「デジタル・ニッポン2024」 〜新たな価値を創造するデータ戦略への視座
自民党のデジタル社会推進本部(本部長・平井卓也衆院議員)は2024年5月23日、「デジタル・ニッポン2024」と題した提言をまとめ、岸田文雄総理に提出しました。
本提言は、データの保護と利活用を両立させ、新たな価値の創造と社会課題の解決を強力に促進するための指針を示しています。今年のテーマは「データ戦略」で、プロセス指向のデータ戦略を提案し、制度ベースと技術ベースのアプローチを融合させることを重視しています。
プロセス指向のデータ戦略への転換
これまでのデータ戦略は、固定的なタスクの集合体として定められ、急速な技術の進展に対応しきれていない部分がありました。データには日々新たに生み出され、更新されるライフサイクルがあるため、戦略も自律的にアップデートされる必要があると指摘しています。
「デジタル・ニッポン2024」では、制度ベースと技術ベースの戦略プロセスを相互に関連させ、新しい価値を創造する「プロセス思考のデータ戦略」の構築を提案しています。
インフラ整備とデータ利活用の進展と課題
データ利活用のためのインフラ整備は重要な課題です。以下の主要なポイントを挙げています。
- マイナンバー情報連携:
パーソナライズされた行政サービスの提供や事務処理の効率化を実現するため、情報連携の正確さとデータ品質の確保を重視する。 - マイナンバーカードの普及:
スマートフォン用電子証明書の導入や公共施設の利用カードとしての活用など、利便性を向上させる施策を推進する。 - ベース・レジストリの整備:
社会の基盤となるデータベースの整備が進められており、情報連携の効率化とコスト削減が目指す。 - 政府相互運用性フレームワーク(GIF)の整備:
データの標準化と相互運用性の確保が重要である。
戦略的な制度の見直しに向けて
デジタル社会推進において、地方自治体や民間企業の役割は重要として、以下のポイントに焦点を当てて制度の見直しを提案しています。
- 地方DXの推進:
自治体システムの標準化を推進し、国・地方のデジタル基盤の共通化を図る。デジタルマーケットプレイスによる調達簡素化、費用分担の検討、地方ネットワークの抜本的見直し、自治体システム整備への支援を進める。 - データ戦略の司令塔としてのデジタル庁の強化:
サービスの整備・運用体制の確保と内部マネジメントの強化、デジタル法制局によるステム・制度・業務の一体的見直しを行う。 - デジタル化で目指す社会を示すための広報体制の強化:
中長期にわたる企画能力向上を目指し、Gov Tech Japan構想(仮称)を推進する。 - デジタル公共財の整備:
データ戦略とデジタル戦略の連携強化を図り、DFFTの具体化と国際的なデータ連携基盤の構築を進める。
サイバーセキュリティ対策の更なる強化
サイバーセキュリティも重要な位置づけとなっています。サイバーレジリエンスの確立に向け、以下の提案をしています。
- サイバー空間は常時有事:
サイバー安全保障分野の法整備の加速化によるサイバー攻撃への対処能力向上を図る。セキュリティ・クリアランス制度の実効性確保に向けた国際連携、偽情報対処能力の強化、小学校段階からの「セキュリティ教育」の充実に向けた支援、セキュリティ産業振興パッケージの策定、耐量子計算機暗号対応の計画策定を行う。 - セキュリティ戦略本部の全関係者参加:
NISC後継組織の体制充実により、安全保障・経済社会秩序の強靭化を確立する。
デジタル人材育成に関する提言
デジタル社会の実現には高度なデジタルスキルを持つ人材が必要であり、以下の施策を提案しています。
- 企業におけるデジタル人材のキャリア形成:
企業はデジタル人材の不足、個人はスキルを活用できる場がないというミスマッチが課題となっている。自治体DX推進センター(仮称)によるDX推進体制の強化、企業におけるデジタル人材のキャリア形成への支援、教育カリキュラム・専門教員の充実、デジタル人材のスキル評価の一元的な管理などを進める。 - Purpose Based Learningへの変革:
