円安の進行、企業の63.9%が「利益にマイナス」 ~ 適正な為替レート、「110円~120円台」が半数~

2024年5月20日
全体に公開

日米金利差などを背景に円安が進行しています。2021年以降の円安傾向は特に今年4月に入り急加速し、4月29日には一時1ドル=160円台を記録する場面もありました。その後は変動を繰り返しつつも、150円台にとどまっています。企業からは円安による原材料や燃料価格などの輸入物価の上昇を懸念する声が聞かれる一方で、製造業を中心に過去最高の当期純利益を更新するなど、企業活動にさまざまな影響が及んでいます。

帝国データバンクは、円安が企業に与える影響についてアンケートを実施しました。アンケート期間は2024年5月10日~15日、有効回答企業数は1,046社(インターネット調査)です。

円安の影響、企業の63.9%が「利益にマイナス」

今回のアンケートでは、最近の円安が自社の業績(売上高と経常利益)にどのような影響を与えているかを尋ねました。売上高に関しては「プラス影響」が16.0%、「マイナス影響」が35.0%、「影響なし」が49.0%でした。一方で、利益に関しては「プラス影響」が7.7%、「マイナス影響」が63.9%、「影響なし」が28.5%という結果となり、約3社に2社が円安によって利益面でマイナスの影響を受けていることが分かりました。

出展:帝国データバンク 円安に関する企業の影響アンケート(2024年5月)

売上高と利益それぞれの影響の組み合わせで見ると、「売上高マイナス×利益マイナス」が31.7%で最も多く、3割超の企業が「売上高・利益ともにマイナスの影響」を受けています。次いで「売上高影響なし×利益マイナス」(23.7%)、「売上高影響なし×利益影響なし」(23.5%)が続きました。

企業からは、「輸入材料が多く、メーカーが価格を上げてきたら、それを受け入れるしかない」(医療・福祉・保健衛生)や、「輸入資材やエネルギーの高騰分を価格転嫁できておらず、収益が低下している」(不動産)など、円安による原材料価格の上昇が避けられない一方で、自社の商品やサービスにその上昇分を転嫁することが難しいという実情が多く聞かれました。また、「円安の影響で輸入時計や宝石が軒並み値上げ。価格が高騰しすぎて消費意欲が低迷し、売上も減少」(専門商品小売)や、「国内メーカーなど仕入先の価格調整(上昇)を受けて販売価格へ転嫁したところ、得意先の購買意欲が減退」(建材・家具、窯業・土石製品卸売)など、円安による物価高が個人消費や企業の仕入れ・設備投資に悪影響を与えているという声もあります。

一方で、「海外販売は円建てでずっと回収しているので、円安の影響はない。また海外の取引先にはメリットがある」(機械・器具卸売)や、「主要荷主の自動車メーカーの生産が上向くので、円安のまま安定する方がありがたい」(運輸・倉庫)といった円安を前向きに捉える企業も一部見られました。

適正な為替レート、「120円台」が3割で最高、「110円台」が2割で続く

自社にとって適正な為替レートの水準を尋ねたところ、「120円以上~130円未満」が28.9%と最も割合が高く、次いで「110円以上~120円未満」(21.2%)が続きました。半数の企業(50.1%)が「1ドル=110円~120円台」を適正な水準と考えており、現在の1ドル=156円(5月15日17時時点)とは大幅な乖離が見られます。

出展:帝国データバンク 円安に関する企業の影響アンケート(2024年5月)

「海外で縫製をしているので大打撃。今でも少ない利益が飛んでしまう」(繊維・繊維製品・服飾品製造)や「海外子会社とのやりとりにおいてレートが悪すぎる」(輸送用機械・器具製造)など、現状の円安水準での企業活動は厳しいとの声が多数あがっています。また、「輸入と輸出をしているので円安は輸出には良いが、輸入は厳しい。120円~130円で落ち着くとビジネスがしやすく、これから先の予測もできる」(鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売)と安定した為替相場を望む声も寄せられました。

他方、「日本は製造立国である。輸出産業が潤えば、国全体が栄える」(情報サービス)や「国内需要がおよそ8割以上であるため、円安によるインバウンドの好影響は間接的な需要喚起につながる」(機械・器具卸売)と、円安による輸出面での好調に加え、インバウンド消費の活発化を歓迎する声も一部で聞かれました。

まとめ

TDB Business Viewの円安に関する企業の影響アンケート(2024年5月)では、全体の63.9%が「利益にマイナスの影響」を受けていることが分かりました。さらにそのうちの半数、全体の3割超の企業が「売上高・利益ともにマイナスの影響」を受けています。

自社にとって適正な為替レートは「1ドル=110円~120円台」と半数の企業が考えており、現状の為替相場は大幅な円安水準にあります。また、輸出入の有無を問わず、適正な為替レートに大きな差は見られません。

円安は輸出企業の利益を押し上げる一方で、輸入依存度の高い内需型産業などでは原材料やエネルギー価格の上昇による物価高をさらに加速させます。こうした上昇分を自社の商品・サービス価格へ十分に転嫁することは厳しく、物価がいっそう上昇すれば家計の負担が増えて消費意欲が減退し、企業の設備投資意欲も低迷します。

企業からは急速な円安への対策や為替相場の安定を望む声が出ており、円安による原材料などの価格上昇分を十分に転嫁できる機運を高め、継続的な賃上げによる消費拡大、設備投資の増加という好循環を生み出すことが求められます。

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