高齢化と人口減少が進んでも日本の未来は明るいのか?

2023年11月14日
全体に公開

日本の少子高齢化と人口減少が深刻化し、日本の未来に対する悲観的な意見も少なくありません。

経済産業省は2023年11月7日、「第17回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」を開催し、「経済産業政策の新機軸」の今後の進め方と論点についても整理しています。

この中で論点となっているのが、将来見通しの前提となる新たなマクロ将来像です。

将来を前向きに捉える

将来見通しの前提となる新たなマクロ将来像の在り方(案)では、足下の人口減少をすぐに止めることは難しいが、人口と経済の関係や日本の人口の強み等に関する客観的なファクトに基づけば、人口減少下でも、経済成長は可能である、としています。

例えば、下記のようなファクトにより、将来を前向きに捉えることができないか、としています。

– 人口減少は、少子化・高齢化両方併せると、デフレ要因ではなく、インフレ要因との見方もある。
⇒人口減少でも、賃上げを伴うインフレは可能。

– 一人当たりで見れば、人口減は経済成長と弱い逆相関。
⇒人口減少でも、一人ひとりに着目すれば、生活の質を高め、豊かになっていくことは可能。

– 高齢化することだけをもって、消費が落ち込むわけでも、貯蓄率が低下するわけでもない。
⇒高齢化でも、所得向上をし、潜在需要を掘り起こせば、消費拡大は可能。

– 構成比でみれば、生産年齢人口は2030年まで、健康生産年齢人口は2040年まで横ばい
⇒健康年齢が高い日本は、消費という需要面と、労働という供給面の両面で、強みがある。

– 人口減少してもなお、日本の人口は欧州諸国より依然大きく、CPTPP等の経済圏は拡大傾向
⇒日本は21世紀を通じて、人口面でも経済面でも、世界有数の大国であり続ける。

人口減少と経済の関係

「長期停滞論」をはじめとして、人口減少はデフレ要因との見方が広がっており、足下のインフレは一過性にすぎず、デフレに戻るので、人口増加にならない限り、日本経済は成長しないという見方が定着しつつあるとしています。

その一方で、人口減少は、少子化・高齢化を両方あわせるとインフレ傾向であり、中国の人口減少開始によって2000年代から続いたディスインフレ傾向が終わり、日本を含めた世界はインフレ構造になるとの見方も出現していることを挙げています。

以下は、人口減少と経済の関係に関する有識者の見解です。

「長期停滞論」(アルビン・ハンセン1938、ローレンス・サマーズ2013)・・・デフレ・ディスインフレ要因

1930年代の世界大恐慌は、基本的な原因を人口成長率の低下による投資需要の減少によるもの。

2008年の金融危機後の先進国の長期停滞は、1938年の世界大恐慌と同様、人口成長率の低下等によるもの。(※人口減少ではなく、人口「成長率の低下」を指摘)

「人口大逆転」(チャールズ・グッドハート2022)・・・インフレ要因

– 少子化は足下からの消費減少と、20年後の労働供給の減少になる。高齢化は供給に参加しないが消費はする主体の増加によって需要過剰になる。少子化・高齢化を両方あわせた人口減少は、供給不足によるインフレ傾向となる。

中国の労働人口が減り、これから30年、世界はインフレ時代に突入する。
(※中国の生産年齢人口は2013年をピークに減少、中国の総人口は2022年をピークに減少)

– 高齢化が進み、2000年代からは人口減少も始まった日本がデフレだったのは、海外投資により中国の安価な労働力を活用するとともに、中韓との価格競争を背景に日本型雇用慣行の下、非正規雇用の拡大等により賃金を抑制したことによるものであって、人口減少によるものではない。

これまでの日本のデフレ・インフレと賃金の関係

日本の過去25年を振り返ると、人口減少動向に関わらず、デフレ傾向では、雇用者報酬はより大きく低下し、インフレ傾向では、雇用者報酬はより大きく上昇してきています。

今後、日本を含めた世界が構造的にインフレ傾向になれば、賃上げを伴うインフレは実現可能であるとしています。

出典:経済産業省第17回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2023.11.7

日本の健康生産人口を強みに

日本の将来推計人口の長期的な出生率出生高位の場合でも1.64と仮定されており、機械的に算出した足下の希望出生率(1.6)とほぼ同じ水準でみると、日本の総人口は、出生高位であっても減少していく見通しです。

一方、生産年齢人口で見ると、総人口に占める割合は2030年まで一定であるという調査結果もあります。その上でさらに、健康生産年齢人口で見れば、総人口に占める割合が2040年まで一定となっています。

また、健康生産年齢人口は、他の先進国よりも総人口に占める割合が高い。労働者としての供給力、消費者としての需要力の、両面からの強みがあるという点も挙げています。

出典:経済産業省第17回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2023.11.7

また、絶対的な人口規模は、人口減少下でも21世紀を通じてドイツ・フランス等の欧州主要国より大きくあり続けるとしています。

貿易圏人口は、欧州や中国では既に減少し始めている一方、CPTPP加盟国は2050年頃まで、インド・ASEANは2060年頃まで増加する見込みとなっています。

出典:経済産業省第17回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2023.11.7

高齢化と人口減が進んでも日本の未来は明るいのか?

日本の人口は確実に減り続け、高齢化も進んでいきます。こういった状況がさらに進んで、日本の未来は明るいのでしょうか?

将来を前向きに捉えるという観点でポイントをまとめます。

・人口減少でも、賃上げを伴うインフレは可能。
・人口減少でも、一人ひとりに着目すれば、生活の質を高め、豊かになっていくことは可能。
・高齢化でも、所得向上をし、潜在需要を掘り起こせば、消費拡大は可能。
・健康年齢が高い日本は、消費という需要面と、労働という供給面の両面で、強みがある。
・日本は21世紀を通じて、人口面でも経済面でも、世界有数の大国であり続ける。

この先、決して簡単なことではありませんが、人口減少と高齢化を前提とした社会の将来を前向きに捉え、一人ひとりに着目し、行動を促すことができれば、もっと明るい日本が待っているかもしれません。

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