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希少疾患「ドラッグロス」拡大 欧米ベンチャーと連携不足
共同通信
高橋 義仁専修大学 商学部教授
資料に示されているように、希少疾患治療薬が日本を素通りしている傾向は年々強くなっていますが、記事に書かれているような、欧米ベンチャーと連携が不足するというような単純な話ではありません。わかりながら日本を避けているわけですから、問題はより根深いはずです。 医薬品として開発するために行う臨床試験は、臨床試験のバイアスを防ぎ、臨床試験の科学性と倫理性を担保するために、実施前に国際機関に登録・公開します。その後、臨床試験を行い、「好結果・期待外れ」を問わず、すべての結果が公開されます。(臨床試験登録制度) 臨床試験登録がされると、全世界の企業が知るところになることから、少なくとも「情報公開不足」ということはありません。情報が出れば、日本の企業と米国の臨床試験実施元企業(ベンチャー企業等)はコンタクトを取りあいます。つまり、日本のドラッグラグは、「日本市場は魅力的でないため、日本で早期に市場導入したいと考える企業が限定される」ことが理由と思われます。 その主な原因を2つあげます。第1に日本で薬事承認がされ保険適用になると、政府が価格を決めますが、日本の場合、大多数の健康保険の支払者が政府自身であるため、米国などとくらべて安い薬価がつきます。 米国は、製薬企業が希望価格で値段をつけるため、他に医薬品が存在しない希少疾患の場合は、患者数の少なさを考慮して企業が高価格をつけます。年間治療費数百万~数千万円の価格がつけられることは珍しくありません。 日本の薬価制度は、外国での医薬品価格があればそれを参考し、それ以下の価格が政府によりつけられることが多いため、自由価格国で先行発売し、日本市場での販売は機が熟すまで待った方が、営利企業のビジネスとしては、都合が良いことになります。 第2に、日本の臨床試験環境の劣悪さがあげられます。日本で臨床試験を実施を企画しても、世界の各国と比べて国民の理解が得られず、ほとんど患者が集まらない現状があります。例えば、新型コロナワクチンの臨床試験のケースでは、国際臨床試験で、日本も同じタイミングで臨床試験に加わりましたが、世界で4万例集めたペース中、日本は数十例を集められたにすぎませんでした。 これまでは、人種差の確認や海外データの信頼性検証のために、政府は日本国内での試験を求めていたため、第2の理由のクリアが難しかったわけです。
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緊急避妊薬の試験販売開始 処方箋なしで購入可能に
共同通信
高橋 義仁専修大学 商学部教授
女性ホルモン剤の発売時期は早く、日本でも1960年代には月経不順や更年期障害の治療目的に販売されています。世界では1970年代から「低用量ピル」が避妊目的に発売されました。 日本では、女性ホルモン薬の「避妊への効能追加」はようやく1999年に実現しましたが、この用法に関して、日本は世界でもっとも遅い部類の承認でした。しかし、その後も、他の多くの医療用医薬品と同じように、医療機関で医師の診察を受けなければ、入手できない扱いが続いています(世界の多くの国とは異なります)。緊急に服用する必要があるにも関わらずその判断に医師の診察が必要な状態になったままでした。 今回、状況は動きました。かねて医師の診察を受ける前の販売が検討されていた「緊急避妊薬」でしたが、日本でも、「試験的に薬局で購入できるようにして、問題点の検証を始める」ことを決定したわけです。医師の診察には、専門家が状況を把握して最適と考える治療法を選択するという意味はありますが、緊急避妊薬に関しては、タイミングの重要度がより高く、ベネフィットとリスクのバランスから疑問を持っていました。海外の多くの国では、緊急避妊薬は処方箋なしの販売が可能で、「外圧」の影響が少なくありません。 今回、緊急時の処方箋なし販売が認められたのはあすか製薬「ノルレボ錠」とそのジェネリック薬です。相当前から、武田薬品工業関連会社の帝国臓器製薬(現あすか製薬)は、厚生労働省に緊急避妊薬の必要性を訴え、効能追加の方向性を打診していましたが、1990年代終盤までは交渉の度、日本医師会からの強力な反対を受け、「避妊への適用」すら認められない状態が続いていました。主たる理由は、「風紀の乱れを助長するから」でした。 今回の決定は、2020年10月8日に当時の副会長が参加した「男女共同参画会議 第5次基本計画策定専門調査会」の基本的な考え方(案)の中に盛り込まれていた内容に沿ったものです。それに先立って、日本医師会は、2017年に緊急避妊薬の薬局販売化の検討で「使用者の性教育の必要性が議論されたこと」を評価し、過去の方針転換した旨の広報を出していました。 「緊急避妊薬に対する日本医師会の見解示す」(日医オンライン 2020年11月5日) https://www.med.or.jp/nichiionline/article/009623.html
