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FRB、銀行への流動性供給方法を再考すべき=NY連銀
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
銀行に対する流動性供給スキームを再検討するのであれば、discount windowについては、決済事故対策のような一次的かつ機動的な手段としての位置付けをより明確化し、常設の手段としてアクセスを容易にすることが望ましいように思います。
合わせて、金融機関に対しては、必要な際にこのファシリティを円滑に利用しうるよう、適格な担保を常時維持するように求めることも有用です。
これに対し、信用リスクや金利リスクの管理に問題があるために市場の信認を喪失し、資金調達が困難となった金融機関に対しては、報告書が示唆するように別途の資金供給スキームを活用することが考えられます。
その上で、モラルハザードの防止の観点では、FRBが必要と認める際だけにスキームを導入することが望ましい一方、そうするとスキームの導入自体が市場の不安心理を増幅しかねない点で悩ましさがあります。
IMF、日本の変動相場制へのコミットメントを支持
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
確かに、いわゆるトリレンマの下で日本が変動相場を概ね尊重してきたことは、金融政策を他国に比べて根強かった低インフレ対応に割当てることを可能としただけでなく、円滑な資本フローを維持した点で意義を有したとは思います。
それでも、まさに3つの要素(為替相場の安定、金融政策の独立、自由な資本フロー)を全て実現することができない以上、国内外の経済環境の変化に即して、どれを相対的に重視し、どれを相対的に犠牲にするかを柔軟に変化させていくことも必要です。
従って、変動相場へのコミットも過去の日本経済にとっては適切であったとしても、経常収支の構造や企業や家計による物価の「ノルム」が大きく変化した現在では、そのウエイトづけに関して考え直す考える必要があるようにも思います。
1ドル160円突破に大慌てでも…日銀「2度の為替介入」は戦略的に凄かったと言えるワケ
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
記事が指摘するように、5月FOMCは為替市場の節目として意識されていただけに、為替介入を行う上でタイミングが良かったことには同感です。
その上で、個人的には、大型連休の途中で本邦勢の市場参加が少なく、流動性が低下する局面での為替介入が、どのような意味を持ちうるかという点でも興味深い事例になっていると思います。
本来であれば、比較的少額の介入でも市場の反応を導くことができるはずである一方、日銀の当座預金統計から推測する限り、巨額の為替介入であったことが示唆されています。この点には、今や、為替介入が電子プラットフォーム経由で行われていることが関係しているかも知れません。
つまり、電子プラットフォームを用いた為替介入では、一回あたりの規模が従来よりも巨大化する点で政策効果を強めている一方、外貨準備の減少ペースも従来とは比べ物にならない速さになってしまうことにも注意する必要があります。
再送-インタビュー:金利も市場機能働く本来の姿に=金融政策で加藤元官房長官
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
国内に投資を呼び込むという点で、いわゆるリパトリ減税を含めて、政府が政策を発動する上では、大きく3つのポイントがあると思います。
第一に、減税を含む国内投資への支援措置は時限的なものとする必要があります。一見すると政策効果が乏しくなるように思えますが、時限措置とすることで企業に迅速な意思決定を促すことが期待されます。同時に、国際金融界から「近隣窮乏化」との批判を受けるリスクも抑制できます。
第二に、サプライチェーンの強靭化や経済安全保障の確保という色彩を備えることが望まれます。この点は、この政策措置に対する国内外からの支持を強化することに繋がるだけでなく、円安対策のような短期的な意味あいが終わった後にも、日本経済に中長期のメリットをもたらす上で重要です。
なお、この点に関しては、本邦企業だけを支援措置の対象とするのかどうかという論点もあります。円安対策としての意義だけに着目すれば、海外企業による日本国内への投資も対象にすべきことになりますが、私は上記の検討を踏まえると、本邦企業(例えば連結会計の対象先まで)とするのが整合的のように思います。
第三に、減税を含む支援措置は、海外収益の単なる国内回帰だけでなく、その資金を使った設備や人材への投資、R&D活動の強化などに対して、より手厚く適用される必要があります。もちろん、時限措置の期間内に実際の投資を義務付けるのは難しい面があるので、実務的には、支援措置を受けようとする企業による投資計画等を当局が承認するといった対応が考えられます。
