩が多いため、余震も続く中では土砂崩れ現場も相当注意して作業しないと、二次災害の恐れもあります。
しかも道路が狭い現場は、もともと面積が狭いわけですから、現場で作業できる人員、使える資器材も限られ、思うように作業が進められないことは容易に想像がつきます。
【座談会】「やせ薬」ダイエットと薬争奪戦のリアル
村上 和巳フリージャーナリスト
基本現在のこの薬での問題は、
(1)疾患としての肥満症の人の一部で治療薬変更を強いられることがあるほどの供給不安
(2)肥満症ではなく、使うことでデメリットの方が多い可能性がある極端な痩身願望を持つ人に自由診療で使われている
の2つに尽きます。
そもそも(2)が解決しても(1)が解決するとは限らないですが、少なくとも供給不安は緩和される可能性は高いです。
そして医学的な適応を持たない人が自由診療で使う場合の問題は、あくまで処方した医師とユーザーとの間での自己責任にもかかわらず、副作用が起きた時に結局保険診療で対応する矛盾した事例があることです。自由診療で処方した医師が副作用発生時にそれも自由診療で対応してくれれば、あくまで2者間の話で終わりますが、そこまで面倒を見てくれなかった事例は実際にあります。
そして副作用の膵炎や低血糖が起きた場合には深刻な事態になる恐れがあります。低血糖に関しては本来GLP-1受容体作動薬のみならば起こりにくいのですが、実は極端な痩身願望のある人ではすでに食事そのものを制限していることがあり、こうした人では低血糖が起きてしまう可能性があります。
特に低血糖が自動車運転中に起きた場合、本人のみならず周囲を巻き込むことにもなりかねません。病気のために意識を失って交通事故を引き起こすこと事例はよく「てんかん」がニュースになりますが、実は低血糖での交通事故はそれと同等か年度によってはそれ以上の頻度で発生しています。
また、若いころの極端なダイエットは更年期以降の骨粗鬆症などのリスクにもつながります。
結局、医学的適応がない人がこの薬を使うことは想定外のリスクを招く恐れがあるということです。
【解説】世界が熱狂する「やせ薬」とは何なのか
生徒ら“約500人”感染宮崎市の高校でインフルエンザ集団発生 週末の「体育祭」後に患者急増
アステラス、米創薬ベンチャー買収 8000億円、眼科治療薬開発
村上 和巳フリージャーナリスト
金額にはやや驚きましたが、アステラス製薬は現在売上の約4割を占める前立腺がん治療薬・イクスタンジが2027年に迫っています。しかも、後継製品の開発は順調とは言えません。
今回のアイベリック・バイオは開発品が6品目しかなく、その筆頭にある加齢黄斑変性の治療薬は現在米食品医薬品局から優先審査品目に指定され、8月半ばにはその結果が明らかになります。
加齢黄斑変性は国内では患者数70万人程度ですが、今後の高齢化進展により患者数は増加見込みです。全世界では患者規模は1億人を超えるとも言われ、潜在的な市場性は高いと言えます。ただ、これらの患者すべてがアイベリックの新薬を手にできる購買力がある患者とは言えないのも実情です。
昨今、有力品を持つベンチャーに高額を投じて買収するというのは製薬企業の流れではあり、その点では今回の買収事態は驚くべきことではありません。
ただ、開発品が6品目のみ、かつヒトでの臨床試験以上のステージにあるのがうち2品目という会社にこれほどの金額を投じること、またアステラスの戦略である疾患領域に特化するのではなく創薬基盤技術に着目するという「フォーカス・エリア」戦略から見ると違和感が残ります。
裏を返せば、同社が昨今のイクスタンジ後継品の開発つまずきに焦りを感じているということかもしれません。
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