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中国で急増の「呼吸器疾患」に広がる大きな懸念
東洋経済オンライン
高橋 義仁専修大学 商学部教授
WHOが中国での呼吸器疾患発生増加に関し、注視する旨の声明を出していることは事実です。声明の要約は以下の通りです。 2023年11月13日、中国国家衛生健康委員会は、記者会見で、中国における呼吸器疾患の発生率の増加を報告しました。増加の原因として、新型コロナウイルス感染症の制限解除とインフルエンザウイルス、マイコプラズマ(年少の子供が罹患する一般的な細菌感染の原因菌)、RSウイルス(RSV)、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などの既知の病原体の感染拡大が原因と分析し、「患者管理の強化方針」も報告しています。 11月21日、ProMED(International Society for Infectious Diseases、国際感染症学会) と中国の報道機関は、中国北部の小児肺炎の集団発生を報告しましたが、呼吸器感染症の全体的な増加と関連しているのか、別の原因と関連しているのかについては言及していません。 一連の流れを受けて、11月22日、WHOは中国政府に対し、国際保健規則に沿った疫学および臨床情報を要求し、インフルエンザ、SARS-CoV-2、RSV、肺炎マイコプラズマなどの既知の病原体の流行傾向や医療機関の逼迫に関する情報を求めているほか、学術的なネットワークを使って、中国の臨床医や感染症専門家と連絡を取りあっています。 WHOは中国の人々に対し、ワクチン接種の推奨など、呼吸器疾患のリスクを軽減するための対策をとることを勧め、病気の人から距離を置く、病気のときは家にいる、必要に応じて検査や治療を受ける、必要に応じてマスクを着用する、良好な換気を確保する、定期的な手洗いを実施するよう勧めています。 「WHO statement on reported clusters of respiratory illness in children in northern China」(2023年11月22日 WHO) https://www.who.int/news/item/22-11-2023-who-statement-on-reported-clusters-of-respiratory-illness-in-children-in-northern-china
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大正製薬HがMBOで上場廃止へ、買い付け価格は1株8620円
Bloomberg
高橋 義仁専修大学 商学部教授
大正製薬は、日本国内製薬企業の最大手企業グループの一角と思っている方が多そうですが、一般の方が薬局で直接購入できる「一般用医薬品」を主な事業としており、「医療用医薬品」における存在感は小さく、特に医療用海外では無名と言えます。一般用医薬品のかぜ薬・胃腸薬やドリンクでは、海外アジア圏で一定の存在感はあります。 日本国内の医薬品市場の約9割を構成し、購入に処方箋が必要な「医療用医薬品」領域での存在感は小さいため(この領域での売り上げは200億円強)、医薬品産業内でのプレゼンスは大きくありません。日本では一般の方への医療用医薬品の広告宣伝が禁止されているため、相対的に一般用医薬品企業の知名度が高くなります。同社は、現在は上場企業ですが、典型的な同族企業でもあります。同社関連財団および創業家が所有する株式は、資料で判別できる範囲だけで33%を超えています。 「医療用医薬品」のビジネスモデルは、病態の解明に始まり、医薬品となる新規物質の発明・発見、臨床試験で良好な成績を収めることなどを経て、これまでの医薬品では対処できない病気に対する新しい治療法(医薬品)を世界市場に向けて開発することです。この実現のためには、数千億円程度の初期投資がかかるとされる、ハイリスク・ハイリターンのモデルです。 「一般用医薬品」のビジネスモデルは、既存の医薬品の配合を変え、パッケージデザインも変え、新商品として売り出すというローリスク・ミドルリターンのモデルであり、飲料などにみられる定期的な新商品上市に似ています。