43 「文明の交差点」のイスタンブールから世界をみる

2023年2月25日
全体に公開

 「この国のかたち」を理解するシリーズを展開していましたが、今回は、トルコ大地震を受けて、私なりのトルコについての視点や思いを綴ってみたいと思います。

 年末にエジプトに滞在したお話を書きました。その途中でイスタンブールに立ち寄り滞在をしています。それからひと月後に大地震が発生した事はショッキングでした。

 個人的に、トルコとは様々な縁があり、4回訪問したことがあります。今回の短期滞在で5回目となります。過去は、ほぼ仕事でしたので、トータルの滞在期間は長いとは言えませんし、滞在先も首都アンカラと最大都市イスタンブールのみですが、仕事の相手先やイベントのホストからの手厚いサポートもあり、非常に濃い時間が過ごせました。

 日本との関係では、1890年にトルコの軍艦エルトゥールル号海難事故で、和歌山県串本町の地元民たちがトルコの船員を救出・看病したことや、その返礼と言われている1985年のイランからの邦人脱出の際に、トルコ航空が座席を提供したことなど、とても深い縁がある国です。こうした歴史的関係は、トルコに行けば、必ずと言っていいほど、トルコ人から話題に上ります(このエピソードの概要は、下記の串本町のホームページに掲載あり)。私は、「親日国」という、一方的かつ安易な呼び方を極力避けていますが、トルコについては不思議な強い縁を感じざるを得ない国だと感じています。

アヤソフィア大聖堂

 さて、年末年始に滞在したエジプトには、シンガポール→イスタンブール→カイロ→ルクソール→カイロ→イスタンブール→シンガポールというルートで旅をしました。帰途では、イスタンブールで日中のほぼ丸一日時間がありましたので、久しぶりにイスタンブール市内を足を運んでみました。

 先にお伝えしておくと、トルコには是非訪問してください。東西文明の交差点とイスタンブールが言われることがよく分かります。私が初めてイスタンブールに行き、総領事館に勤務する外務省時代のトルコ専門家の先輩と会ったとき、「アラブとヨーロッパ、どっちの感じがする?」と聞かれ、「欧州の香りがしますね」と応えたところ、笑いながら「やっぱり。東から来た人はヨーロッパ、西から来た人はアラブと応えるのよ」と話していました。今もって、この一言にイスタンブールの雰囲気は集約されていると感じました。

 象徴的な存在は、イスタンブールにある有名なアヤソフィア大聖堂です。もともとはビザンツ帝国の時代にギリシャ正教の大聖堂として537年に建てられましたが(原型の)、1453年からはオスマン帝国の支配下となり、イスラム教徒のモスクとして使用されてきました。礼拝堂に入れば、元教会だった痕跡ははっきりすぎるほど残っています。

中央アジアなどからのイスラム教徒が多数訪問してた。内装は明らかにキリスト教の聖堂であったことが分かる。
元々キリスト教建築だったことがはっきりと分かる。

トルコとマレーシアの意外な関係と共通点

 さて、視点を私の専門でもある東南アジアに移してみたいと思います。トルコと東南アジアと聞いてピンとくるトピックは少ないかもしれませんが、マレーシアとの関係が目立ちます。

 国営投資会社のカザナ・ナショナルはイスタンブールにオフィスを2013年に開設している。単純にトルコ関連の業務だけをしているのではなく、地域統括拠点として中東、アフリカ、中央アジア、欧州をカバーしている。カザナ海外オフィスは、上海、ムンバイ、サンフランシスコ、そしてイスタンブールの4拠点だ。世界的、地域的に地位の高い金融やイノベーション都市とともにイスタンブールが並んでいる点が興味深い。歴史的な「文明の交差点」だけではなく、現在もEMEA(Eurpope, the Middile East and Africa)地域経済やビジネスのハブとしての重要性を反映しているといえる。

 また、日本企業もこのマレーシアとトルコの関係に重なる活動があり、三井物産が出資するマレーシア企業IHHヘルスケアは、トルコ最大の病院であるアジバデム病院を傘下に収めています。新興国から新興国の投資ベクトルとして、非常にユニークな事例です。この話題は、アジア経済研究所の書籍の一章で書いたことがあります。下記の「第8章 マレーシア企業の多国籍化――途上国のサービス産業の海外展開――」がそれです。

 また、もう一つ興味深いのがトルコとマレーシアの国としてのあり方です。もちろん、様々な違いがありますが、共通しているのは、イスラム教が政治社会経済に渡り重要な存在であるです。特に、近年は政治と政党が主導するイスラム化は、両国を分析する上で重要な要因となっている。一時期は、マレーシア国内の政治なのに、イスラム党内のグループの特長を表すために、エルドアン大統領の「Erdogans」という表現が使われたこともありました。

 さらに、両国は国力にも共通点があります。人口規模でこそトルコが約8500万人、マレーシアが3300万人と開きがありますが、一人あたりGDPでみればトルコが9,654米ドル、マレーシアが11,408米ドルと、両国とも中所得国としてはかなり高く、1万2千ドル台の高所得国入りまでもう少し、という段階に到達しています。

 私がNewsPicks在籍時代に書いた記事があります。他にも編集部からトルコ関連のオリジナル記事が出ていますので、NewsPicksの中で「トルコ」というキーワードで検索をかけてオリジナル記事を探してみてください。

「東の韓国、西のトルコ」というドラマ・映画大国

 最後に、東南アジアから目を離して他の(趣味的な)話題を一つだけしておきましょう。トルコは、映画やドラマといったコンテンツ大国であるということです。日本にはまだあまり入ってきていませんが、徐々に知られ始めています。映画・ドラマのデータベース、口コミサイトのFilmarksを見たところ、ドラマは41作品、映画は273作品ヒットしました。Filmarksは、基本的に日本からストリーミングやレンタルで鑑賞できるものが掲載されています。NetflixやUNEXTなどで観られるものが多数入っています。

 個人的に、ドラマについては「東の韓国、西のトルコ」と表現しています。例えば、下記の記事にはトルコのドラマ輸出額が紹介されています。コロナ禍前の話ですが、イスタンブールでとある映画関係者に面会した際には、「最近、南米でヒットしたドラマ作品があり、南米からの『聖地巡礼』の観光客がたくさん来ている」、というお話もありました。実際に、イスタンブールを散策すると、南米出身とおぼしき観光客が多数おり、ロケに使われた場所に行くと、自撮り棒で写真を撮っているといった様子をみることができました。

  と、今回はトルコに関するエッセイ風の文章でお届けしました。かなりのインスピレーションを感じられる国ですので、皆さんも是非、足を運んでみてください。食事やお酒も美味しいです。

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