円安で「金融政策の正常化が速まる可能性」
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
今回の「主な意見」では、物価に関する議論の中で、多数のメンバーが基調的物価の上昇リスクを指摘し、政策金利の前倒しないし想定以上の引き上げの可能性を示唆した点が注目されます。
これらの見解はあくまでも将来について言及しているので、その意味ではMPM直後の植田総裁の会見と矛盾してはいませんが、印象やトーンという意味ではやや異なる印象を受けました。
加えて、量的質的金融緩和に伴う大量の保有資産の削減についても、多くのメンバーが議論を提起したことが目立ちます。
このうち、ETFについてはやや長期的課題との位置付けがされましたが、国債については、フローの買い入れ額の抑制だけでなく、適切な保有量や準備預金量との観点から、ストックの残高についても圧縮に着手すべきとの意見が注目されます。
つまり、事前に一部のメディアが報道したように、4月のMPMにおいては、執行部が主導する形で、量的引き締め(QT)に関する論点も明示的にアジェンダであった可能性があります。
上記の全体を踏まえると、4月のMPMでの議論は全体として想定以上にタカ派、かつ正常化論が支配的であった印象を受けます。
物価見通しの上振れとリスク大きくなれば金利早めに調整-日銀総裁
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
植田総裁は、4月のMPM直後の会見でも、今回の講演でも、為替相場の変動が「基調的」な物価に影響する場合には金融政策で対応すると言っており、その点では変化はなく、一貫した説明を行っています。
また、円安が実際に「基調的」な物価に影響しているか否かについては、4月のMPM直後の会見では、現時点の評価として否定的な見方を明示した一方、その後の国会答弁や今回の講演では、将来に向けたリスクがあるとの見方を強調しており、この点でも矛盾はありません。
その上で、コミュニケーションポリシーの観点からは、「基調的」の部分を無視する一部の報道や、円安の原因を全て金融緩和に帰する批判に対して、植田総裁が政策運営の真意を伝えるために説明振りを変えることには意味もあります。
しかし、政策運営の考え方自体を現時点で修正する必要性には疑問が残ります。仮に短期的な円安対策として利上げを急いだ場合、資産価格全般の調整や経済全体の資金調達コストの上昇といった事態に直面し、逆方向からの批判に直面する可能性は小さくありません。数年前に、政府のコロナ対策を巡って世論が二転三転したこととよく似た話です。
金融政策にとってより本質的な問題としては、植田総裁が提起したように、為替相場の同じ変動が基調的物価に及ぼす影響が従来よりも大きくなっているのかどうかが、むしろ気になります。
企業や家計の「ノルム」が変わったことは事実としても、円安による輸入物価の上昇が「基調的」な物価に大きく影響するには総需要が相応に強いことが必要であるだけに、私自身は少なくとも現時点でそこまで強気にはなれません。
神田真人財務官、円の信認維持には「努力必要」 円安進行で - 日本経済新聞
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
既に様々なピックで指摘したように、円安に伴う「国力」の低下が問題なのであれば、日本経済の長期的な成長力の強化が必要であり、私は神田財務官のコメントを支持します。
経済成長力の強化にはいずれにしても時間がかかるだけに、できるだけ早期に具体策を打ち出していくことが、資本フローの流れを変えるためにも重要です。
しかし、皮肉なことに、日本では日銀を含む国内投資家が国債の現物の殆どを保有しているだけに、日本経済への信認の低下が生じても、海外投資家の圧力による長期金利の上昇に直結しないことも、経済対策の策定や発動に対するモティベーションを阻害している面があります。
もちろん、だからといって、日銀が長期金利への配慮を放棄してしまえば、本物の財政危機や通貨危機に対するトリガーを引きかねず、リスクが大きすぎるように見えます。
少なくとも理屈の上では、1990年代の中頃に金融システム不安の解消に関して議論があったように、「筋書きのある危機」(managed crisis)のようなものが実現できればよいのですが、実際の政策運営でそんなうまいことを実現するのは至難の業ではあります。
新札発行後も旧札使用可能、新円切り替えとは全く異なる=鈴木財務相
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
日銀が過去に発行した全ての銀行券を有効としていることは、日本における銀行券に対する信任の高さを支える一因であり、かつ先進国でも稀有な例でもあります。