新規の化合物を新商品として市場に出すこともありますが、まずは医療用医薬品として実績が積まれた商品しか、一般用医薬品として再販売することができません。 同社は23年3月期の年次決算において、流動資産約3800億円、流動負債約700億円、売上高約3000億円、営業利益約230億円であり、一般用医薬品の市場特性を考えると、短期的に資金調達が必要な要素も見出せません。 医療用医薬品企業と比べると、新製品開発に必要な資金量が圧倒的に小さいため、大正製薬ほど歴史があり、安定的な経営を行ってきた企業にとって、上場を続けて資本拡大を狙う必要はなく、むしろ上場による企業買収のリスクが上回るため、上場廃止に戦略的に舵を切ったという解釈です。今後医療用医薬品事業を拡大する意思も乏しいと思われます。
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ノボノルディスク、肥満症薬「ウゴービ」を日本発売 来年2月
Reuters
高橋 義仁専修大学 商学部教授
「ウゴービ」はGLP-1受容体作動薬と言われる医薬品で、血糖値を下げる効果があります。医療用医薬品に区分される、医師の診断、責任で出される処方箋を必要とする医薬品です。保険薬価が収載されたことを受け、日本で保険治療に使えるような準備が整いつつあります(来年2月から保険使用可能)。必要な患者に対し、選択肢が増える点は朗報です。 「ウゴービ」は、BMIが27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する場合は適応になりますが、肥満に関連する健康障害がない場合はBMIが35以上でないと投与対象にならないなど、ベネフィットとリスクのバランスをとるために、科学的に根拠に基づいた使用基準が設定されています。 肥満度を示す指標BMI(Body Mass Index)は、「体重(kg)÷ (身長(m))^2」で求められます。記事中のBMI35(肥満3度の下限値)とは、身長170cmの方で約101kg、150cmの方で約79kgです。 すでに、ごく一部の美容クリニック等での「痩せ薬」といった誇大広告(薬機法第66条違反)や個人輸入での使用を勧める事例が発生しているため、薬事行政当局は、製薬企業や日本医師会からも協力を経て、監視活動を進めています。このような経緯から、「ウゴービ」は、薬事承認後の保険薬価の収載は見送られてきましたし、保険適用になっても、投与のスタートは、「糖尿病専門医を有する医療機関に限る」といった制限がつくと思います。 確率的に発生する性格の副作用被害の救済のため、製薬企業等が出資するファンドが創設した「医薬品副作用被害救済制度」は、認可を受けた使用法の範囲内に限られるため、重篤な副作用が発生しても、認可適用外で使われていた場合、「医薬品副作用被害救済制度」からは補償されません。 適用外の処方は、医療機関で作成した請求を審査した結果、過剰あるいは不必要、処方内容が適切でないと判断された場合は、保険医療機関への保険償還はされません。そうなると保険分(通常7割)が医療機関の持ち出しになり、当然、医療機関の経営に影響を与えます。「痩せ薬」では保険が下りないため、効能外使用を意図する医療機関は、保険適用になったあとも自由診療として、全額の自己負担を求めてきます。
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WHO、肺炎急増で中国と協議 渡航制限は不要と判断
共同通信
高橋 義仁専修大学 商学部教授
2023年11月13日、中国国家衛生健康委員会は、記者会見で、中国における呼吸器疾患の発生率の増加を報告しました。増加の原因として、新型コロナウイルス感染症の制限解除とインフルエンザウイルス、マイコプラズマ(年少の子供が罹患する一般的な細菌感染の原因菌)、RSウイルス(RSV)、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などの既知の病原体の感染拡大が原因と分析し、「患者管理の強化方針」も報告しています。 11月21日、ProMED(International Society for Infectious Diseases、国際感染症学会) と中国の報道機関は、中国北部の小児肺炎の集団発生を報告しましたが、呼吸器感染症の全体的な増加と関連しているのか、別の原因と関連しているのかについては言及していません。 一連の流れを受けて、11月22日、WHOは中国政府に対し、国際保健規則に沿った疫学および臨床情報を要求し、インフルエンザ、SARS-CoV-2、RSV、肺炎マイコプラズマなどの既知の病原体の流行傾向や医療機関の逼迫に関する情報を求めているほか、学術的なネットワークを使って、中国の臨床医や感染症専門家と連絡を取りあっています。 