【柳内啓司】AbemaTV 対 LINE LIVE、勝つのはどちらか

2017/1/3

動画ビジネスの4つの切り口

一口に動画ビジネスと言っても、ビジネスモデルやコンテンツの性質などによって、多種多様なプラットフォームが参入しているので、整理が必要だ。
そこでまず、下図のようにビジネスモデルが無料/有料、番組がテレビファースト/スマホファーストという軸で主要プレーヤーをマッピングした。
大きく分けると、このような感じになる。
その上で、下記の4点の切り口で、2017年の動画ビジネス予測を書いていきたいと思う。各点とも必ず結論を明記し、私としても「リスク」をとった記事になっている。今年の動画周辺ビジネスの参考になれば幸いである。
1. テレビ番組の見逃し無料配信ビジネス予測
2. Netflix、Amazon、dTV、HuluなどSVODサービス予測
3. AbemaTV 対 LINE LIVE勝負予測
4. C Channel、KURASHIRU、DELISH KITCHENなどの分散型動画メディア予測

地上波テレビの見逃し無料配信 

ポイント:配信番組数は頭打ちながら、1話あたりの再生数が伸び、堅実に成長か
2016年、民放各局は見逃し配信サービス「TVer」を推進してきた一年となった。
人気ドラマやバラエティなどの配信番組数が増えてきた結果、アプリは500万ダウンロードを達成するなど、順調に成長してきている。
ビジネスとしても、ナショナルクライアントのテレビCM広告費を取りにいく戦略が功を奏し、高単価で広告を売ることに成功。売り上げを着実に積み上げている。
一方で、TVerは放送された番組を次話まで放送するというサービスの性質上、配信する番組数に限りがある。その結果、広告の在庫量を急速に増やすのが難しい。
広告の在庫量を増やすため、テレビ局の持つ大量の過去作品を棚に卸すという戦略も考えうるが、TVerは「リアルタイムのTV視聴回帰」という大義のもと進められているため、難しいだろう。
以上の状況を踏まえ、2017年の予測をしてみたい。
配信番組数は一定ながらも、動画視聴習慣の普及に伴って、1話あたりの再生数が伸び、広告在庫量が増加。テレビ局が制作する安心安全の優良コンテンツのため、広告単価も維持でき、売り上げを着実に増やしていくだろう。

SVODサービス 

ポイント:“営業力”の優位なAmazonプライムビデオが成長か
2016年は、有料月額課金での動画配信サービス、いわゆるSVOD系プラットフォームの動きが活発な一年となった。
2015年に日本に進出したNetflixは、フジテレビと人気リアリティショー「テラスハウス」を共同制作したり、吉本興業と又吉直樹著の芥川賞受賞作品「火花」をドラマ化したりと、日本ローカルのオリジナル動画制作に力を入れた。
(Netflixサイトより引用)
Amazonプライムビデオも同様に、ディーン・フジオカ主演ドラマ「はぴまり」やダウンタウン松本人志企画によるバラエティ番組「ドキュメンタル」を制作するなど、日本のローカルコンテンツを制作することで、会員獲得に向け積極的な投資をしてきた。
(Amazonプライムビデオサイトより引用)
上記のような施策は、「お金を払ってでもみたい独自コンテンツの有無がSVODサービス成長のセンターピンである」という仮説のもと、実施されてきた。
しかし、日本のマーケットにおいて、この施策は必ずしもワークしないのではないか、と私は感じている。
というのは、日本のユーザーは地上波テレビを中心に、無料のリッチな動画に慣れ親しんでいるため、お金を払って動画サービスに加入するという市場がアメリカほど大きくないからだ。
そのため、日本ローカルのオリジナルコンテンツへの積極的な投資が今後もされるかというと、私は懐疑的である。
ではSVODサービスにおいて、会員獲得のセンターピンはどこか? 
私は「営業力」だと考えている。営業力とは、課金に向け強力にプッシュする力であり、これにたけているのがdTVとAmazonだ。
dTVは、「レ点商法」と呼ばれる強力な店頭営業を強みに、ユーザー数を伸ばしてきた。2016年ドコモ社の決算資料を見ると、dTVは、2016年2Q時点で462万件を記録しており、ストックビジネスとして、堅調に推移していることがわかる(下図参照)。
しかし、強みだった店舗営業にも不安要素が出てきている。総務省が2016年11月18日、スマホ端末の過剰な値引きを規制する指針の改正案を公表したからだ。
2017年6月以降に発売するスマホの販売価格について「2年前の同型機種の下取り価格以上」とするような指導が入る結果、店舗アフィリエイトビジネスが縮小していく可能性が高く、今後dTVは成長が鈍化するのではないかと予想される。
AmazonはdTVとは違う営業力を持つ。それは「抱き合わせ営業」だ。
Amazonプライムビデオは、あくまでAmazonプライム会員特典の1つであり、他にも無料配送特典や音楽聴き放題サービス「プライムミュージック」やAmazonドライブの容量無制限など、様々な特典とともに「プライム会員になりませんか?」という提案をしてくる。元々ECで築き上げた強力な会員基盤に、こういった営業をかけることで、会員数を伸ばせるわけだ。
ちなみに、アマゾン・プライムの登録会員数は2015年度にグローバルで前年比51%の伸びを示し、実数は公表していないが、「中でも日本の伸び率が最も高かった」とアマゾン ジャパンのジャスパー・チャン社長は話している。
現在、日本のプライム会員数は600万人とみられ、今年もまだまだ成長は止まりそうにない。
一方で、Netflixは営業力に乏しく、広告しか打ち手がない点で苦境を強いられるだろう。Huluも同様に営業力に乏しいが、親会社である日テレとの連携による地上波テレビでの露出次第で、成長可能性はあるだろう。去年並みの連携にとどまった場合、Netflix同様に成長は限定的になるだろう。
以上をまとめると、2017年の有料動画サービス予測としては、会員獲得のセンターピンである営業力が優位なAmazonが大きく飛躍すると、私は予測する。

