【政府基金のルール変更】試されるディープテック・スタートアップ

2024年5月14日
全体に公開

2023年度より経済産業省主導の下、「ディープテック・スタートアップ支援事業」が開始され、ディープテック・スタートアップの実用化から量産に至る過程で大規模な支援が提供されています。

支援事業のもと2034年度まで運営する基金では、1000億円の予算が確保されており、1社あたり最大で30億円の助成金が交付されるなど、スタートアップを飛躍させる手厚い支援なんです。

しかし、政府基金のルール変更により、「ディープテック・スタートアップ支援事業」にも運用継続に向けた高い成果が求められるようになるのです。詳しく見ていきましょう。

サムネイル画像:DALL·E 3での生成

☕️coffee break

2023年度、政府は経済産業省を管轄に「ディープテック・スタートアップ支援事業(以下、DTSU事業)」を立ち上げ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2034年度までの12年で1000億円を管理・運用することになりました。

ここで定義されているディープテックとは、

・特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術

・事業化・社会実装を実現できれば、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決

・社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術

のこと。

こうした企業は、研究開発の成果獲得・事業化・社会実装までに長期間を要すると共に、多額の資金を要するといった課題があります。

ベンチャーキャピタルなどからのリスクマネーの供給が十分でないからこそ、政府が支援して、イノベーションの循環を作って、社会課題の解決事例を生み出す必要性があるのです。

支援対象は、VCから資金調達済みのシード〜アーリーのディープテック・スタートアップ。支援にあたっての審査内容にはスタートアップの事業性だけではなく、株主であるVCのハンズオン(経営支援)体制・能力・実績・関与の仕方なども含まれています。

経産省資料:ディープテック・スタートアップ支援事業について(令和5年2月)

採択後は1社あたり最大で30億円を交付することで、実用化(初期)→実用化(後期)→量産実証までを一気通貫で支援し、商用化までのスピード・確率向上につなげることが狙いです。

これまでの採択企業一覧:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100250.html

🍪もっとくわしく

4月22日に開かれた行政改革推進会議において、国の基金全体(200事業(152基金))の点検・見直しをした結果が公表され、十分な効果を上げていない基金については国庫に返納することを求める方針に変更されることが明らかになりました。

点検・見直しの過程で、全事業で定量的な短期アウトカム(3年程度)と成果目標が設定されると共に、基金の運用は原則10年と定められました。

加えて、予算措置は3年程度とし、事業の目標の達成状況により、運用期間が残っていても廃止されることになったのです。

前述したディープテック・スタートアップ支援(DTSU)事業においても成果目標が定められています(詳細は基金シート:ダウンロードURL)。

「DTSU支援事業各フェーズの成果目標」

・アウトプット(活動実績)
各年度の支援数

・短期アウトカム(成果目標)
支援終了から1年以内に次回ラウンドでの資金調達を実施する企業を5割以上とする
(量産化実証支援の場合は、支援終了から1年以内に資金調達もしくは商用生産開始が5割以上)

・中期アウトカム(成果目標)
ディープテック・スタートアップのエコシステムの成長・活性化に寄与したかどうか、多様な関係者へのヒアリングを通じて5段階評価を集計。上位2段階以上の評価の割合を全体の50%以上とする

・長期アウトカム(成果目標)
2032年度までにディープテック分野から10社以上のユニコーン企業創出に寄与する

当初、経産省はこのDTSU事業において、革新的な技術を活用して事業化・社会実装を目指すスタートアップを支援することから、短期ではなく、長期(最長6年)で柔軟に支援を見直せる体制構築の必要性を指摘していました。

しかし、今回基金全体のルールが変更になることで、短期アウトカムの達成に重点が置かれ、これまでとは真逆の方針になるのです。

例えば、短期アウトカムについては、米国のテック・スタートアップがシード→シリーズAを1年で行う比率が約5割であることをもとに、より事業進捗に時間がかかるディープテックにも同様の目標が定められています。

日本においてはディープテック分野での投資家が少なく、大型の資金調達が難しい中、これまではVCからの調達資金で、採用・特許取得・研究開発投資・設備投資全てをまかなっていました。

経産省『ディープテックスタートアップの評価・連携の手引き

(NEDOを通じた大規模な支援スキーム=DTSU事業)

それが、2023年度からDTSU 事業が始まったことで、VCからの調達資金は採用や試作品開発に使いながら、さらなる開発加速・量産体制の構築には助成金を活用することができるように。

それにより、ようやく優れた基礎技術を持つ日本から、グローバルに挑戦するディープテック・スタートアップが輩出されるかもしれないと、期待が高まっていました。

今回のルール変更、成果目標の設定により、ディープテック・スタートアップは当初想定されていた助成金の活用をすると、DTSU事業が廃止につながる可能性もあるでしょう。

短期・中期アウトカムを達成して、政府からのさらなる支援を呼び込めるのか。ディープテック・スタートアップ、そしてそのスタートアップの株主であるVCが試されています。

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