WHOは中国の人々に対し、ワクチン接種の推奨など、呼吸器疾患のリスクを軽減するための対策をとることを勧め、病気の人から距離を置く、病気のときは家にいる、必要に応じて検査や治療を受ける、必要に応じてマスクを着用する、良好な換気を確保する、定期的な手洗いを実施するよう勧めています。 WHOからの公式アナウンスは、現在は以上の通りです。日本においても、季節的にも、実際に感染症が増加していることからも、警戒が必要だと思います。 「WHO statement on reported clusters of respiratory illness in children in northern China」(2023年11月22日 WHO) https://www.who.int/news/item/22-11-2023-who-statement-on-reported-clusters-of-respiratory-illness-in-children-in-northern-china
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市販薬ネット販売、全面解禁へ ビデオ通話での指導条件
日本経済新聞
高橋 義仁専修大学 商学部教授
今回の改定は、規制緩和と規制強化の併用実施です。市販薬(一般用医薬品)の区分は、重い副作用が発生するリスクが高い順に「要指導医薬品」「第1類医薬品」「第2類医薬品」「第3類医薬品」の4区分に分類されており、「要指導」を除く3区分は、すでにインターネット販売が認められており、一般用医薬品に対するオンライン販売については、すでにかなり制限が緩くなっていました。 これまで「第1類」以上は、薬剤師による書面での薬剤情報提供をセットにして販売する必要があり、「第2類」以下は薬剤師・登録販売者による販売が可能でした。これまで、「オンライン通話」は制度として定められていませんでした。 「最も慎重な服薬を必要とする『要指導医薬品』に対してもインターネット販売が可能になる」という点が加わる点、および、付随しての薬剤師による説明(「オンライン通話」)が義務化されます。 また、大量に摂取すれば、覚せい剤、麻薬に類似する作用を示す医薬品を同一人物が別店舗で買いまわったり、他人名義で購入することが問題になっています。今回かぜ薬や咳止めの販売方法規制の強化(=「オンライン通話」の義務付け)が実施されます。これは乱用への対処の一環です。 一般用であれ医療用であれ、販売免許を有しない者が、他者に販売、譲渡することは薬機法で固く禁じられていますが、対面販売で防げる種類の問題ではなく、ここには別途、システム上の対処が必要になっていると思われます。 医療用医薬品については、当初コロナ禍の特例として、ようやくオンライン診療後のオンライン服薬指導が認められました。さらに2022年3月31日に厚生労働省省令が改正され、現在は、「薬剤師の責任・判断により初回からオンライン服薬指導を実施可能とすること」「オンライン診療・訪問診療において交付された処方箋以外の処方箋においてもオンライン服薬指導の実施を可能とすること」が可能になっています。服薬指導は医療用医薬品の販売に付随するものとして義務付けられています。 一般用医薬品は患者さんが直接に購入できるため、チェック役は(医師ではなく)薬剤師等が担います。医療用医薬品は、医師の処方によるものですが、医療ミスを減らすことを目的に薬剤師がダブルチェックを行います。薬剤師が処方箋に不自然を認識した場合、薬剤師法(第24条)に基づき、医師に対し「疑義紹介」します。
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アルトマン氏、オープンAIにCEOで復帰-取締役刷新で混乱収拾へ
Bloomberg.com
高橋 義仁専修大学 商学部教授
昨日までの情報をもとにプレーヤー間の競争関係、法規制を考慮に入れた外部環境分関係、OpenAIの事業成立性にかかわる内部資源関係を分析すれば、今後の最初のシナリオは、(1)現OpenAI社の取締役の全員(ないしほぼ全員)が退任してアルトマン氏が同社に戻るか、(2)EBO(従業員による企業買収)の試みが確率の高い流れと思われたのですが、まずは(1)で決着という報道です。(1),(2)とも最終的な着地点は似ているので、話し合いにより、流血(=企業価値低下)の事態を避けたのだと思います。 米国のビジネスエリート(専門経営者)の見識とされるコンペティティブ・インテリジェンスのフレームワークは、確からしい流れを予想するシナリオ分析が中心で、そのための機能を多くの大企業が企業内部に保有しています。