ITメガベンチャー対決 

ポイント:スマホファーストのLINE LIVEが優位か
ここでは、ITメガベンチャーであるサイバーエージェントとLINEが手がける動画サービスについて予測してみたい。
2016年、AbemaTVとLINE LIVEはきわめて対照的なサービスに変化した。
AbemaTVはヨコ型で、複数のタレントが同時に出演してトークをするテレビ的な番組を、24時間編成で配信するという、きわめて「テレビっぽいスタイル」を一貫してとってきた。
一方でLINE LIVEは、2016年11月のタイミングで、タテ型で1人または少人数が出演するツイキャス的な番組の制作に注力しだした。また、LINE LIVEは、一般人による配信も可能とし、CGM的な側面も持つようになった。
(LINEオフィシャルブログより引用)
AbemaTVは「地上波テレビ的な受動視聴の習慣をスマホに持ち込む」というチャレンジを続けており、LINE LIVEはタレントやインフルエンサーとのネットワークを強みにしつつも、スマホ最適化をしてユーザーを伸ばしてきたツイキャスのようなスタイルを採用した形だ。
(AbemaTVより引用)
2017年、スタイルの異なる2つのサービスのどちらが成長するかを考えると、私はLINE LIVEが優位と予測している。
ゲーム業界で起きたことを思い出して欲しい。
ゲーム業界では、スマホに最適化して出来上がったモンスト、パズドラ、白猫プロジェクトなどのオリジナルIPが勝ち、コンソールデバイスの人気ソフトを移植しただけのゲームは負けた。
動画も同様に、スマホに最適化した形の動画配信を追求しているLINEの方が期待値が高いのではないかと予想できる。スマホファーストこそ勝利のセンターピンなのだ。
とはいえ、サイバーエージェントは藤田晋社長が陣頭指揮をとり、年間90億円の予算を突っ込んだ、一大プロジェクトである。2017年に大きく方針転換をし、スマホファーストにサービスを変えてくれば、戦況は大きく変わってくるだろう。

分散型動画メディア 

ポイント:ネイティブ動画市場と有料課金化で成長か
2016年に大型の資金調達をし、注目された分野に、C Channel、Dely(KURASHIRUを運営)、every(DELISH KITCHENなどを運営)などが運営する分散型動画メディアがある。
彼らは調達した資金をもとに、グルメ、ファッション、ニュースなどの短尺動画を大量に制作し、SNSで配信。現在、数十万~数百万のフォロワーを抱えるまでに成長している。
彼らのビジネスモデルはこうだ。各SNSでの数十万~数百万のフォロワーを獲得することで、ユーザーへリーチ。その後タイムラインに広告を挿入し、マネタイズをしていく。当然アプリにも誘導し、アプリでユーザーを囲い込むことにも積極的だ。
2017年、分散型動画メディアがどうなるかを予測する時、ポイントはネイティブ動画広告の市場の立ち上がりと有料課金化だと考えている。
ネイティブ動画広告は、スマホにおける動画市場の盛り上がりとともに注目されているものの、2016年時点では広告主はまだ積極的な投資をしていない。
2017年に分散型動画メディアが現在掘っている赤字を回収できるかは、ネイティブ動画広告の費用対効果が認められ、その市場が今年立ち上がるかにかかっているだろう。2017年も動画市場が伸びることは間違いなく、その予算の一部がここに流れるだろう。
また、もう一つ注目したいのは、各メディアの有料課金化だ。
クックパッドは広告ビジネスからスタートしたが、今やユーザーからの課金も売り上げに大きく貢献している。レシピ動画サイトであるKURASHIRUは、クックパッドのように、サクッとみたいレシピを取り出すためなら課金されてもいいというユーザーが一定数いるはずだ。
動画メディアもストックされるほど、有料課金ビジネスの可能性が出てくるだろうから、2017年は「分散型動画メディアの有料課金ビジネスへの進出」も予測したい(NewsPicksもまさにこのようなモデルですね)。
以上、2017年の各種動画ビジネスを予測してきた。
2017年、スマホ上での動画流通量がますます多くなることは間違いない。様々な業界から様々なプレイヤーが参入し、さらに競争が激化していく中で、上記のような予測のうち、いくつが果たして当たるか。自分でも2018年年始にその勝率を確かめたいと思う。
柳内啓司(ヤナギウチ・ケイジ)
東京大学在学中に㈱サイバーエージェントにてインターネットビジネスに携わった後、2005年㈱TBSテレビに入社。バラエティやドラマの番組制作技術、ネット動画の企画制作、ネットとTVの連動企画を担当。2017年1月に独立し、現在起業準備中。
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