水素と聞いたらこの3つの質問を準備

2023年3月18日
全体に公開

ワールドベースボールクラシックを見ていて、水素は未来のクリーンエネルギーでCO2を排出しません、というCMを見ました。なぜ水素が大事で、どのように捉え、考えたらよいのかを本日は書きたいと思います。

なぜ水素が注目されているのか、それは燃やしても二酸化炭素を出さないからです。また、燃やすと発熱量も高いため産業用のガスとしても有用です。そのため、カーボンニュートラルの文脈では、おおよそすべての産業の脱炭素技術として水素が入ってしまうくらいです。しかしながら、水素と聞いたら以下の3つの観点で吟味する必要があります。

1.何から作られているか?

2.どこから持ってきて、どこにしまっておくのか?

3.何に使うか?

おそらく、「いくらになるの?」というのは商いをしている方なら当然ながら聞かれると思いますので、ここでは割愛いたします。機会があれば、コストの話もどこかで書きたいと思います!

1.何から作られているか?

水素は何から作られているのでしょうか?自然界には大量に存在しない水素ですが、水は水素の化合物です。水素はH2、水はH2Oなので、酸素と結合すると水になります。逆に、水を分解すると水素が製造されます。という具合に、H2を含む化合物と何かを反応させて水素を作るという方式ですが、主に3つあります。

①化石燃料、例えば天然ガスの原料であるメタン(CH4)などの炭化水素を水蒸気と反応させて水素と二酸化炭素(CO2)に分離する方法。二酸化炭素(CO2)が排出されます。グレー水素と呼ばれています。

②上記①で排出されてしまう二酸化炭素CO2を回収・貯蔵する技術を導入して、実質カーボンゼロにする方法。ブルー水素と呼ばれています。①より回収・貯蔵する技術にお金がかかります。

③水を電気分解して水素を取り出す方法。電気に再生可能エネルギーを使っていれば二酸化炭素は出ません。グリーン水素と呼ばれています。

出所:経済産業省、https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suiso_tukurikata.html

現在、市場で主流なのは①のグレー水素です。(下図参照)9割以上が化石燃料から作られています。

出所:IEA、https://iea.blob.core.windows.net/assets/c5bc75b1-9e4d-460d-9056-6e8e626a11c4/GlobalHydrogenReview2022.pdf

最初のエネごり君のCMに戻ると、水素自体は燃焼しても二酸化炭素は出ませんが、その水素がどのように作られたかによって、すでに二酸化炭素を大量に排出して作られた水素かもしれない、ということです。

そして、向かうべき方向性としては③のグリーン水素となります。しかし、再生可能エネルギーの施設は電力用に使われる施設がほとんどですので、再生可能エネルギーが大量に発電され余ってしまうくらいであれば、それを水素製造に使うのも良いでしょう。そして、将来はどれだけ水素が必要になるかにもよりますが、水素製造専用に必要な再生可能エネルギー施設も出てくるかもしれませんね。

2.どこから持ってくるか?どこにしまうのか?

製造過程がわかったところで、これらはどこで作られているのか気になります。①や②の方法のグレーやブルー水素は、日本で化石燃料が取れないので、海外に頼ることになります。③のグリーン水素であれば、国内で作ることが可能です。

ブルー水素の場合は、化石燃料が取れるところにだいたい製造施設が作られ、そこで二酸化炭素も回収貯蔵されるケースが多いです。そのため、中東などの国が力を入れていますし、石炭から作る場合はオーストラリアなどと日本もプロジェクトを行っているようです。

グリーン水素も国内で作ることがベストだと思いますが、日本よりも安い再生可能エネルギーを発電できる国でグリーン水素を作り、日本に輸入するというプロジェクトも始まっています。オーストラリアやチリなどがその代表例です。

出所: IRENA (2022) Geopolitics of the Energy Transformation: The Hydrogen Factor, International Renewable Energy Agency, Abu Dhabi.

当然ながら、海外から輸入してくる場合は、輸送コストがかかります。

さらに、水素を運ぶための専用の船が必要となります。水素は船で運ぶために液化したり、アンモニアにしたりなど様々な技術があります。日本に着いたら、再度水素に変換し戻す必要があります。船のコスト、変換コストなどが加算されていきます。

さらに、貯蔵するための施設も必要なので、そこも考慮に入れておく必要があります。輸入してきた港の近くに貯蔵施設を作るのか、需要地の近くなのか?

そこまでどの手段で運ぶのか?水素トラックなのか?導管(水素専用)なのか?

このように、次々と水素サプライチェーン構築に不可欠な質問にベストな答え(簡単で安くて大量に使えるような方法)を出していかなければいけません。

3.何に使うか?

冒頭に述べたように水素は脱炭素にとって欠かせない分子(Molecule)ですが、大量に簡単に作って運ぶことのできる物質では今のところありません。そのため、限られた量を手に入れるとするならば、優先順位を決める必要があります。その場合、私であれば、どうしても水素でないと脱炭素が難しいところに使うべきだと考えます。代替できる脱炭素の技術が存在しなかったり、安価でなかったりする産業に使うべきです。

そして願わくば、規模の経済を働かせるために、できる限り大量に使ってくれるポテンシャルのある産業を選ぶ方がよいと考えます。

これを体系立てて考えた一つの方法が、『クリーン水素のはしご』と呼ばれ、世界でも著名なエネルギー及び水素の専門家であるマイケル・リーブライク氏が提唱したものとなっています(下図参照、化学セクターの例)。上に行けば行くほど適しており、下に行けば行くほど適していないというリーブライク氏の分析結果です。

出所:https://www.liebreich.com/the-clean-hydrogen-ladder-now-updated-to-v4-1/

また、リーブライク氏は以下のようにも述べています。

水素は「十徳ナイフ」のようなもので、便利ではあるが、すべてのものに十徳ナイフを皆さんが使わないように、水素も論理的には全てのものに使えそうだが、そうではなくケースバイケースで考えるべきである。例えば十徳ナイフで髪を切ったりしますか?刺身をさばいたりしますか?
マイケル・リーブライク(筆者意訳)
出所:https://www.liebreich.com/the-clean-hydrogen-ladder-now-updated-to-v4-1/

したがって、私が考える最適地は、工業地帯や化学コンビナートなどの需要地です。

4.最後においくらですか?そして二酸化炭素排出量は??

この問いに答えるためには、上記3つの質問に答えてもらい、それぞれの過程においていくらかかり、どのような他のオプションがあるかを、水素の川上(製造)から川下(需要者)まで絵に落としていくとわかりやすいのではないでしょうか。

最も忘れてならないのは、カーボンニュートラルを目指していくにあたって、排出量が出ない工程を選ぶことです。

水素という言葉を見かけたら、この3つの問いを思い出してみてください。

最後まで読んでくださりありがとうございました。感想や次に取り上げるトピックなど、ぜひお気軽にコメント欄で記入いただけたらと思います。よろしくお願いいたします!

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