水産養殖で驚異の成功、ユニコーン企業に
スタートアップがユニコーン(評価額10億ドル/約1400億円)になるのは簡単ではありません。ましてや、一次産業を起点にした事業ではますます難しい。
そのイメージを覆したのが、インドネシアの水産養殖企業「eFishery(イーフィッシェリー)」です。
5月にアラブ首長国連邦の政府系ファンド「42XFund」や、ソフトバンク・ビジョン・ファンドなどからシリーズDで1億800万ドルを調達。評価額13億ドルのユニコーンとなりました。
今回は、このeFisheryの創業ストーリーに迫ります。
☕️coffee break
eFisheryは2013年に設立され、魚やエビの養殖場で自動給餌ができるIoTデバイス「eFishery Feeder」を開発し、水産養殖に参入しました。
現在では、水産養殖エコシステムの構築を目指し、
①養殖業者向け
②エビ養殖業者向け
③バイヤー/消費者向け
の3つの領域でデジタル協同組合、飼料の後払い・融資における金融機関へのアクセス支援、魚販売のマーケットプレイスなど、12の事業を展開しています。
創業のきっかけは、偶然の出会いでした。
創業者のジブラン・フザイファCEOが、インドネシアのバンドン工科大学に在学中の頃に遡ります。
フザイファCEOは、水産養殖の授業で、「今後5年から10年の間に、5つ星ホテルやレストランではナマズを提供するようになる」という教授の言葉を聞き、授業終了後にはナマズ池を借りて飼育を始めるんです。
大学卒業時には76のナマズ池を管理するようになりますが、育てたナマズを仲買人に売っても、得られる利益はごくわずか。
切り身やナゲットに加工して付加価値をつけるなど、より収益性を意識するようになると、あることに気づきます。
それは、餌代がコストの7-9割を占めていたこと。
手作業で給餌を行うと、人件費がかかる上、魚の空腹具合を考慮することができず、餌の多くが無駄になり、水の汚染にもつながります。
そこで、スマートフォンを通じて、遠隔で自動給餌ができる機械を開発したというわけです。
給餌のスケジュールを設定し、魚の食欲を判断するセンサーで餌の投入量を調整できるようにした。
これが、創業時の自動給餌IoTデバイス「eFishery Feeder」です。
🍪もっとくわしく
次に、養殖業者と飼料製造業者を直接マッチングするマーケットプレイス「eFisheryFeed」を開発し、他の養殖業者と共同購入して、安く餌を購入できる仕組みを作りました。
すると、多くの顧客から分割払いで餌を購入したい、という要望が相次ぎます。
自動給餌機によって、業者はさまざまなデータをもとに効率的な養殖ができるようになったものの、天候の都合などで、思わぬトラブルも発生します。
そのため、養殖業者は従来の金融機関から融資を受けることが難しかったんですね。
それを受け、eFisheryは収集したデータを元に、各養殖業者の信用スコアリング、業績分析を行うことで与信の限度額を設定。提携する複数の銀行とともに、後払いサービス「eFisheryFund」をリリースしました。
そのような流れで、12の事業まで拡大するわけですが、この事業拡大の推進力にこそ、eFisheryの強みがあります。
インドネシアの水産業は中国に続く世界第2位。水産業のような伝統産業では、新たなプロダクト・サービスを導入することに対して、抵抗感をもたれがちです。
そのような業界では、導入実績が出るまでは、無償提供や、ディスカウント価格での提供がしばしば行われます。
しかしeFisheryは、最高のプロダクトを開発し、必ず原価よりも高い価格で売ることにこだわってきました。
その結果、優れた事業者だけが顧客となり、そこから生まれた貴重な意見やフィードバックが、そのまま事業拡大につながっていったんですね。
現在では、顧客数は6万以上まで拡大し、2022年の収益は2億6,600 万ドル(約370億円)に達しています。しかも、数年前から黒字化しているようです。
🍫ちなみに
なお、日本発の「UMITRON(ウミトロン)」も水産養殖テックでeFisheryの後を追っています。
eFisheryの設立から3年後の2016年4月、UMITRONは創業時からグローバル展開を目指して、シンガポールで設立されました。
AI・IoT・衛星リモートセンシングなど、さまざまな技術を掛け合わせて給餌の最適化・自動化や、生育状況のリアルタイム分析などに取り組み、魚の安定供給を目指しています。
くら寿司が2021年に設立した新会社「KURAおさかなファーム」との密接な協業を行い、くら寿司の養殖〜販売までを支援していることでも知られているのではないでしょうか。
同社の事業成長にも期待したいですね。
サムネイル画像:Unsplash/Collab Media
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