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米、中国による台湾周辺での軍事行動非難 「挑発的で不安定化招く」
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
実は、米国も中国も基本となるスタンスを変えていません。米国の「力による現状変更を許さない」という中国非難は、中国にとっては米国が中国の行動を妨害しようとしているように見えるのです。もちろん、中国がしようとしていることが日本や米国を始めとする国際社会にとって許容できない、武力行使を含む「力による現状変更」であるからこそ、米国も非難を強めているのですが、中国は強い権利意識と被害者意識を持っています。
尖閣諸島や台湾は中国の一部であるという権利意識に基づいて、どのような手段を取っても中国のものにすることが最優先です。一方の日本や米国は、武力行使をさせないことが最優先です。そうすると中国は効果の高い選択肢を奪われると感じ、「米国が不当にも中国の権利を侵害している」と非難することになります。
国連憲章が禁じていても自らが主張する権利を守るためであれば武力行使を躊躇なく行う専制主義国家と、武力行使をしてはならないという考えの民主主義国家の間では、価値観や意識が異なるということでしょう。
皮肉なことに、武力行使を選択肢の一つとしていつ実行するか分からない専制主義国家を抑止するためには、「してはならない」と言っても通用せず、「できない」ことを実力をもって示すしかないのです。
必然的に緊張は高まることになります。ただ、専制主義国家が「できる」状況を作り出そうとし、民主主義国家が「できない」ことを示すために、軍事的手段に加えて相互依存の武器化や経済制裁等といった経済的手段も多用されており、状況をより一層複雑にしています。
首相、NATO会議に出席検討 対中国、ロシアで欧米と連携
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
プーチン氏のウクライナ侵略は、現在の国際秩序を脅かすものであり、ルールに基づいた秩序を維持したいと考える国は地域に関係なく協力して対処しなければならないものです。米国内には、プーチン大統領のウクライナ侵略の真の意義は西側陣営に対する闘争であり、バイデン大統領がこれを見誤っているという議論があります。
そして、中国はプーチン大統領の真意を理解して、「ウクライナ危機は米国が始めたもので、米国がこれを煽り、米国だけが利益を得ている」と米国非難を繰り広げています。習近平主席は、プーチン大統領と同様の国際情勢認識を持っているのだと言えます。
こうした課題に取り組むのに「地域が異なる」とか「中国とロシアの二正面は無理」とは言っていられないのです。欧州はすでにそのことを理解しているようです。日本は単独で多正面対処ができる訳ではありません。同盟国である米国や欧州諸国と協力して初めて、ロシアにも中国にも多正面対処を強いることになります。さらに、日本、米国、欧州の協力と中ロの協力では、経済的にも軍事的にも差があります。中ロは孤立して戦っているという印象を持つでしょう。
問題は、日本には未だ欧州諸国との安全保障協力を実現するための基礎がないことです。日本は早急に国内の基礎固めをすべきでしょう。
戦闘機支援の無人機開発 日米、防空網強化へ技術協力
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
中国は、昨年11月の珠海航空ショーにおいて、無人機専用の大きなブースを設置し、多種の無人機を展示しました。中国人民解放軍は、近い将来の戦争は智能化戦争になるとして、すでにその兆候が見えるとしています。智能化戦争とは、無人機等を人工知能(AI)と融合したものであるとされ、その戦闘様相は「機械対機械」または「機械対人間」の戦いになると言います。中国人民解放軍は、この智能化を実現しようとしているのです。
中国は、プーチン大統領のウクライナ侵略の状況から多くの教訓を得ていますが、その中には、自軍の死傷者を最小限に抑えなければ、自国内の反戦、反体制の声が大きくなる、というものがあります。ロシアのように独裁色の濃い体制であって、暴力的に反プーチンの声を抑え込もうとしても、プーチン氏のウクライナ侵略に反対する声を完全に抑え込めず、却って広がりを見せ始めています。権威主義国家の最大の脅威は自国民です。中国は、台湾に武力侵攻しようとすれば、ごく短期間で、かつ自軍の死傷者を最小限にして占領を完了しなければならないと考えるでしょう。