実際、海外では、銀行券の改札の理由が偽造対策であることが多いので、新札の発行開始後に一定の期間をおいた上で、旧札を実質的に使用を困難化する例が見られます。久しぶりに海外旅行に行った際に、お店で旧札を受け取ってもらえなかった経験をされた方もおられると思います。
ただし、日本で全ての銀行券を有効とする枠組みを維持するためには、金融機関や公共機関、店舗等が実質的なコストを負担していることにも注意する必要があります。
銀行券を安心して使用できるようにすることは、ユニバーサルサービスの一環として、日銀の重要な役割ではありますが、将来にデジタル通貨を導入する場合には、銀行券との併存のあり方なども含めて、通貨のスイッチのあり方やそのコストの負担等が重要な論点となります。
【緊急解説】いま「超円安」が止まらない理由
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
為替レートがどちらの方向に動くかは、あくまでも経済全体の様々な現象の集約的な結果に過ぎないわけであり、必ずしも望ましい例えではありませんが、我々が高熱になったり、低体温症になったりすることと似ています。
余りにも急激な体温の上昇や低下であれば、そのこと自体が多くの臓器にダメージを与えるのは事実なので、薬剤等を使って至急に止めにかかることには意味がありますが、より本質的には、体温変化の根源的な病原を突き詰めて、適切な治療をしない限り、事態は解決しません。
過去の諸外国を含むケースに照らす限り、今回の円安が「国力」に係る重大な事態であるとの議論は必ずしも説得的ではありません。但し、今回の円安を契機に、日本経済の長期的な成長の展望やそのための対応をより真剣に考えるのであれば、それは決して悪いことではないし、将来の何処かで本当の危機に見舞われた際に備える予習としても意味があると思います。
政治的には、為替介入のような「解熱剤」を使用せざるを得ないことも理解できます。但し、例えば、外為資金特会からの一般会計繰入を、円安で影響を受ける家計や企業向けの経済対策に紐づけるといった対応の方が、円安メリットの還元ないし共有という意味でアピールするように思います。
米FRB 政策金利「据え置き」決定 早期利下げ慎重姿勢
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
Youtubeで記者会見全体を通して見ましたが、パウエル議長の発言はバランスの取れた内容であり、市場の一部に事前に懸念があったほどにはタカ派的なトーンでなかったと思います。
確かに、声明文では、年初来のインフレ率が想定以上に高いことを指摘した上で、記者会見の冒頭説明では、インフレ目標に収斂する動きに確信が持てるまでに以前の想定以上に時間を要することを認めています。また、本年中の利下げ回数のメドについても明言を避けました。
ただし、これらの見解は既往の講演等で既に明らかになっていた内容でもあります。
むしろ、今回の記者会見では、インフレが再加速して利上げを余儀なくされる可能性は低いとの見方を示したほか、労働市場の正常化が進んできた下で、今後は高い政策金利による労働市場への影響にも従来以上に注意すべきといった発言を行った点も注目すべきだと思います。
個人的には生産性の動きを巡る質疑も興味深く思いました。ウイリアムス副議長が、生産性の上昇ひいては自然利子率の上昇を根拠に、金融引き締めが想定ほど効果を発揮していないのではないかと主張していることを念頭に置いた質問でしたが、パウエル議長は否定的な考えを示しました。
その理由として、第一に、コロナ後に生産性は一旦大きく減速した後、足元で回復しているのであり、やや長い目でみれば一方的な動きではない点を指摘しました。第二には、潜在成長率の回復には生産性より労働投入の影響が大きいだけに、労働者が消費を増やせば、結果的には総需要と総供給のバランスは大きく変わらない点を挙げました。
いずれにしても、FRBによる政策運営は経済構造論と一定の距離を置くべきとの考えを示唆した点で、望ましいスタンスだと思います。
34年ぶりの円安水準で注目される「リパトリ減税」導入、6月の骨太方針に明記の可能性も
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
29日に円安が進行した際に、私が別のピックで既に取り上げたように、リパトリ減税は、円安の根源的な原因であるクロスボーダーの資本フローを反転させることが期待されます。
しかも、為替市場への介入や直接的な資本規制とは違って、政策の対象が主として国内企業になる点で国際金融市場や相手国の批判を受け難いほか、現在の局面では我が国の経済安全保障とも整合的に設計することが可能です。
米国の先例を見ると、為替相場への定量的な影響には賛否も分かれる面もありますが、この局面では市場の一方的な円安予想に?マークをつけるだけでも十分に有効だと思います。