デジタル教育の新しい形として、目的に基づく学習方法を導入し、実社会での即戦力となる人材の育成を目指す。
データ利活用を支える個人情報保護制度に向けて
個人情報は、本人と社会に恩恵をもたらす価値の源泉であり、豊かな社会の実現に向けて、個人情報保護制度は徹底的に検証されるべきでとしています。制度見直しにおいては、以下のポイントを提案しています。
- 信頼ある議論の必要性:
マルチステークホルダーによる信頼ある議論を経るべきであり、「三年ごと見直し」では十分な検証ができない。規制強化一辺倒ではなく、まずは運用状況の分析が必要。 - 個人データの定義と管理の複雑化:
個人データの定義・管理の複雑化や、個人データの第三者提供に関する「同意疲れ」への対応が求められる。 - 透明性の高い制度運用:
リスクベースでの漏えい等報告への見直しや、効果的で合理的な運用が必要。 - 新技術の理解:
仮名加工されたデータの統計利用促進や生成AI等の新技術への理解がなければ、成長は阻害される。 - 規制の検討:
健康・医療、こども、防災等分野に応じた規制も検討されるべき。 - グローバルな視野:
国際的な視野の必要性を踏まえ、グローバルCBPRの促進を図る。 - 制度見直しの必要性:
保護と利活用の両立のため、個人情報保護委員会の機能・体制を含めた抜本的な制度見直しを強く求める。
信頼性の確保
データ連携には信頼性が不可欠です。提言では以下の点を提案しています。
- プロセスの透明性:
プロセスに対する信頼性・透明性を備え、ユーザーが親しみを持てるサービスにすることが重要。 - 継続的改善:
サービスの継続的改善は、組織への信頼がポイント。マルチステークホルダーによるアジャイル・ガバナンスやミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の浸透を図る。
AIホワイトペーパー2024:新戦略「ステージII」
「デジタル・ニッポン2024」では、AI技術の進展を背景に、AIホワイトペーパー2024の新戦略を示しています。
- AIフレンドリーな国へ:
世界で最もAIに理解があり、研究開発・実装しやすい環境の実現を目指します。広島AIプロセスをベースに、更なる国際的なリーダーシップの発揮を目指す。 - ガイドラインと安全性:
ガイドライン等、事業者等の自発的な安全性確保と必要最小限の法的枠組みを提案し、偽・誤情報の総合的な対策を講じる。 - 競争力の強化:
AI基盤の高度化を官民連携の下で推進し、競争力強化を図る。
「デジ育」始まる!〜こども・子育てDXの行動計画〜
国の未来であるこどもたちのために、DXによる安心・便利・充実のこども・子育て政策を全国に行き届かせることが重要であり、以下の施策を提案しています。
- 行政と民間の連携:
自治体間・官民のデータ連携による手続簡素化や保育所等のICT導入を加速します。 - 早期発見と支援:
虐待・いじめの早期発見と未然防止、安全対策の確実な推進が求められます。 - 支援体制の強化:
こども家庭庁の増員と自治体のこども・子育てDX司令塔設置支援、DX推進体制の強化が求められます。
まとめ
「デジタル・ニッポン2024」は、デジタル社会の実現に向けた包括的な提言を示し、データ戦略、個人情報保護制度の見直し、信頼性の確保、AI技術の進展、こども・子育てDXに関する具体的な施策を提案しています。
今回は、生成AI等により、爆発的に増加するデータ量等の市場の動きを踏まえ、データ戦略に大きく舵をきったという印象です。今回のプロセス思考のデータ戦略は国の未来を左右する重要な課題であり、政府と民間が一体となって取り組むことも重要となっていくでしょう。
データ戦略の下で、日本はデジタル社会の先頭に立ち、新たな価値の創造と社会課題の解決を強力に推進し、持続可能な未来を築くことが期待されるところです。
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