現在の中国人民解放軍の渡海能力は全く不十分です。しかし、中国海軍は、強襲揚陸艦等の着上陸作戦に用いる艦艇の建造を急いでいないようです。このことからも、中国は陸上兵力を上陸させる前にAIと融合された自律型無人機で台湾軍を叩くことを考えている可能性もあります。
中国が想定する智能化戦争の戦闘には、自律型集団消耗戦、自律型潜伏突撃戦などの文字が見えます。台湾だけでなく、日本や米国もこうした戦闘に対応する必要があるのです。
米国務長官、ウクライナ対応で中国に「正しい教訓与える」
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
プーチン大統領がウクライナ侵略を開始した後も、米国の関心は中国にあります。ロシアにはすでに国際秩序を変えるだけの(経済力に基づいた)影響力がなく、米国に挑戦するのは台頭する中国だという認識があるのでしょう。
その中国が現在の国際秩序を無視して「力による現状変更」を強行したり、自らに都合の良い標準、ルール、規範などを国際社会に実装したりすることがないよう、抑止したいと米国は考えているのです。
特に中国が台湾に対して冒険主義的に武力行使することがないよう、プーチン氏のウクライナ侵略から誤った教訓を得ることがないよう、プーチン氏に成功させてはいけません。
プーチン氏が失敗したことを明確にするためには、ロシアがウクライナの領土を得てはいけませんし、国際社会の制裁によってロシア経済が回復困難な状況まで悪化しなければいけません。
一方で米国は、自らがウクライナとロシアの戦闘におけるゲーム・チェンジャーになることを慎重に避けています。例えば、米国が射程300キロメートルのロケット弾をウクライナに供与すれば、ロシア領内の兵站施設が攻撃される可能性があります。現在のウクライナとロシアは長射程の強大な火力による叩き合いという消耗戦を戦っています。補給は死活的に重要なのです。
ロシアの兵站基地が破壊され、前線のロシア軍への弾薬等の補給が滞れば、戦況は一気にウクライナ側に傾く可能性があります。米国は、自分のせいで戦闘の帰趨が決まるような状況を作りたくないのです。あくまでウクライナが自らの力でロシア軍を押し返すということにしたいということです。
現在、ロシアは射程70から90キロメートルのロケットでウクライナ軍を攻撃しています。超射程砲で壊滅的な打撃を与えた後に戦車等の装甲車両や歩兵が前進して領域を確保するのです。
ウクライナ側にも同様の兵器がありますが、数は圧倒的にロシアが多いのです。ウクライナ軍が使用する多くの兵器はロシアの超射程砲に届きません。米国が供与を決めたのは射程70から80キロメートルのロケットシステムです。これが供与されれば、数量にもよりますが、ロシアと対等に叩き合えるようになります。ゲームを変えるような兵器ではないということです。
米国は慎重にウクライナが勝利できるような支援を続けていますが、決してウクライナを敗北させないことが中国に対するメッセージにもなるのです。
中国軍、台湾周辺の海・空域で「戦備パトロール」
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
中国は、これまでも大型爆撃機による台湾周回飛行などを行っています。また、中国の戦闘機が台湾の防空識別圏に侵入したり、日台中間線を越えて台湾に接近する飛行も繰り返されてきました。そして、それらには、米国や台湾に対する政治的メッセージが込められています。
多くの台湾防空識別圏侵入は台湾の南西部で行われましたが、その針路はバシー海峡に向いています。こうした飛行は、米国やその同盟国の艦艇や航空機が台湾周辺海域で行動したり、太平洋から南シナ海に入ろうとするときに行われています。
昨年10月4日には、1日で54機の中国戦闘機が台湾南西空域の防空識別圏に侵入しました。その時は、AUKUS結成直後に、米国が日本、英国、オランダ、カナダ、ニュージーランドと共に6カ国海軍合同演習を行なっていたのです。中国は、カナダとニュージーランドは対中強硬姿勢が強くないのでAUKUSに加わらなかったと言ったばかりだったので、6カ国演習にカナダとニュージーランドが加わったのが刺激的だったと考えられます。中国はAUKUSのような軍事協力枠組みが拡大することに警戒感を強めていたのです。その後、6カ国海軍が南シナ海に入ったので、中国はそれらに対応するためにバシー海峡に向けて戦闘爆撃機などを飛ばしたのだと考えられます。
しかし、今回は中国自ら、わざわざ、台湾周辺界空域の「戦備パトロール」を行なったと公表したのは、台湾や米国に対するメッセージに他なりません。プーチン大統領によるウクライナ侵略は、台湾だけでなく、日本や米国も中国が台湾武力侵攻するのではないかという危機感を高める結果を招きました。