一時1ドル160円台に 市場は政府・日銀介入への警戒感続く
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
経済政策としての是非はともかく、どうしても円安を止めたいとすれば、あとはクロスボーダーの資本フローに影響を及ぼしうる措置しか選択肢がないように思います。
まず、国内から海外への資本フローを抑制する上では、いわゆる円投投資に焦点を当てることが考えられます。
もちろん、IMFの加盟国である以上、国内の投資家に対して直接に対外投資を規制することは困難です。それでも、例えば円投のための為替スワップに関わる投資家のリスク管理に対して、監督当局がより厳格にチェックする姿勢を示すといった対応は、金融リスクの抑制という観点で合理化しうる面があります。
一方、海外から国内への資本フローを促進する上では、日本企業が海外に留保している利益を国内にリパトリすることに対して、税制面等で優遇を図ることが考えられます。
これは米国等に先例があるだけでなく、現在の日本にとってサプライチェーンの強靭化といった経済安全保障上のメリットによって合理化しうる面があります。
これらの措置では「投機筋」が対象から漏れるので意味がないとの反論もありそうですが、「投機筋」は一定の期間毎に利益を確定する必要がある点を思い出すことが必要です。
つまり、「投機筋」だけで持続的な円安を作り出すことはできず、上記のような「実需筋」による資本フローが提供する外貨の売り機会がなければ、ビジネスとして成り立たない訳です。従って、上記のような措置によって利益確定の機会が喪失するおそれを提示するだけでも、一定の効果が期待できるように思います。
いずれにしても、資本フローに影響を及ぼす措置は文字通りの「劇薬」であり、G7のメンバーである先進国として如何なものかという批判は当然に考えられますが、少なくとも国内では円安による「国力」の低下を憂う論調が強まっているだけに、むしろすんなり受け入れられるかもしれません。
日銀、政策金利を据え置き 決定会合、物価見通しは引き上げ
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
今回の展望レポートを前回と比較しつつ読んでみました。
まず、景気に関しては本年度についてやや慎重化したことが目立ちますが、主因は前年度後半のマイナスのゲタや自動車の供給制約であったと整理しており、将来に向けて持続性のある要因ではないとの考えを示唆しています。
加えて、リスクバランスチャートを見ても、本年度の経済成長率見通しはかなりばらついており、上記の下押し要因の影響についても見方が分かれていることがわかります。
一方、物価に関しては本年度について相応に引き上げたことが目立ちますが、主因は原油価格の足元での上昇であると整理しており、この点はMPMメンバーによる本年度のインフレ率見通しにおけるコアとコアコアとのギャップと整合的になっています。
一方、展望レポートで物価の先行きリスクを論ずる中で、賃金上昇から価格への転嫁をメインシナリオとしつつ、中小企業における賃金引き上げの持続性の不確実性や、総需要が弱含んだ場合の価格転嫁の困難化といった下方要素も取り上げられていた点はやや気になりました。
最後に、金融政策の運営については、展望レポートが当面は緩和的な金融環境の維持を示唆したことが重要です。ただし、日銀は政策金利が中立水準以下である限りは緩和的であると主張できる訳であり、この文言が追加利上げを全て排除した訳ではないことにも注意する必要があります。
為替介入は「例外的環境下のみ」 G7合意順守を―米財務長官
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
既に他のピッカーの方々が指摘されたように、米国政府が為替介入の容認を公言することは、金融危機のような非常事態でもなければ考えられないですし、イエレン長官の発言も従来の原則を確認しただけである点では、特に日本を念頭に牽制したと理解するのは行き過ぎのような気がします。
一方で、この発言を米国内での文脈として考え直してみると、別の側面も浮かび上がって来ます。
日本が仮に円買い介入を実施するということは、市場で代わりにドルを売ることを意味し、そのためには日本が外貨準備を取り崩す必要があります。この点は、米国の金融市場では、日本政府による米国債の売りに伴う長期金利の上昇の思惑を生ずるリスクがあります。
日本政府も、米国金利への影響を抑止するよう、市場外での資産売却を行うといった対策を講じるとは思います。それでも、米国政府が長期金利の上昇がこれ以上加速することを望まないとすれば、日本の為替介入が上記のような思惑を生む恐れは避けたいと思うかもしれません。
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