トラック版Uber「Convoy」:評価額38億ドルからの事業閉鎖

2023年10月23日
全体に公開

運送会社と荷主のマッチングで物流業界を変革するとして期待されていた、米Convoy(コンボイ)が、10月19日木曜日に突如事業を閉鎖しました。

同社はこれまでに11億ドル以上を調達し、2022年4月の資金調達後には評価額が38億ドル(当時約4787億円)に。時期は非公開であるものの、IPOに向けて準備を進めていることも明かしていました。

なぜ、そんなスタートアップが突如事業を閉鎖したのでしょうか。

☕️coffee break

Convoyは2015年に8000億ドルもの米国のトラック輸送市場を変革すべく、Amazon出身の2人によって設立されました。

共同創業者兼CEOのダン・ルイス氏は、Amazonのショッピング体験部門でジェネラル・マネージャーを務めていた際にトラックドライバーからいくつかの深刻な課題を聞きました。

  • 電話・メール・ファックス・大量の書類など、アナログなやり取り
  • 適切にマッチングができず、トラックが荷物を積まずに空車走行をしている
  • 運送会社は需要に応じて、トラックの手配をすることができていない
  • 荷主(荷物の送り主)が荷物の輸送状況を把握できない

これらの課題を解決すべく、運送会社と荷主がオンラインでマッチングする、デジタル貨物のマーケットプレイスを構築したのです。

機械学習を活用して、荷主と運送会社のマッチング・価格設定・配送のスケジュール設定までを自動化することで、ドライバーに収益向上、荷主にはドライバーとの効率的なマッチング機会を提供しています。

Convoy:荷主の取引ページ

また、トレーラーのレンタルサービスや、ドロップ&フックサービス「Convoy Go」も提供していました(運送会社がConvoyが保有するトレーラーを目的地間で積み下ろしを繰り返す)。

Convoyは荷主が運送会社に支払う金額から取引手数料を徴収するモデルで、売上から全ての費用を差し引いた、純利益率は15〜20%ほどになります。

この市場ではUberが2017年から取り組んでいる物流事業Uber Flightがわずか4年で売上10億ドルを突破して、先行しています。一方のConvoyは創業期から著名投資家を惹きつけることで、累計11億ドル以上を調達し、Uber Flightを猛追している状況でした。

「Convoyの各ラウンドでの主要投資家」

  • シード:Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏の資産運用会社、Salesforce創業者マーク・ベニオフ氏
  • シリーズA:Greylock Partners(Linkedin創業者リード・ホフマン氏が取締役に就任)
  • シリーズB:Y Combinator
  • シリーズC:CapitalG(Googleの独立系VC)
  • シリーズD:Generation Investment(元米国副大統領アル・ゴア氏の投資会社)、T.Rowe.Price
  • シリーズE:Baillie Gifford 、T.Rowe.Price

2021年の売上高は7億5500万ドル(当時約868億円)となったことで、2022年4月のシリーズEでは1億6000万ドルを調達し、評価額は38億ドル(当時約4787億円)となりました。

しかし、Convoyは2つの壁に直面しました。

🍪もっとくわしく

2022年4月時点では社員数が約1300人(ピーク時は約1500人)だったものの、2023年10月上旬には約550人にまで減少したのです。

2022年6月→10月→2023年2月→6月と、人員削減を繰り返していたんです。

この背景には貨物市場の大規模な不況と、資本市場の低迷が同時に訪れたことがあります。

当初、Convoyは荷主と運送会社のマッチングを増加させるべく、赤字でも案件獲得に注力していました。事業成長するにつれ、低収益でも事業を安定させられる、長期契約をユニリーバ、P&G、ホーム・デポなどと結びました。

しかし、コロナ禍で輸送の遅延、労働力不足、コンテナ不足により、サプライチェーンは大混乱に陥ります。運送会社のトラックが供給過多になったことで、輸送価格が急落したんです。

加えて、Convoyは上場間近のレイター企業です。

株式市場の先行きが不透明であることから、投資家は出資を敬遠する上、業績不振であることから、資金調達が難しくなったのです。

2021年は売上が7億5500万ドルでしたが、2022年には6億3000万ドル→2023年10月上旬時点では3億2000万ドルと、貨物市場の影響を強く受けていることがわかりました

資金調達が進まなかったことで、ゴールドマン・サックスと4ヵ月間買い手探しに動き、物流大手のCHロビンソン、JBハントと交渉に進んだものの、最終的にどちらも破談となりました。

その結果、2022年に1億ドルの融資を行ったヘラクレス・キャピタルがConvoy事業を実効支配。10月19日木曜日に事業を閉鎖、大多数の社員を解雇して、現在は技術と知的財産の売却先を模索しているというのです。

🍫ちなみに

同じくスタートアップで国際物流事業を展開しているFlexport(フレックスポート)も貨物市場の崩壊で2023年上半期の売上高は前年比-70%の7億ドルとなりました。

Flexportについて:巨大すぎて変えられない「国際物流」のペインを解決する革命児

こうした状況でも継続して投資をすべきだと考えるCEOのデイブ・クラーク氏(Amazonの消費者・物流部門(Worldwide Consumer)の元CEO)に対し、創業者のライアン・ピータースン氏は投資を抑えて収益性を追求すべきだと意見が分かれました。

早急に収益改善に取り組むべきだと考えた創業者はCEOを追放。さらに30%(約1000人)の人員削減を発表するなど、大改革を行っています。

Convoyとは違って、Flexportは9月時点で手元資金は10億ドルほど残っています。創業者が組織をどのように立て直しながら、収益改善に取り組むかには注目が集まっています。

サムネイル画像:Convoyメディアキット

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