目の奥の感動

2023年7月18日
全体に公開

 皆さんの一番好きな季節は、何ですか?私は、夏が大好きです。寒さには弱いのですが暑さには強く、気温が高くても快適に過ごすことができます。北海道の夏は短く、「やっと夏が来た!」と思って楽しんでいると、あっという間に過ぎ去ってしまいます。

 他にも、夏が好きな理由があります。それは、視覚に障害を抱えて生まれた私だからこそ、印象に残る経験を夏にしたからです。

 私は生まれつき視覚に障害があり、視界は常にぼやけて見えています。見たいものの対象まで距離があればあるほど、ピントが合わず、見たくても見ることができません。なので、私にとって見るという行為は、一生懸命頑張らなくてはならないのです。

 見えにくさは、眩しさの程度や色の組み合わせで変わります。太陽の強い日差しや雪の照り返しによって、手元すら見えなくなってしまう時もあります。また、白を基調とした内装だと、歩くのもおぼつかなくなります。一方、茶色を基調とした内装だとスムーズに歩くことができます。他にも、白い背景に黒い文字だと、読むのにとても時間がかかり、黒い背景に白い文字だとすらすらと読むことができます。 自分の居る場所や環境による影響が作用して、見え方は刻一刻と変化します。

 こういった見え方で生まれた私だからこそ、大人になった今でも忘れられない衝撃的な経験をしました。 

『目の奥の感動』

 一番好きな季節は何かと聞かれたら、「夏」と即答できる。寒いのが苦手とか、キャンプや海水浴などのレジャーを楽しめるからだとか、そういった理由ではない。私だけの感動が、夏にあるからだ。

 私は視覚に障害をもって生まれた。矯正をしても0.06という視力の低さ。コンタクトを装着しても手に届かない範囲にあるものは、ぼやけているのが当たり前の光景。それに加え、真ん中の視野が欠けている。明るさやコントラストによっても見え方が大きく変化する。(視覚障害者は見え方が個人で異なる。)遠くを見るときは、見えにくさを補うレンズを活用する。お店の看板や展示品の説明の文字。桜や紅葉などの風景。これらは、眺めるというよりも補助する道具であるレンズを通して一生懸命見る行為になる。

 そんな私の人生に、「眺める」という感覚を教えてくれた存在が夏の花火だった。子供の頃に初めて打ち上げられた花火を見たときの衝撃は、今でも忘れられない。私の目は眩しさに弱く、日光のない夜は日中に比べると見えやすくなる。さらに夜空の黒い背景に煌々と輝く花火の組み合わせは、私好みのコントラスト。花火の音と共に、味わったことのない光景が次々と押し寄せてきた。この瞬間まで、目を凝らすことなく自分の肉眼で、遠くのものをのんびり見る感覚を味わったことがなかったのだ。この夏、「眺める」という新しい概念が生まれた。

 今でも花火の音を聴くと、私だけの夏の感動が目の奥によみがえって来る。

 

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