酒井 直樹

デフォルトになれば中国国内はドル不足となり急激な元安を招きかねません。このタイミングで米国金利上昇と資源価格インフレが重なれば、中国では大きな物価高となるリスクがあります。

パソコンや汎用半導体のようなベストエフォートの軽薄短小産業から、命を預かる電気自動車や爆発する水素インフラのような完全を求める産業に付加価値シフトが続くだろう。時代は重厚長大へ、デジタルからアナログへ、ホワイトカラーの技術から生産現場職人の技能へ。それが日本の強みでもある。

ここに来て顕著化しているのは、生産値価格に上乗せされる輸送コストやサプライチェーンコストが増高して消費者価格が増高していること。需要は戻らないのに、供給コストが上がるコストプッシュインフレのリスクが高まっていて、これが金利引き上げにつながっています。

繰り返し申し上げますが、 COVID-19と米中覇権争いによる市場の分断、経済格差の深刻化によるナショナリズムの台頭、金利上昇によるリスクオフ化の複合的要因により、グローバル経済が行き詰まり、ヒトモノカネの移動コストが増高しています。しかし「安い労働力の輸入」により国内労働者の所得は頭打ちとなり、購買力が落ちてデフレとなる悪循環を断ち切る意味では必ずしも悪い話ではありません。日本においても、日本語学校留学生や技能実習制度など隠れた現業労働力輸入により、労働者所得は安く留め置かれた訳であり、ヒトモノカネの内製化はデフレ脱却という面では良い話です。

グローバリゼーションの恩恵を最も受けてきたシンガポール。 元々は物流のハブとして、次に金融拠点として、さらに教育とナレッジの人的資本の拠点として、常に時代を先取りして発展を遂げてきました。特に、中国とも欧米とも近いメリットは大きかった。 しかし短期的には COVID-19ショック、長期的には中国と米国のデカップリングによる内国指向とヒトモノカネの流通の縮小で逆バネがきくリスクを孕んでいます。 内国市場の厚い東京がシンガポールと香港に対して比較優位となると思います。

世界の工場である中国での危機は、世界各国へインフレを輸出します。

中国金融の本当の問題はここにあります。不良債権処理は国民の不満を恐れて国内債務の補填に重点が置かれる、それはドル建て外国債務への冷たい対応となる。 これに懲りた外国金融は新規の中国へのドル投資を手控える。中国の外貨準備高は日本円換算で300兆円ほどで減少トレンドにある。中国の企業、家計は大きな債務を負っている。もちろん中国は対外債権もあるが、流動性危機に陥いる懸念もある。 モデレートな元安なら良いが急激な元安による第三次チャイナショックの可能性もゼロとは言えない。市場は最悪の可能性も想定しておくべき。

本日驚きのニュースはFRBがついにインフレリスクを認めたこと。 「米連邦準備制度理事会（FRB）のパウエル議長は28日の米上院公聴会で「（製品や労働力の）供給制約が思いのほか根強く、インフレがより強まるリスクがある」と指摘。」 このところ不可解な現象が起きています。コモディティ価格は利上げを織り込んで下落気味なのに、卸売り物価が高止まりしていること。これは4つの要因で説明できると私は思います。 第一は COVID-19によるサプライチェーン全体のヒトモノカネの目詰まりが起きていること 第二は COVID-19による需要のボラティリティが上がり設備投資に慎重な企業が多いこと 第三は米中覇権争いの深刻化で市場が分断されつつあること 第四は行き過ぎた急激な脱炭素シフトにより、石炭やガスなどの化石燃料が足りずにエネルギー価格が高騰している事 日本では総裁選が終わりましたが、総選挙まで政治の空白期間が続きます。この間隙をついて我が国金融市場への仕掛けのリスク販売あります。株式市場やREIT市況を注視する必要がありそうです。

この売却による収入は元建てでしょうかドル建てでしょうか。中国政府外貨準備高も330兆円相当あるものの長期的には減少傾向が続いています。ドルキャッシュの確保が重要でしょう。

問題なのは、殆どの都道府県が横並びの対応だということ。そんな中で宮城県知事は今回も制限撤廃と自主性を見せています。

最近FRBやECB文学を興味深く拝見しているのですが、今回はこれ。「手に負えない事態にならない限り、インフレ率の上昇リスクは乏しい」その対偶は、「インフレの上昇リスクが大きい時は、手に負えない事態になる」。それは当たり前であって、何の意味にもならないと思うのですが、市場関係者はその行間を読むのでしょうか。

霞ヶ関文学ならぬECB話法ですね。インフレは当初予想を上回る公算があるが、兆候はないというのはそれだけ読むと意味不明です。要は、足元の物価高は一時的・限定的なので利上げはしませんということが言いたいようです。一時的も1年も経てば一時的とは思えないのですが。