その点で、米国企業の戦略は環境に帰属することが多く、逆に日本企業の戦略は「誰が言ったか」という点で人に帰属することが多く、予想しにくいと思います。「政治がらみ」は、国内外にかかわらず予測し難いです。 考え方の詳細は、昨日のコメントに記載しています。 「『ChatGPT』とOpenAIがとりうる3つの道--アルトマン氏のマイクロソフト移籍で」(CNET Japan2023年11月21日) https://newspicks.com/news/9218560?ref=user_1310166 追記:ご参考までに追記ですが、アルトマン氏が取締役に戻らなかったことにつて、経営執行の代表者(CEO)とその監視役の取締役を分離するためが主な理由です。米国でもスタートアップ時には両者(執行役と取締役)兼任は多く見られますが、企業がパブリック化してくと、分離せずにはガバナンスが図れないという視点から、大企業の透明性の指標として、取締役の外部人材の起用(社外取締役)の程度が判断材料に使われます。取締役には、公共性や多様性に対してプラスになる人材があてられることも普通です。今回の取締役選任に当たっても、そのような考え方に従ったものになっています。
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東芝、上場74年の歴史に幕 臨時総会「物言う株主」と手切れ
共同通信
高橋 義仁専修大学 商学部教授
たしかに「物言う株主との手切れ」のために、非上場するしか、現東芝経営陣(および日本政府)には手立てがなかった様子でした。企業再建のために外国のファンドから出資してもらった金額に対し、上乗せする形で出資金を返還して廃止した形ですが、現東芝経営陣側に立てば、現時点の最善策だったと思います。 経営陣は、「経済安全保障に対し脅威的」であるということを主な理由として主張していましたが、当初再建時、外国企業に出資をお願いした時の事情も同じですから、「今廃止したい理由」としての説得力はあまりありません。 株主は「物を言ううっとおしい存在」どころか、本来「企業のオーナー」ですから、その意向を聞くことは、株主から選任され、経営を委託された経営者(取締役)の責務で、株式会社の仕組みの根幹部分でもあります。株式を公開する(上場する)とは、不特定多数の株主をパブリックに受け入れ、意見もパブリックに受け入れるというシステムを受け入れることですから、結局のところ、歴代東芝の取締役会の能力で、パブリックに開かれたグローバル企業のマネジメントを行うことは、困難だったという点に集約されるでしょう。 東芝は、(株式会社の一形態である)「委員会設置会社」という欧米型ガバナンスを日本で相当早くから採用し、その点では世界の株主に説明しやすい企業システムでした。しかし、これを運用する能力が不足していたことにより、世界をリードする企業に育てるどころか、パブリックな資金調達を選択肢から外す企業に移行した(上場廃止)という結果になりました。
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「ChatGPT」とOpenAIがとりうる3つの道--アルトマン氏のマイクロソフト移籍で
CNET Japan
高橋 義仁専修大学 商学部教授
取締役会におけるアルトマン氏解任は正当な権限に基づくものでした。一方、解任に異議を唱える権限を有さない「従業員」がとった行動がドラマチックです。このアクションは、従業員が直接的に経営意思決定に加われることを証明する実証実験のようなもので、後世に語られるレベルの企業経営のドラマになると思います。 アルトマン氏のリーダーシップに対し、OpenAI社の大半の取締役が反対したことが、アルトマン氏解任の理由ではあるのですが、従業員の大半はアルトマン氏に賛成で、今後は、OpenAI社に対するEBO(従業員による企業買収)が予想されます。確かにEBOが成功すれば、従来の経営方針を維持することができます。 さて「OpenAIは、従業員に企業を売ってくれるのか」という疑問はありますが、従業員が脱退すればOpenAIの価値は大きく下落し、程度によっては無価値に近くなります。それを避けるためには、OpenAI社としても、EBOに応じるしかなくなります。 ひょっとすると従業員による買収を経て、新しく設立した会社をマイクロソフトが買収するシナリオがその後に控えているかもしれません。このようにすれば、知財上の問題点をほぼクリアすることができます。 アルトマン氏とともに去る意思を表明するOpenAI社の従業員比率が多ければ多いほど、現取締役側は白旗を上げざるを得ません。法的に企業は株主のものですが、企業は従業員のものでもあることを知らしめています。 今後の最初のシナリオは、現OpenAI社の取締役の全員(ないしほぼ全員)が退任してアルトマン氏が同社に戻るか、まずはEBOを成立させるためにマイクロソフト社が中心的な役割を果たすかのいずれかのように思います。 当然、GoogleやAmazonなどのIT大手も指をくわえて眺めているはずはなく、今回の混乱に乗じて、OpenAI社従業員に対しEBOへの協力を持ち掛け、マイクロソフト社を出し抜くシナリオを検討していると思います。
