ベネッセ・HRBrainを買収。スウェーデンの投資会社EQTとは

2023年11月29日
全体に公開

スウェーデンの投資会社「EQT」がベネッセの2000億円MBO(経営陣が参加する買収)の参加に加え、スタートアップ「HRBrain」の過半数株式を取得と、日本での本格的な投資に動き始めました。

このEQTは北欧最大のPEファンドですが、なぜ日本でも投資を始めたのでしょうか。

そして、そもそもEQTはどんな投資会社なのかを紹介します。

☕️coffee break

EQTはスウェーデン最大の財閥、ウォーレンバーグ(ヴァレンベリ)家の投資会社などにより、1994年にストックホルムで設立されました。

2019年9月にはナスダック・ストックホルム市場(スウェーデンの証券取引所)に上場して以来、米国やアジアも拡大し、現在は約20ヵ国に拠点を構えて、投資活動を行っています。

EQTのコーポレートサイト

そして、2021年にEQTパートナーズジャパンを設立して、日本での投資にも動き始めました。コロナ禍を経て事業モデルの再構築に動く企業・株価純資産倍率(PBR)の低い上場企業へのPE投資、インフラ・不動産投資をメインとしています。

2022年にはアジア最大級のPEファンド、ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)を買収・統合して、BPEA EQTアジアとして、アジア事業の拡大を狙っています。

同年には総額112億ドル(約1.6兆円)のアジア向けファンドを設立しており、今後2-3年でこのうちの30億ドル(約4400億円)が日本でのPE投資に充てられる予定です。

BPEAはカーナビのパイオニア社、医薬品受託製造の武州製薬など、日本で9件の投資実績があります。

加えて、PEチームを率いる鬼塚哲郎氏はタカラトミーに投資をしたTPGキャピタルで日本代表を経て、日本郵政グループのJPインベストメントの創業メンバーを務めるなど、日本企業へのPE投資を熟知しているのです。

2022年10月には鬼塚氏がロイターのインタビューで「金融市場の混乱にもかかわらず、日本で過去最多に近い投資案件のパイプラインがある」と話しており、徐々に投資案件が開示されていくのではないでしょうか。

🍪もっとくわしく

EQTによる日本企業への1件目・2件目の投資である、ベネッセとHRBrainへの投資をおさらいしておきましょう。

「ベネッセのMBO」

11月10日、ベネッセホールディングスは経営陣による買収(MBO)を行い、非上場化することを発表しました

前日9日の終値に対して、45%のプレミアムを加え、最大2079億円と、国内で過去最大規模のMBOをEQTと共同で実施します。

ベネッセは2014年に最大3504万件の大規模な個人情報流出事件を起こしたことや、競合の台頭などで苦戦を強いられていました。

主力の子供向け教育事業「進研ゼミ」と「こどもちゃれんじ」の会員数は、10年で約4割減少した上、市場は少子化で縮小し続けているため、抜本的な立て直しの必要性が生じていました。

EQTとともに非公開化することで、

  • 教育事業のデジタル化
  • 海外向け教育事業の強化
  • 介護事業のM&A

などを行い、事業変革を狙っているのです。

EQTとベネッセの経営陣(創業家)はそれぞれ6:4の出資比率となり、議決権比率は50対50となる予定です。

「HRBrain(エイチアールブレイン)株式の過半数取得」

HRBrainタレントマネジメントのサイト

HRBrainは2016年にサイバーエージェントで、アメーバブログやWebサイト作成サービス「Ameba Ownd」などの責任者を務められていた堀浩輝氏が創業しました。

展開している事業は人材データの一元管理を行い、人事評価・労務管理・従業員サーベイなど人材マネジメントにフォーカスしたHRソフトウェア「HRBrainシリーズ」です。

現在、上場企業を中心に中長期的な企業価値向上の厳選として、人的資本への投資とその情報開示を投資家から求められており、人材資本関連の事業を展開する企業にとっては追い風の市場です。

現時点でHRBrainは人的資本分野のソフトウェア企業でプラスアルファ・コンサルティング、カオナビに次いで3番目に売上高が高い企業(EQTによる調査)。

評価額は2022年1月時点で214億円(INITIAL推測)ですが、ソフトウェア分野で様々な投資実績を有するEQTの支援を受けることで、評価額10億ドル(約1500億円)のユニコーン級まで成長してから、IPOを狙うというのです。

🍫ちなみに

EQTグループでインパクト投資(財務的リターンと社会的リターンの両立を目指す投資)を行うEQT Foundationもアジアで投資活動に動き始めました。

2023年9月にはアジアで1件目の案件として、レーザー核融合商用炉を開発する大阪のスタートアップ、EX-Fusion(エクスフュージョン)に出資しています。

EQTの投資は地政学リスクの低い日本に対して、海外投資家から注目が集まっている象徴でもあります。

これらの投資事例で成功への兆しが見えると、さらに多くの海外投資家が日本で投資活動を本格化させるでしょう。

サムネイル画像:Unsplash/Nakaharu Line

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