05 【海外データの探し方】Wikipediaと上手に付き合う方法。(+日本の地方に並ぶ「新興国」の豊かさ)
今回はWikipediaとの上手な付き合い方の一つについて、お話したいと思います。
具体性を持たせた方が分かりやすいと思います。例えば、皆さんが新たに進出する外国の市場性を調べる立場にあるとしましょう。
外国の市場調査では、まずは、人口、GDP、一人当たりGDP、経済成長率といった基本的な統計や経済データから手を付けるでしょう。基本の「キ」とも言える作業です。
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ただ、ビジネス実務を考えると、例えば、ラーメン店を出店する場合、その国の平均よりも、首都圏や第2、第3の大都市の消費力を知りたいところです。いきなり、人口5万人のインドネシアの地方の小さな街に出店するという判断をする人はいないでしょう(※注:小規模な個人やファミリービジネスで、あえて大都市を避けて中小規模の街に進出する場合は別です)。
国全体のデータは、JETROや外務省など日本語でも簡単に取得できますし、英語ではCIA:The World Factbook、IMF World Economic Outlookなどがよく使われますが、州や県といった単位のデータは、なかなか見つからないことが多くあります。
データがありそうなところとして、統計局や中央銀行のウエブサイト当たりだろうという推測はできるかもしれません。
ただ、実際にそうしたサイトに入ってみると、目当てのデータがなかなか見つからないことがよくあります。また、往々にして政府系サイトはUIが悪いことも、データが見つからない現象に拍車をかけます。加えて、国によっては現地語が優先され、英語のデータがどこにあるのか分からないという状況に直面することもあるでしょう、
Wikipediaは英語版活用が大切
そこで、ちょっとした裏技としてはWikipediaを活用することができます。ただし、 wikipedia掲載のデータをそのまま転載するという話しではありません。
もちろん、Wikipediaを調査の出典として使うことは御法度です。時に誤った情報が掲載されている、バイアスの強い解釈で書かれているということがあります。そもそも孫引きをやってはいけません。
そうではあるものの、時間が限られたなかで調査をしなければならない。また、ネットで検索するとwikipediaの情報がヒットし、そのまま使いたい誘惑に駆られます。手がかりとして使うことは良いとしても、そのまま引用はできない。せっかく、それらしきデータがそこにあるのに・・・と思う気持ちはよく分かります。
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では、どうするのか。
まず、英語検索が前提になります。同じ項目でも、外国の情報は、日本語よりも英語の方が情報量が多くかつ新しい内容が掲載されいてることが殆どです。項目によっては日本語は存在せず、英語のみということも珍しくありません。(中国語など現地語が出来る方は現地語でも検索をして比較するのがベターです。私はマレーシア語とインドネシア語ができますが、英語よりも充実したページに当たることがしばしばあります)
地域のGDPが知りたいときに、例えば、マレーシアの州別やタイの県別のGDPは日本語版Wikipediaには掲載されていません。しかし、英語で検索をすれば、すんなりと出てきます。「GDP per capita by provinces in Thailand」といったキーワードを使います。(正確には、GPP=Growth Provincial Product=県内総生産ですが、上記の検索ワードで十分に見つかります)
いったんヒットして、数字を活用するために、注意して見るべき部分は出典です。Wikipediaは信頼性の課題があるものの、その問題は運営サイドもよく分かっていて、編集者に対して出典の記載を求めて信頼性を担保しようとしています。出典がない場合には出典不明と表示されて、利用者に注意を促しています。
例えば、先ほどのタイの県別GDP、マレーシアの州別GDPを英語で検索すると下記のWikipediaの項目がヒットします。
List of Thai provinces by GPP
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Thai_provinces_by_GPP
List of Malaysian states by GDPhttps://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Malaysian_states_by_GDP