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“大麻グミ” 「人体実験に参加するような危険性」 搬送者続出するその成分は「大麻の数十倍の危険性」
日テレNEWS NNN
高橋 義仁専修大学 商学部教授
低分子医薬品の開発では、従来に知られる化学式を改変して、より効果が強い医薬品をつくります(改変されたものは誘導体と呼ばれます)。「大麻グミ」なる商品に含まれる、HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)は、大麻の違法成分THC(テトラヒドロカンナビノール)の誘導体で、THCよりも危険な可能性は否定できません。(程度については、今後の研究でより明らかにされることと思います。) しかし、HHCHは、「大麻取締法」や「麻薬及び向精神薬取締法」では指定されていない成分で、現状、取り締まることはできません。 これまで食品として合法的に販売していたとのことですが、この食品により実際に健康被害が出ているにも関わらず、販売元は対処の姿勢を見せないため、食中毒に対する場合の強制的な方法などを使い、すぐにでも行政が販売を止める必要があります。放置すると、今後おそらく死者が出ます。 「麻薬及び向精神薬取締法」とのからみでは、捜査権限により「大麻グミ」なる商品を調べることができ、もし食品から大麻・麻薬指定成分が検出されれば罪に問われます。「薬機法」とのからみでは、これまでに特定の医薬品として認められている成分が含まれていれば、無許可の医薬品販売として罪に問われます。 健康に対し安全性が確保できていない限りにおいては、大麻の違法成分THCの誘導体に対し、包括的に流通を差し止める対応(法規制)の必要性も感じます。
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NTTと通信3社がSNSで激論 NTT広報室「KDDIもソフトバンクも公社時代の資産受け継いでいる」
ITmedia NEWS
高橋 義仁専修大学 商学部教授
NTT法の廃止の議論は、複数の論点が含まれます。 (1) NTT法の制限に関する利害関係について 採算性に乏しい事業を抱えないといけない法規制は、NTTの事業採算性に悪影響を与えます。NTTはこれに対して反対することは当然のこととして理解できます。また、NTT株を財源にしたいという思惑から、政府の水面下でのNTTを応援する姿勢も見え隠れしています。 一方、NTTに競争力をつけられてしまっては困る立場のその他通信インフラ各社が反対するのは、競争戦略のフレームから見れば当然です。これらは各社のポジショントークですから、いくら議論しても並行線のままです。 (2) 政府保有の制限廃止について 政府が保有株を売却し、財源にしたいという考えがあると一部で報道されています。過去、東芝再生の時に外国株主に資金提供を求めた結果、株主の当然の権利の主張によって東芝が右往左往し、その回避のために上場廃止の決断に至ったことは記憶に新しいと思います。政府保有株式を手放し、流動化させるということは、そのような可能性を受け入れることが前提になりますが、この点について、ほとんど何も議論されていないように感じます。 結論として、NTTを国家インフラを支える機能を有する企業としてみるか、外国企業が子会社として所有できる企業に変貌させて営利性を目指すのか、どちらを優先するかにより結論が変わってきます。NTTの所有者を国家から外していくということはそういう意味であることを念頭に置いた議論が望まれます。
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第一三共開発の新型コロナワクチン承認後140万回分購入 厚労省
NHKニュース
高橋 義仁専修大学 商学部教授