米国を中心として、中国の台湾武力侵攻を許さない、もし強行すれば米国は軍事介入すると表明する中、中国は台湾統一のために武力行使を含む全ての手段を放棄しない、台湾を軍事力を用いて「統一」する能力があると主張しなければならないのです。
しかし、ただの政治的メッセージだけで終わると考えて気を抜けば、中国にスキを見せることになります。現在、日米では中国の台湾武力侵攻のハードルは上がったと認識されていますが、だからといって中国の台湾武力行使に対する準備を怠ってはならないということです。
ウクライナに長距離砲供与せず=ロシア攻撃への使用警戒―米大統領
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
バイデン大統領が言うロケットシステムは、多連装ロケットシステム(MLRS: Multipul Launch Rocket System)のことでしょう。MLRSは、発射ポッドを入れ替えると、ロケット弾も短距離弾道ミサイルも発射可能です。米国が心配しているのは、射程が300キロメートルある短距離弾道ミサイルの供与であると思われます。一方のロケット弾は射程70キロメートルですので、現在、東部でウクライナが抑えている地域からロシア領内の兵站基地を攻撃するといった、米国が恐れるような攻撃はできないと考えられます。
現在、ウクライナとロシアは、大きな火力で叩き合うという消耗戦を戦っています。撃ち合う時には、当然のことながら射程の長い方が有利です。現在、ロシアが攻撃に使用しているロケットは射程が70から90キロメートルあります。一方のウクライナも同じロケットシステムを持っていますが、数は圧倒的にロシアが多いのです。その他、ウクライナ軍が使用している超射程の兵器は、米国なども提供している榴弾砲ですが、射程は30キロメートル以下なので、ロシアのロケットシステムを攻撃することはできません。強力な火力でロシアと対等に叩き合うためには、ウクライナにはロシアのロケットシステムと同等の射程を持った兵器が同等の数だけ必要なのです。
戦闘は、結局大きい方が勝ちます。兵力(兵員の数)、相手に届く火力が大きい方が勝つのです。また、火力が同等であっても、同様に消耗していけば、やはり兵力の多い方が最後には兵力を残します。ウクライナとロシアが戦っている消耗戦では、どちらかが消耗し尽くせば、鍋の底が抜けたように急激に一方がなだれ込むような状況になります。
ウクライナでは男性の国民が志願して兵士となっており、すでに30万人以上を動員したと言われていますが、ロシアと同等の射程を持った兵器がなければ、ウクライナ側の消耗がロシア側より大きくなり、劣勢に追い込まれる可能性があるのです。バイデン大統領にとってはロシアとの衝突を避けることが最優先のようですが、そのためにウクライナ軍はさらに多くの死傷者を出しながら、自国を守るための戦いを続けることになります。
中国の宇宙ステーション、建設進む-数日中に飛行士3人送り込む
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
中国の各種宇宙開発は三段階で進められています。中国では「三歩走」と言われ、直訳すると「三歩で行く」という意味になります。中国の宇宙ステーションの完成は、有人宇宙開発の三段階の第三段階に当たります。
中国の有人宇宙開発の第一段階は、有人飛行船を発射して宇宙を往復する初歩的・実験的段階であり、神州1号(1999年11月)から神州6号(2005年10月)によって実現されました。
第二段階は、宇宙船と宇宙ステーションのドッキングおよび宇宙実験室での短期滞在であり、神州11号(2016年10月)によって運ばれた宇宙飛行士が天宮2号に30日間滞在しました。
第三段階は、長期滞在型「天宮」宇宙ステーションの完成であり、2022年(今年)に完成させるとしていました。
有人宇宙開発の「三歩走」発展戦略は921工程と呼ばれ、1992年9月21日に開始されたものですが、そもそもは1986年に鄧小平が指示した「863計画」がその原型です。中国の宇宙開発は、若干の遅れはあるものの、経済力が十分でない時代からブレることなく進められてきたのです。
現在の国際宇宙ステーション(ISS)は、延命しましたが、2024年にはその活動を終える計画です。それ以降は中国の宇宙ステーションだけが存在することになります。
ロシアは、この状況を良しとせず、ISSのロシアの部分だけを切り離して、2024年以降も運用するとしています。2016年に就任した有人宇宙工程副総指揮は、中央軍事委員会装備発展部の副部長でした。宇宙の開発も、安全保障に関係しているのです。