そして、注に出典元のリンクが掲載されています。このうち、マレーシアのデータについては、出典元のリンク(https://www.dosm.gov.my/v1/index.php?r=column/cthemeByCat&cat=102&bul_id=anVobldYUFZLNE5WVlRVRExkSWEyZz09&menu_id=TE5CRUZCblh4ZTZMODZIbmk2aWRRQT09)をクリックすれば原典に遡ることができ、めでたく資料や報告書に引用することができます。
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一方、タイの出典元のリンク(https://www.nesdb.go.th/ewt_dl_link.php?nid=5628&filename=gross_regional)は切れています。そこで焦らずに、出典として記載されている資料名「Gross Regional and Provincial Product, 2019 Edition」でウエブ検索をかけると、下記のページがヒットします。「URLが変更されたものの、ウエブのどこかには存在であろう」という推測です。
ただ、Wikipediaは必ずしも最新の数字ではありません。例えば2017年のデータであれば、Wikipediaで知った原典資料の名前と2020や2021といった年にかえてウエブ検索をすれば、最新の統計資料がヒットすることがよくあります。
政府系のデータは、公式データで是非とも活用したい一方、検索対策をしていなかったり、PDFファイルであったりと、一般的な検索方法ではなかなか見つからないことがあります。その補助線を引いてくれる存在としてWikipediaを活用することができるのです。
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日本との比較は衝撃の結果
ちなみに、せっかくデータが判明したのでまとめておくと下記の通りです。
バンコク 15800米ドル(2019年)クアラルンプール 12万1100マレーシア・リンギット(2020年)
2019年の米ドルー日本円の年平均のレートは1米ドル=109円でしたのでバンコクはひとり当たり172万2200円、クアラルンプールは1リンギット=約25円でしたので、ひとりあたり302万7500円となります。
日本と比較してみましょう。
平成30年度(2018年度)の国民経済統計を活用して、日本のひとり当たり県別総生産を算出すると、東京都は774万円でダントツの1位。次いで2位の愛知県543万円、3位の茨城県488万円、4位は栃木県482万円、5位は滋賀県479万円という順位です。全国平均は447万円となります。(国民経済統計ではひとり当たりまでは掲載されていないので、各県の総生産を総人口で除して算出しました。余談ですが私の故郷栃木県がトップ5とは意外でした)
低い方からみますと、一番少ない47位は奈良県の278万円、46位は沖縄県311万円、45位は埼玉県317万円、44位は千葉県337万円、43位は鳥取県の340万円となります。
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したがって、クアラルンプールは302万円という数字は、奈良県を抜いています。
バンコクは、172万円とまだまだですが、バンコクの様々な所得の人々を平均した数字ですから、一定の給与所得者などに限ってみれば、日本の下位の県とはあまり変わらないだろうという推定が成り立ちます。
クアラルンプールは日本のランキング入っていますから、一定の所得層は日本の平均値も射程圏内であろうという推定ができます。
その上で、より詳細な現地調査として、職業別の給与所得、各エリアの所得層の分布状況、ヒヤリングやアンケート調査などを行うことで、より効率的で具体的なリサーチが可能となるでしょう。
ということを踏まえると、日本の消費財企業や外食産業がクアラルンプールやバンコクに進出して、日本とさほど変わらない価格でサービスを提供していることは、なるほど頷けます。最近は首都だけではなく、第2、第3の都市へと広がりつつあることも合理的と言えます。
東南アジアで最も裕福なシンガポールのひとり当たりGDPは59,797米ドル(2020年)ですから、年間平均レート106円で換算すると633万円となり、日本のランキングのなかに置けば東京都に次ぐ2位となります。シンガポールは東京23区ほどの大きさの都市国家ですから、これ以上小さな単位でGDPを見る必要はありません。
なるほど、シンガポールは人口が少ないと言えども、まるで日本の飲食店のショーケースのように、お店が出店されていることも理解できます。
ということで、最後はWikipediaの活用法よりも、むしろ、最後に日本と東南アジアの比較の結果の衝撃の方が残ってしまったかもしれません。こうした日本との比較は、また機会を改めてしてみましょう。
(SGT 2021年12月15日17:30脱稿)
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