歩き慣れない通勤路

2023年6月15日
全体に公開

 皆さんは、通勤路をどんな気持ちで歩いていますか?

 私は毎日歩いている道なのに、ドキドキしながら歩いています。玄関を一歩出た瞬間から、緊張の連続です。

 視覚に障害がある私は、外を歩くことが苦手です。全く見えていないというわけではありあませんが、常にぼんやりとした視界では、信号の色や道路と歩道の境目、自転車や歩行者、建物の外観や看板などの情報を十分に得ることが難しいです。

 頼みの綱は、白杖や点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)、車の音、ぼんやりと見える景色の色合いです。冬は一面雪に覆われる地域に住んでいるので、眩しさでさらに見えにくくなり、白杖の先から伝わってくる情報のみで歩くことになります。

 玄関を出て10メートルの場所で迷子になったこともあります。点字ブロックがない場所や雪で埋まっている場合は、車の音や建物から距離を測り、歩道だと思われる場所を歩いています。集中力を欠くと、いつの間にか道路に出てしまいそうになることも珍しくありません。最寄りの駅に着くころには、心と目が疲れ切ってしまうことも度々あります。

 この話を聞くと、「視覚に障害がある方が外を歩くことは危険なことだから歩かない方が良い」と思う方もいるかもしれません。しかし、私は外を歩くために専門家の指導のもと、多くの歩行訓練を経てきました。

 皆さんにとって通勤路は歩き慣れた道なのかもしれませんが、私はいつまでたっても歩き慣れることはないのです。これが、私の日常であり、当たり前なのです。

 そんな私の日常は、通勤路を歩く人や車を運転している人など、様々な方の見守りによって、より安全に歩くことができます。見守っていただけていることで、何かあったときに気が付いてもらえます。そう思えた経験談をご紹介します。

『歩き慣れない通勤路』

 視覚に障害をもち、まぶしさに弱い見え方の私にとって、雪景色は過酷な風景でしかない。

 点字ブロックは雪に覆われ、頼みの雪壁も積雪量や除雪の状況で日々変化する。白杖をガイドに慎重に歩みを進めても、いつの間にか道路に出てしまうこともあった。毎日歩いている通勤路なのに、迷子になる日もある。まるで、果てのない真っ白い画用紙の上を彷徨っている気分だ。最寄りの駅まで移動を終えると、心も身体も疲れ切ってしまう日も珍しくはない。

 そんな通勤路を、今日も爆弾を抱えたような気持ちで歩いていると、いつもは聞こえない音に足を止めた。目視はできないが、どうやら工事をしているらしい。いつもと違う状況に戸惑い前に進めずにいると、「一緒に移動しましょう」と一人の男性が肘を貸してくれた。工事現場の作業員の方だった。無線の指示で工事の音が鳴り止み、進む先々に居る作業員の方がバトンを繋ぐように誘導してくれた。強い不安からバクバクしていた鼓動が、少しずつ落ち着きを取り戻していった。

 いつまでたっても歩き慣れない通勤路だけど、優しい眼差しが冷え切った足取りを温めてくれる。

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