韓国、日本EEZ内で調査 中止要求に応答せず
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
韓国は大統領が代わり、日本との関係改善を期待する声も多く聞かれますが、短期間のうちに日韓関係が劇的に改善することは難しいでしょう。韓国では、大統領選挙と議会選挙の時期がズレているので、新しい尹大統領は、野党が優勢な議会と政策をめぐって対立を続けることになるでしょう。また、大統領選挙では僅差での勝利でしたから、国民の圧倒的支持を背景にして政策を通すことも難しいでしょう。さらに、尹大統領が自らの政策を進められるようになったとしても、領土問題で譲歩することはできないと考えられます。
しかし、韓国は、日本と同様、米国の同盟国であり、専制主義国家の実力による現状変更を抑止するためのグローバルな協力の中にも入ってもらわなければなりません。日本は、韓国の対日政策が劇的に変わらないからと言って、その反動で韓国に対する反発を強めたのでは、尹大統領の立場をより悪くし、かえって協力の輪から追い出すことになるかもしれないことを認識する必要があります。
一方で、日本も竹島の問題で韓国に譲歩することはありません。竹島は日本の領土なのです。領土問題は双方ともに退くことのできない問題であることを認識する必要があります。
問題は歴史問題です。先述の尹大統領の立場を考えると、歴史問題も簡単に解決するのは難しいでしょう。
中国とサモアが協力強化=安保も議論、豪に協力呼び掛け
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
中国は経済力をテコにして太平洋島嶼国に対する影響力拡大を狙っています。王毅外相は、「中国とソロモン諸島の協力関係が他の太平洋島嶼国の手本となることを期待する」と述べていますが、それは、他の太平洋島嶼国との協力関係の中にも安全保障協力を含みたいという意味であるとも考えられます。
一方で、太平洋島嶼国の中には中国の軍事的影響力の拡大を懸念する声があります。中国としては、こうした太平洋島嶼国の懸念を和らげるために、自らが単独で太平洋島嶼国と安全保障協力をするのではなく、オーストラリアやニュージーランドと共に協力するという意図を示そうとしたのだと考えられます。
また、このような呼びかけに対してオーストラリアやニュージーランドが拒否の姿勢を示せば、反対に米国およびその同盟国こそが同地域において軍事的野心を持っているかのように受け取られることになりかねません。中国は、太平洋島嶼国との協力を用いてオーストラリアやニュージーランドと米国の間にも隙間を作りたいと考えているのかもしれません。
米、対中覇権争いに注力 ブリンケン国務長官が政策演説
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
米国は、ロシアによるウクライナ武力侵攻が起きた後も、国際秩序を脅かす最大の脅威は中国であるという認識を変えていないということです。中国とロシアの最大の差異は経済力でしょう。
米国と中国は碁を打っているかのように、自らに有利な国際情勢を作り出そうと、東南アジア、太平洋島嶼国、そしてラテン・アメリカおよびカリブ諸国で影響力拡大の競争を行なっています。現在の世界は、米ソ冷戦期のように二分割できるほど経済関係が単純ではありません。米中は重なる地域で影響力行使の競争をしているのです。昨年11月に公表された米中経済安全保障調査委員会の議会報告書は、米国が、中国が経済支援や投資をテコにラテン・アメリカおよびカリブ諸国との軍事協力を進めようとしていることに強い警戒感を示しています。
現在の影響力拡大のカギは経済なのです。その意味で、米国にとってロシアはすでに大きな課題ではなく、中国こそが米国の国際社会における指導的地位を脅かす対象であると認識されているのでしょう。QUADの共同声明でも東南アジア諸国や太平洋島嶼国への支持や支援が謳われていますが、中国の経済支援や投資を用いた影響力拡大を阻止しようとする米国の意思の表れと言えます。
統合運用へ連携強化 水陸機動団が海自との合同訓練を公開【長崎】
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
自衛隊も統合運用を進めてきましたが、日米の軍事的統合も進める必要に迫られる中、陸・海・空自衛隊の統合は待ったなしの状況にあると言えます。昨年12月には、米国のオースティン国防長官が、米国の国家安全保障戦略の根幹となるのは「統合抑止」であると述べています。統合抑止は、陸・海・空・サイバー空間、宇宙等の領域の統合だけでなく、軍民の統合、同盟国間の統合も含む広い概念であると認識されています。日米の軍事的統合を進めるにしても、自衛隊内の統合運用はその基盤となるものです。
