世界で山火事が深刻化。解決特化のスタートアップとVCが続々誕生

2023年8月14日
全体に公開

8月8日、米国の過去100年で最悪の山火事がハワイ州マウイ島で発生しました。12日時点で少なくとも93人が死亡、約1000人が安否不明となっています。

この山火事の出火原因は調査中ですが、近年北米を中心に世界各地で異常気象を原因とする山火事が急増しています。

海外では、そんな山火事問題の解決を目指すスタートアップが相次いで誕生している上、山火事対応スタートアップに特化して投資をするVCまで生まれています。

☕️coffee break

2022年、米国では66,000件以上の山火事が発生し、被害総額は32億ドル(約4637億円)以上となりました。この件数は2021年から13%も増加しており、1983年からは223%の増加にあたります。

米国だけではありません。

EUでも2022年は山火事の記録が始まった2000年以降で2番目に被害が大きく、焼失面積は​​2021年比で86%も増加しました(ルクセンブルクは調査対象外)。

カナダでは、山火事予防に取り組むことで、発生件数は過去20年と比較して年間2000件以上減少しているものの、規模は1.5倍に。2023年に入ってからは過去10年比で4倍近くまで山火事が大規模化しています。

これらの原因の多くは、異常気象です。

・高温と乾燥

気温が上昇で土壌の水分を蒸発することで木が枯れる

枯れ葉同士の摩擦で火が発生

海上で発生した台風で強風が吹きやすく、山火事が燃え広がる

・落雷

海水温の上昇で水蒸気が増える

上昇気流の発達で積乱雲が増加して、落雷が発生

落雷が発生しているため、鎮火作業ができない

🍪もっとくわしく

これまでも山火事はあったものの、そもそも気候変動分野に注目するVC、スタートアップが多くはありませんでした。

・複数の業界を横断したソリューション(プロダクト・プラットフォーム)が必要

・契約まで時間がかかる政府や公共機関が顧客になることが多く、スタートアップは事業展開しにくい

上記の理由から、VCの投資対象にもなりにくく、結果としてスタートアップも生まれてこない、といった状況でした。

しかし、2015年のパリ協定で、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という共通目標が定められたことで、一気に気候変動分野(ClimateTech)に注目が集まるようになりました。

そして、2018〜2020年頃からは山火事の発生がさらに深刻になり始め、大気汚染・空がオレンジ色に変化するなど、日常生活にも影響を与える問題になりました。

こうした流れを受け、徐々に山火事を解決すべく起業する事例が増えたり、投資家も徐々に注目するようになったわけです。

2022年10月には、JPモルガン・チェースに買収されたFinTech企業「WePay」創業者のビル・クレリコ氏が、山火事の発見と阻止に取り組むスタートアップを投資対象とするVC「Convective Capitalを設立しました。

ビル・クレリコ氏は山火事でカリフォルニア州の自宅に帰る道を封鎖された経験や、住宅保険のリスク評価にも影響を与えていることを知り、エンジェル投資家として山火事の解決を目指す、6社のスタートアップに投資してきました。

その経験から、市場の魅力を再認識して、さらに拡大すべく、3500万ドル(約50億円)規模のファンド設立に至りました。

🍫ちなみに

この分野には、すでに200社以上のスタートアップが存在していると言われています。

独断と偏見で選んだ注目のスタートアップ5社をみていきましょう。

・🇩🇪OroraTech(オロラ・テック):熱赤外線カメラを搭載した超小型衛星から山火事のリスク評価・早期発見・リアルタイム監視・損傷分析までを行うオールインワンサービスを提供

・🇨🇦Longan Vision(ローガン・ビジョン):消防・救急隊員向けに極限環境でも作業ができるARヘッドディスプレイを開発

・🇺🇸Our Kettle(アワ・ケトル):89%の精度を誇るAI予測分析で山火事のリスクを算出する再保険事業を展開

・🇺🇸Rain Industries(レイン・インダストリーズ):あらゆるデータや情報をもとに、即座に山火事を検知し、消化作業を行う自律ヘリコプター事業を展開

・🇺🇸Mast Reforestation(マスト・リフォレステーション):山火事後にカーボンクレジットを活用して、地主が低コストで森林回復できるよう支援する事業を展開

日本では山火事の対策・管理を行った結果、1975年(昭和50年)頃をピークに山火事は年々減少していますが、世界ではますます深刻化しています。

上半期時点でも異常な勢いで山火事が発生していることから、今後さらに注目が集まり、課題解決に取り組むスタートアップも増えていくのではないでしょうか。

サムネイル画像:Unsplash/Matt Palmer

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