SHEINはなぜ売れる?〜そのブランディングと印象術〜
こんにちは!ファッションスタイリストの神崎裕介です。今回が2回目のトピックになります。
週末、こんなニュースがあったのをご存知でしょうか。
米「The Information」によると、SHEINの2023年1~9月の売上高は前年同期比で40%以上増加し240億ドル(約3兆6000億円)となり、23年通期の売上高が320億~330億ドル(約4兆8000億~5兆円)に達する見込みだという。これにより、すでにH&Mを大きく上回り、ZARA(ザラ)を抜き去る可能性が高まっている。
シーイン、という言葉を聞く機会は業界関係者以外でも確実に増えていると思いますが、結局何者なの?と遠巻きに見ている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回はシーインについて掘り下げつつ、なぜ大きな人気を獲得するに至ったか、ファッション、ブランディング視点から見たその印象術にフォーカスして見ていきたいと思います。
そもそも、シーイン(SHEIN)とは?
シーインは2008年、中国で誕生したファッション販売サイトです。当初はウェディングドレスなどを販売していましたが、徐々に商品や規模を拡大。日本でも話題に登るようになったのはここ数年ですが、とても急激な成長を遂げています。
ZARAなどが企画から販売まで約2週間サイクルのところ、それを半分、それ以下に短縮したサイクルのため「ウルトラファストファッション」とも呼ばれますが、自社で企画していないため、以前のしまむらスタイルの企業と捉えた方がよさそうです。
また特徴的なのは、各国に店舗も倉庫も持たないこと。ZARAやH&Mは実店舗もあるし倉庫も地域ごとにありますが、シーインは中国から個人に直送という形態。
つまりシーインだけにお金が落ちるシステムになっているわけです。シーインの売上や企業規模に謎が多いのはこういった形態も影響しています。
細かい数字などはNewsPicksのこちらの記事が詳しいです。
そして最大のウリが、異常なまでの低価格。
トップスなども500円程度で買えてしまいますし、アクセサリーに至っては200円台もざら。それでいて見た目はハイブランド風のもの(ほぼ一致)だったりするので、つい手が伸びてしまう気持ちはよく分かります。
主にZ世代を中心に伸びているのですが、大人世代にもユーザーが広がっているのも興味深いところ。そして意外にも中国では販売されていないのも面白いところだったりします。
シーインの印象術
個人的に着目したのは、まさに「変わり身の術」とも言うべきスタンスを取っていること。
実は当初、いかにも欧米のブランド風のブランディングをしていたのです。
欧米人のモデルを起用し、背景もそんなイメージ。かくいう僕も最初新しい欧米のファストファッションかな?と思っていました。恥ずかしながら。
我々も含め、欧米のブランドには一定の安心感や既視感があります。まずはそこを印象付けることで利用への抵抗感をなくす。上手な戦略です。同時に「ちゃんとしたブランド感」のある写真を使っていて、一見そんなリーズナブルなブランドとは思えません。
しかし、徐々に「シーインて中国のブランドらしいよ」という話が広がっていきます。事実ですからね。ではそこでどうしたかと言うと、なんと今までのブランディングをあっさり脱ぎ捨ててしまいます。
これまでの徹底した欧米感など忘れてしまったかのように、アジア系モデル、しかも自撮り風なラフな写真も増えて画質もバラバラ、カオスな様相を呈しはじめます。
ただここで単なるブランディングの渋滞に陥らなかったポイントが、販売サイトのSNS化です。
これまでアパレル業界には、SNS=様々なコンテンツで楽しませる、販売サイト=公式の着用画像や商品紹介を綺麗に見せる、という不文律がありました。
顧客は購入にあたって高級感や信頼感を求めているだろう、という考えからでしょう。例えばZARAの販売サイトなどはアート性を感じるほどのクオリティです。
ところがシーインは、販売サイトさえも雑多なSNS化してしまった。そしてユーザーもそれを良しとしている。新しい関係性が成り立っていると言えます。
印象の「変わり身」はなぜ成功したのか
普通これだけシフトしてしまうと離脱が起きそうなものですが、そうならなかったのは利用するユーザー層にポイントがあります。
ググる→販売サイトへというのはもう一昔前のやり方。今はSNS、主にインスタグラムの投稿を見ながらダイレクトに販売サイトへ、という流れが一般的です。
つまり、メインユーザー世代は雑多なコンテンツを見ながら気になったものをタップする習慣ができている。特に目的がなくても色々な投稿を流し見て楽しむ文化がある。
まるでインスタの「発見タブ」を見ているようなスタンスで買い物ができるようにしたのが勝因だと考えます。大事な回遊の促進や滞在時間を稼ぐこともできますしね。
ユーザー層に合ったやり方を見極めて、一気に舵を切る。そのアイデアやタイミングが絶妙だったわけです。商品がいいとは言いませんが。
補足しておくと、シーインは多数の著作権訴訟も抱えていて、スピードとインパクトを重視しているためそういった意識に欠ける面が多々見られます。影響力が高まっている以上ここは早急に改めてもらわなければ、と業界人として強く懸念していることは記しておきます。
イメージを偽らない、という現代的なやり方
最後にお伝えしたいポイントは、イメージを盛らないという手法です。
これまでのファストファッションブランドは、皆ハイブランドを想起させるようなイメージを打ち出してきました。極力チープさを見せない、値段は安いけど良いものだと思わせるようなブランディング。
ところが、シーインは最初こそその路線を行くと思われたものの、今ではそれを脱ぎ捨てて「自然体」になっています。これをやって成功したのはシーインが最初。
有り体に言えば、この値段だけど見栄えはいいから細かい部分は許してね!というアプローチ。それに対してユーザーもOKな人だけが利用している。だから変な炎上はしない。ある意味良い関係性を築いていると言えるのではないでしょうか。
この見せ方は企業や個人にもやってきている傾向
今まではとにかくイメージを高める、盛る、ときには過剰と言えるほどの雰囲気を作ることが信頼を得るブランディングである、という構図がありました。しかし、それはもう今の流れではない。
等身大にちょい足し、くらいのバランスがユーザーにとっても心地いい。
あまり大上段に構えられると冷めてしまう、実際とのギャップが大きいと炎上の火種になる。
それよりも、いかに自社の、自分のスタンスに納得してくれるユーザーと関係を結ぶか。ウソなく付き合っていける関係性を築けるか。ここがポイントになっています。
変に盛ることなく、素材の良さ(コアバリュー)をお届けすることに注力することで、自分も無理なく活動ができるし、見ている方もナチュラルに好感を持って受け取ってくれる。
今は、お互いに無理のない関係性がベター。その自然な空気感から信頼関係や共感が生まれていく時代になっています。
僕自身もリアルでお会いしたとき「イメージ通りですね」と言ってもらえるように調整しているのですが、無理なく伝えていく、という現代の印象術のひとつとして意識していただけたら嬉しいです。
その利点はまた別の記事にてお伝えしてみようと思います!
※記事の内容は執筆時点での情報に基づいたものです
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神崎裕介
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