自衛隊の統合運用は、自衛隊の努力にもかかわらず、これまで必ずしも順調であった訳ではありません。海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」は戦車であれば10両ほど輸送できますが、数としては多くありません。陸上兵力の輸送も念頭に置いて設計された護衛艦「ひゅうが」級や「いずも」級は、故意に、戦車等の大型車両がロールイン・ロールオフ(自走して乗艦し退艦すること)できないように、車両昇降用のランプが小さく強度も弱く設計させられています。兵力を海外に輸送する能力を持つことになるという、政治のレベルでの判断だとも言われます。
日本では、これまで、自国防衛の能力を構築することよりも、原理主義的な専守防衛の議論が優先されてきたのだと言えます。地域における緊張が高まる中、日本も自国防衛のためにどのような能力をどの程度のレベルで保有するべきなのかについて議論する時期にきていると思います。
【日米首脳会談】首相、バイデン米大統領と会談、インド太平洋で抑止力強化
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
日本では、これまで、「日本が望んでいないにもかかわらず、米国の戦争に巻き込まれる」といういわゆる「巻き込まれ論」が論じられてきましたが、現在、欧州やアジア諸国で懸念されているのは、自分達が必要としているにもかかわらず、米国が介入しないのではないか、ということです。この二つは、安全保障の相反する二つのジレンマと言われています。
バイデン大統領が日本や韓国を訪問しているのも、こうした懸念を払拭したいと考えるからでもあります。バイデン大統領は、日本と韓国に対する核を含む拡大抑止を確認しました。
今回のバイデン大統領の訪韓では、米国の経済安全保障の重視が際立ちましたが、日米首脳会談でも半導体等の戦略的に重要な物資のサプライチェーンの再構築についての協力についても話し合われていると思われます。
中国外相、IPEFけん制=「陣営化できない」
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
中国が敏感に、そして強烈に反応するのは警戒感を強めているからに他なりません。IPEFは緩やかな枠組みで、特に関税の引き下げを伴わないために、米国が参加するに当たって米国内で議会の承認を得る必要がありません。TPPとは異なり、米国は間違いなくIPEFに加わるということでしょう。
一方で、経済枠組みであるにも関わらず、関税の引き下げを伴わないことは、東南アジア諸国等にとって魅力的に映らないことも確かです。中国による「相互依存の武器化」を無力化するためには、米国と同盟国だけでなく、東南アジア諸国の参加を得てサプライチェーンを組み直すことが必要です。
中国は東南アジア諸国に対する経済支援等を利用した影響力強化を図っています。米国が主導するインド太平洋の経済枠組みが始動すれば、中国はこの地域における影響力工作を強化すると考えられます。
日本や米国は、東南アジア諸国は経済的恩恵が得られず、単に「ルール・ベースド・オーダー」を掲げても関心を示さないという現実を理解し、これら国々の協力を得られる枠組みを考えなければなりません。
中国外交部「国際社会は中国の立場を支持」 台湾のWHO総会参加問題
小原 凡司笹川平和財団 上席研究員
「国際社会は中国を支持している」というのは、中国が常に主張していることです。中国は、欧米が言う「国際社会」は本当の国際社会ではなく、欧米の一部を指しているに過ぎないと言います。現在の国際秩序も欧米諸国が勝手に決めたものであるということです。中国は、自らに都合の良い標準、ルール、規範を国際社会に実装しようとしています。
中国は、自ら国際社会を主導したいと考えており、その中では世界各国は中国を支持することが求められます。そのために中国は、経済力などを用いて各国に対する影響力を強めてきました。中国との関係に配慮して、中国の主張を支持した国もあるでしょう。
さらに、世界には人権などの問題を指摘されたくない国が多くあります。そうした国の中には米国に反感を持っている国もあるのです。中国が主張していることも全てが嘘だという訳ではないかもしれません。

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