【インタビュー】スタートアップ トップに訊く:起業後に気づいた「会社員時代にやっておくべきこと」
最近はキャリアの選択肢が増えてきて、「自分はどうすべきなのか? 何をやりたいのか?」と悩む人も非常に増えています。
そんなときに羅針盤となる考え方「キャリアのサンドイッチ思考」について解説しました。
また、キャリアのサンドイッチ思考を実践して、自分なりのキャリアをつくっている株式会社bacterico代表の菅沼名津季さんとのインタビューも紹介しました。
ともに大きな反響があり、「もっといろんな人の事例を知りたい」という声も多数いただきました。
そこで今後も、皆さんが自身のキャリアを具体化に考えていくヒントにしてもらえるよう、「キャリアのサンドイッチ思考」を体現している方に定期的に出演いただこうと思っています。
今回お話を聞くのは、氏家好野(うじけ よしの)さん。
現在は株式会社Plusbase(https://plusbase.studio.site/)代表取締役を務めています。
氏家さんのキャリアは、決して順風満帆ではなく、挫折や苦しい経験を繰り返しています。しかし、そのなかで自分の強みを発見してキャリアを形成しているという、まさに「キャリアのサンドイッチ思考」そのもの。
多くの人にとって非常に参考になる内容ですので、ぜひ最後までお読みください!
◇目次
・起業して気づいた「マネジメント経験」の重要性
・キャリアは挫折の連続
・自分の苦しい経験を「チャンス」に変える
・異なる思いを異なる仕事で叶える、パラレルキャリアの良さ
◇起業して気づいた「マネジメント経験」の重要性
南 氏家さんと初めてお会いしたのは、NewsPicksトピックスのオーナーイベントのときでしたね。少しお話をしたら共通の知り合いがいることがわかって話が弾み、その後何度か、氏家さんの会社の話でご相談をいただく機会がありました。
初めてお会いしたときの氏家さんの印象は、ビジネスへの情熱をとても強く感じる一方で、どこか繊細な部分も見えて、スタートアップならではのさまざまな課題に向き合っておられるのだろうな、という印象でした
若くして起業される方々は、マネジメント経験が少ないなかで、いきなり経営者として社員を背負う立場になるため、人やマネジメントの問題に悩むことが非常に多いと思います。氏家さんもいろんなご苦労があったのではないでしょうか?
氏家 私もマネジメント経験がない状態から、いきなり会社を代表する立場となり、毎日いろんな戸惑いや試行錯誤の連続です。特に弊社は、共同創業者のWim.サクラと2人で代表を務めているので、役割分担や連携の部分でも、経営の難しさを感じています。ただ、やはり2人だからこそ、互いの弱点をカバーしながら協力し合える安心感はものすごくあるので、私にはこの形がベストだと思っています。
南 このトピックの読者には、起業を目指している人もいると思うのですが、経営者になってみて、「会社員時代にやっておくべき」と思うことはありますか?
氏家 「この上司のようになりたい!」と思う人を見つけることですね。その人の口癖や考え方、雰囲気も含めて全部マネできるようにしておくんです。
私の場合、本当に尊敬している大好きな元上司が3、4名います。判断や、メンバーとの接し方に困ったときは、「〇〇さんだったらなんて言うだろう?」と思い浮かべながら口癖やたまには言葉選び、言い方まで真似しています。
そして本当に困ったときは、その元上司に相談に乗ってもらえるような関係をつくっておくことで、自分で全部経験しなくても、問題を解決できる手段が増えるということを実感しています。
◇キャリアは挫折の連続
南 これまでのキャリアはどんな考えで選んできたのですか?
氏家 イギリス留学中にシニア世代の雇用問題を研究していたのですが、深く知れば知るほど、「日本ではもっと深刻な問題になる」ことがわかってきました。「何か自分にできることはないのだろうか?」という思いが強まって、シニア雇用をサポートするための団体でボランティアを始めました。
ただ、勢いで始めたものの、なかなか突破口となるようなヒントを見出すことはできず、時間だけが過ぎていき、無力な自分を思い知りました。
そんななかで、「社会貢献はビジネスと共存させないと継続できない。そのためにも、ビジネスをもっと学びたい」と考えるようになったんです。
リクルートに入社し、就職支援サービスの営業担当として働きました。2年間、がむしゃらに営業をしましたが、当初はコロナ禍と重なったこともあってなかなか数字を作れない日が続きました。ようやく結果が出始めて仕事がわかり始めたころ、それまでの無理が重なり、メンタルを崩してしまい、仕事ができない状態になってしまいました。
同僚や上司は親身になってサポートしてくれたのですが、オンラインでの孤立した業務環境の影響もあったかもしれません。
南 目の前の機会に対して「集中して取り組んで成長する」ことができていたのは素晴らしいと思いますが、結果がなかなか出ないと苦しいですよね。「社会人3年目ごろの壁」は誰にでも訪れますが、氏家さんの壁はかなり高かったですね。
◇自分の苦しい経験を「チャンス」に変える
南 決して順風満帆とはいえないキャリアだったと思いますが、そこから起業にはどのような経緯で至ったのでしょうか。
氏家 自宅で療養しているとき、ベストセラー『Life Shift―100年時代の人生戦略』に出合いました。
