【櫻田潤】「掛け算」の時代に欠かせないクリエイティビティ

2017/1/8

(1)「掛け算」発想が当たり前に

産業の垣根が融け出し、大融合が始まりました。加えて、AI、ブロックチェーンを筆頭に、何かと組み合わさることでビジネスになるテクノロジーが研究フェーズから製品フェーズに移ろうとしています。
フィンテック、ヘルステック、エデュテックのような「○○ × テック」という言い方も「掛け算」の発想です。この「掛け算」の時代に、求められるクリエイティビティとはどのような性質でしょうか。
アイデアは「組み合わせ」とは古くから言われていることです。Amazonは「本×通販×インターネット」、UberやAirbnbは「○○×シェアリング」、iPhoneも発表時プレゼンでは、スティーブ・ジョブズが3つの組み合わせで製品を紹介しました。
この「掛け算」発想が、冒頭で述べたように、産業の融合、組み合わせやすい新テクノロジーの登場によって、特別なことではなくなってきました。ある程度インプットのある人たちが集まって、ポストイットを壁に貼って、その中から組み合わせをつくっていけば、それらしいアイデアが出来上がります。
クリエイティブの真価は、掛け算が成立するかの判断と、それを形に仕上げるプロセスにあります。
「掛け算」発想が当たり前になったお陰で、クリエイティビティの見せどころがアイデアよりも「掛け算」の実現にあることに目が向くようになったのはよい流れです。

(2)デザインに対する期待は続く

では、「掛け算」を成立させるには、どのようなアプローチをしたらよいのか──その答えのひとつが、ここ数年のコンサルティング会社などによるデザインファームの買収・出資です。
昨年の博報堂DYホールディングスによるIDEOの持分法適用会社化に関しては、発表直後の下記寄稿記事も参照ください。
【馬場渉】博報堂のIDEO出資が示す、人・ビジネス・テックの大融合
デザインの役割を広く捉え、「掛け算」を成立させるための道のりと考える動きが、これらの買収・出資によって、重要だという空気ができてきました。
彼らが期待するのは、製品やサービスの見た目(外観)をよくすること以上に、デザイナーのような直感と論理を組み合わせた思考を開発プロセスに取り入れることにあります。
産業、テクノロジーの融合のために「掛け算」は欠かせません。一流のデザインファームから思考プロセスを学ぼうとする傾向は2017年も続くでしょう。

(3)働き方の変化が追い風に

ここまでで挙げた、買収・出資のような企業間の大きな動き以外に、雇用の流動性の高まりも、「掛け算」を活性化する追い風になります。
転職や副業、自分のプロジェクト運営、コミュニティ参加によって、複数の視点、知見、体験をしている人材は、それぞれを中途半端にやらなければ、「掛け算」時代の寵児となります。
デザイン思考では、プロトタイピングを繰り返して、失敗から学んでいきます。働き方の変化は、時間の使い方を見直すよい機会です。意識して実験を行える環境やプロジェクトを持っておくことが、いざという場面で役立ちます。
2014年にエリック・シュミット(グーグル元会長・現アルファベット会長)が共著で出した『How Google Works』には、「スマート・クリエイティブ(専門性、ビジネススキル、創造力を併せ持つ新種のナレッジ・ワーカー)」を生かすオフィスのコンセプトが述べられていました。
それは、あえて席を密集させて、集団の化学反応が起こるようにするというものでした。その代わり、そこで刺激を得たら集中モードに入れるように、たくさんの個人作業用のスペース(本の中での表現では“隠れ家”)を用意したとあります。
こうした「掛け算」を活性化するオフィス思想も働き方改革と並んで、注目されるようになっていくでしょう。
(バナー写真:istock.com/didecs)
櫻田潤(さくらだ・じゅん)
NewsPicksインフォグラフィックス・エディター

プログラマー、システムエンジニア、ウェブデザイナーを経て、2010年より「ビジュアルシンキング」運営。2014年12月よりNewsPicksに参画。主にインフォグラフィックスを用いた記事を執筆。著書に『たのしいインフォグラフィック入門』ほか
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