41 【手順1】短期間で「この国のかたち」を理解するための方法~新書を読む~

2023年1月31日
全体に公開

 私は職業柄、「X国のことを知るために良い本や資料を教えて欲しい」というご依頼を頂くことが少なくありません。本トピックスでも情報源については、何度か扱っています。

 今回から数回にわたって、本格的に手がけなくてはならなくなった国をどのように短期間で理解し、かつ、専門家と議論できる段階に到達できるのか、というお話をしたいと思います。書籍や資料だけでなく、人的な専門家ネットワークまでお話ができればと思います。

 例えば、読者の皆さんがインドネシアについて担当してほしい、ジャカルタ事務所に赴任してほしい、来月はインドネシアに出張がある、といった状況を想定してください。そして、これまで、インドネシアについてそこまで深くかかわったことがない、あるいは、まったくない、という前提にしておきましょう。

 ひとまず、検索する方も多いでしょう。今、Googleで日本語検索結果を優先した設定で検索をしてみました。検索結果の1ページ目は、外務省のインドネシア概要ページ、ウィキペディア、在インドネシア日本国大使館のホームページ、JETROのインドネシア情報のページ、株式会社明治の「世界と食と文化」ページのインドネシアコーナー(これにはちょっと驚きました。明治のSOE対策のたまものでしょうか)、インドネシア共和国観光省公式ホームページ、ユーラシア旅行社のインドネシアのページ、国土交通省の海外建設・不動産市場データベースサイト、JICAのインドネシアのページとなりました。

 それぞれ有益な情報源であることは確かです。私も利用するサイトが含まれています。ただ、ここでは「その国のかたち」を理解するという視点で進めていきたいと思います。なかなか言語化が難しいのですが、その国の「勘どころ」を掴むため、とも言えます。検索結果でヒットしたサイトは、事実としての情報をえることはできますが、そこに生命を吹き込み、生き生きとした観察対象とするには、もう少し順が必要です。上記であげた検索結果のようなサイトは、基本データなどを辞書的に参照するような存在です。

 では、本題に入りましょう。

 まずは、とにかく、新書かそれに近い書籍を手に取ることをお勧めします。日本の新書という出版形態は素晴らしいものです。千円前後(最近は高額化する傾向がありますが)で、一級の知識人や実務家がエッセンスを凝縮し、読もうと思えば1日で読めますし、少しずつ読み進めても1週間ほどあれば読了できるでしょう。特にお勧めしたいのは、中公新書です。他の新書も良書を出していますが、「この国のかたち」を理解するには、それを語るにふさわしい著者が執筆してます。中公新書では出版していない、あるいは、出版しているが出版年が古い場合には、他の出版社による新書を探します。

 インドネシアは大国だけあって、良質な新書に恵まれています。私は以下の順番で読むことをお勧めしています。

 出版から10年ほどがたってしまいましたが、インドネシアの民主化とその後のユドヨノ政権によって経済発展のエンジンがかかり始めたインドネシアとなるまでを理解することができます。さすがは佐藤先生とうならせる、政治と経済、そして投資やビジネスまでも複合的にリズムよく進めていく議論は、インドネシアの「勘どころ」を理解するには最適です。是非とも後編を執筆して頂きたいと思います。

 こちらは2021年に出版されましたので、佐藤先生の本からその後のジョコウィ政権までカバーされており、また、インドネシアを理解するために必要不可欠なイスラムの視点からかかれています。

 そして、今とこれからのインドネシアを理解するためには必須のスタートアップ。本書はインドネシアだけではありませんが、多くが割かれています。日本経済新聞の現シンガポール支局長と前ジャカルタ支局長が執筆し、ジャーナリストらしく、取材を重ねて生き生きとスタートアップについて書いています。

 そのほか、インドネシアについては以下のも良書です。インドネシアを解する上では、「暴力」の歴史が避けて通れません。今のインドネシアは、暴力はひそめていますが、本質的にまだ残っているところがありますし、エクスパッツとして生活する外国人には見えてこない視点でもありますが、社会に潜むものがまだ存在しています。

 もちろん、中公新書のものを読んでさらに、主要な他の新書を読み進めるのも有効です。 新書は軽すぎると思う方もいるかもしれません。性質上、細かな注が入ることはほとんどありませんし、専門書に比べると論証や議論の展開を端折らざるを得ないこともあります。しかしながら、いきなり専門書はハードルが高いでしょうし、森の前に木をみにいくようなものです

 新書という形式の制約を前提に読むことが正しい姿勢だと思われます。そして、何度か読み返すこと。最後までよみ、「この国の形」がぼんやりと浮かび上がった後に、再び最初のページに戻る。それにより、理解が浅いままで読んでいた部分か解が深まります。

 また、新書は価格が手ごろなこともあって、躊躇なく書き込みができます。数千円や1万円をこえるような高額書籍への書き込みは心理的なハードルがあります。感想、比較、疑問、予想、仮説などをどんどん書き込みます。次のステップではこうした疑問を解消したり、予想や仮説が正しいかどうかを検証するといったプロセスへ深めることができます。 

 なお、もし新書がない場合にはそれに近い書籍というものがあります。新書がある国であれば、次のステップで使う本になります。次回は、新書でおぼろげながらも「勘どころ」を感じられた後に、何を読むか、へと移りたいと思います。

(バナー写真:Kyle Glenn/unsplash)

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