読み進めていくうちに、「これからは個人がもっと輝ける時代にならなくてはならない。組織の力に頼らずにもっと個人が活躍できる社会にしたい」と考えるようになったんです。
そして、まさか「自分のような人間がなるはずがない」と思っていたメンタル不調も、「誰にでも起こり得ることであり、本人は気づいていないだけで、リスクにさらされている人たちはもっとたくさんいるのではないか」と考えるようになりました。
メンタル不調になった当初は、内省ばかりしていたのですが、モヤモヤは晴れず、少しずついろんな人と何気ない会話を繰り返すことで、自分の気が楽になってくるのを感じました。
壁にぶちあたったときの解決方法は、2つあると思っています。
1つは「内省して自己解決する方法」。もう1つは「他者との対話や関係性の中から解決策を見つける方法」です。
人によってどちらが合うのかは異なると思いますが、私の場合は、周りの人との対話を通して少しずつ答えが見つかったのかなと。第三者から的確なフィードバックをもらいながら誰の意見をどのタイミングで取り入れるかを考えることで、少しずつ回復していったと感じます。
そんなタイミングで、昔からの友人でもある共同創業者のサクラが、看護師のメンタルヘルスケアの問題に取り組もうとしている話を聞いたんです。
以前、南さんがインタビューされていた菅沼さん同様、サクラも、経済産業省とJETROが主催する事業コンテスト「始動 Next Innovator」でファイナリストに選ばれていました。しかし、サクラにはビジネスの経験はありませんでしたので、「起業するにも何からどうしていいのかわからない」という状態でした。
私もちょうどリクルートを退職することになり、メンタル不調の人をサポートしたいと考えているタイミングだったので、私がビジネスの経験を活かしてサポートすれば事業として実現できるのではないかと思い、「一緒にやろう」ということに。今思えば、本当に偶然の連続のなかで、自分の道ができていったという感じです。
◇異なる思いを異なる仕事で叶えるパラレルキャリア
南 氏家さんにとって、苦しみながらも重ねたビジネスの経験と、ご自身のメンタル不調の経験が、予想外に次の道へとつながっていったわけですね。一方で、個人が活躍できる社会を支援していきたいという思いについては、どのように考えていますか?
氏家 私は「個と個がゆるやかにつながるコミュニティの存在がこれからもっと大切になる」と考えています。
会社のように固定された組織でできる規模の大きなビジネスもありますが、個人同士がある目的でつながり、互いにサポートできれば、もっと社会にいろんな選択肢が生まれると思います。
そこで、いまはPlusbaseの経営のかたわら、コミュニティマネージャーとして、いろんな場でコミュニティの運営をする活動をしています。紆余曲折ありましたが、今は自分の強みを活かして迷いなく前に進めていると感じています。
◇対談を終えて:挫折だって経験。そこから何を学ぶかで未来は変わる
よく、「自分には何が向いているのだろう?」と考える人がいます。いわゆる「自分探しの迷子」の状態です。
しかし、本当の自分など、どこにも存在しません。キャリアをつくる自分とは「何かを経験した自分」でしかありません。何も経験していない未来の自分や、架空の自分をいくら想像しても、「何に向いているのか」はわからないのです。
「自分が向いていることを見つけるには経験するしかない」
私自身を振り返ると、人事の仕事以外に、ITエンジニア、マーケター、コンサルタント、営業とさまざまな職種を経験してきました。また、事業責任者として、ファイナンスの勉強も簿記から始まり徹底的にやってきました。
しかし、いろいろやったなかで、特にファイナンスには向いていないことを痛感しました。数字は嫌いではないので苦手意識はありませんでしたが、実際やってみるとまったく興味を持てないのです。だから「ファイナンスに関わるキャリアだけは絶対に選んではいけない」というマイルールを設けることができました。
氏家さんにとって、キャリアのスタートは本当に苦しい経験ばかりだったと思います。自分の思いに正直に歩み始めたものの、道自体がまるで見つからない。次に、営業として歩み始めてみると、頑張れば頑張るほど自分を苦しめてしまう――。
しかし、それらの経験をしたことで、雲をつかむような自分の道探しから、「自分の苦しい経験を他の人がしないためにはどうしたらよいのか?」という発想を得て、自分の強みを見出してビジネスチャンスにしています。
コミュニティマネージャーも含めて、これからも氏家さんは自分で実際に経験したことから成長機会を見つけ、自分の道を歩まれるでしょう。
そう、自分の道は探すのではなく、つくるしかありません。
ただ、「どの方向に、どうやって作ればいいのかわからない」という人も多いと思います。そんなときは「キャリアのサンドイッチ思考」を思い出してください。最初から強みがある人などごくわずかです。
私はこれまで人事として、国内外の数えきれないほどの人に出会ってきていますが、自分の力でキャリアを切り開いた人たちの9割以上が、当初思ってもなかったことから強みを作っています。
どんな人でも必ず何か武器を作ることはできまず。ぜひ集中して取り組んでみてください。
氏家さんのキャリアの旅もまだ始まったばかりです。またどこかでお話をお聞きできればと思います。ありがとうございました!
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