第一三共製新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチン「ダイチロナ」は、ファイザー社製、モデルナ社製と同じ系統のRNAワクチンです。厚生労働省は2023年8月2日に、追加接種用のCOVID-19ワクチンとして「ダイチロナ」を製造販売承認しています。 この時の承認の理由になったのは、18歳以上を対象とした国内第2/3相臨床試験相当の追加免疫試験(146例)の結果です。起原株に対する「ダイチロナ」接種後の中和抗体価(GMT)の値について、対照薬(ファイザー社製RNAワクチン「コミナティ」とモデルナ社社製RNAワクチン「スパイクバックス」)接種後のGMTと同程度に上昇し、中和抗体価の幾何平均上昇倍率(GMFR)で非劣性が確認されたという成績によります。臨床的に感染抑制を示す成績は得られていません。 この症例数で検討した範囲の安全性については、コミナティやスパイクバックスと同等であり、特段の懸念される有害事象は認められなかったとのことです。 例えば、ファイザー社製RNAワクチンが当初米国で承認を受け、承認されたときの根拠は、(1)36523例(コミナティ筋注(起源株)接種群:18198例、プラセボ接種群:18325例)を対象に、1つ目の主要有効性評価項目である「SARS-CoV-2感染歴がない参加者での2回目接種後7日以降のSARS-CoV-2による感染症に対するコミナティ筋注(起源株)の有効性」を評価した、有効率が95.0(95%CI 90.3, 97.6)。 (2)40137例(コミナティ筋注(起源株)接種群:19965例、プラセボ接種群:20172例)を対象に、2つ目の主要有効性評価項目である「SARS-CoV-2感染歴の有無を問わない参加者での2回目接種後7日以降のSARS-CoV-2による感染症に対するコミナティ筋注(起源株)の有効性」を評価した、有効率が94.6%(95%CI 89.9, 97.3)というものでした。 モデルナ社社製RNAワクチン「スパイクバックス」でも、ファイザー社製と同等の症例数で臨床試験がされています。 本来、日本の医薬品行政当局が、これまでであれば承認しなかった成績(検査値の変動のみ確認、臨床的有効性の確認なし。検討症例数も少数)で承認されていることから、日本国内でのワクチン開発を応援するためであろうことが推察されます。
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コロナワクチンで死者9割以上減 京都大チームが推計
共同通信
高橋 義仁専修大学 商学部教授
このネイチャー関連誌に掲載された論文は、実際の感染者数と観​​察された症例に数倍の開きがあるという前提を立て、乖離幅を持たせた数種のモデルを作成して分析されています。2021年のデルタ変異株流行時のワクチンの有効性を評価するためのもので、2021年2月17日から11月30日の日本での疫学データが用いられています。主な内容は以下の通りです。 日本の新型コロナウイルス感染症に対する一次ワクチン接種は、2021年11月末までに接種率75%に達したことが背景にあり、もし、ワクチン接種プログラムがなければ、確定症例が25%を占めると仮定すると、累積感染者数と累積死亡者数はそれぞれ63.3百万人(95%CI 63.2~63.6)と364千人(95%CI 363~366)になっていた。 感染と死亡の予防におけるワクチン接種プログラムの有効性は、それぞれ92.6%と97.2%、感染者数と死亡者数はそれぞれ 89.0%と92.1%という大幅な減少に相当する。 もし2021年11月末までの感染流行期に、ワクチン接種が14日早く実施されていれば、感染者数と死亡者数は、観察された数字よりそれぞれ54%と48%も減少していた可能性があった。 数値は回避されたであろう症例数と死亡者数から算出されており、このような推定値は、ランダム化比較試験またはコホート研究による個人レベルでのワクチン有効性の推定値とは異なっていることに留意が必要である。 今回の研究から得られるメッセージは、日本においてはワクチン接種の間接的な効果が非常に大きかったことを示し、予防された感染者数と死亡者数は、それぞれ経験的に観察された数の13.5倍と36.4倍と推定された。ワクチンの集団接種は個人に対するメリットよりも集団に対するメリットが大きいことが証明されたと結んでいます。 原著でご確認ください。 Kayano, T. et al. ”Evaluating the COVID-19 vaccination program in Japan, 2021 using the counterfactual reproduction number.” Sci. Rep. 13, 1-11 (2023). https://www.nature.com/articles/s41598-023-44942-6
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