オーストラリア:次のアトラシアンを目指す新星、「Employment Hero」が台頭

2023年10月24日
全体に公開

世界各国のスタートアップが資金調達に苦戦している中、オーストラリアのHRプラットフォームEmployment Hero(エンプロイメント・ヒーロー)が、シリーズFで1億6700万ドル(約250億円)を調達しました。

しかも調達後の評価額が1年で75%増の13億ドル(約1945億円)と、異例の高評価を得ました。

すでに5カ国で事業展開していることから、次のAtlassian(アトラシアン)になるのではないかと注目を集めています(同じくオーストラリア発のテック企業で、現在の時価総額は約7兆円)。

☕️coffee break

2014年に設立されたEmployment Heroは、中小企業向けに人事管理・採用・給与計算・福利厚生など、オールインワンのHRプラットフォームを5カ国で提供しています。

「Employment Heroのプロダクトデモ動画」

今回の資金調達では、米グロースファンドのTCVをリード投資家に、総額1億6700万ドル(約250億円)を調達しました。

調達資金をもとにTCVのロンドン・オフィスから支援を受けて、イギリスのチームを1年で現在の2倍となる180人まで拡大し、数年内に最大の市場とすることが狙いです。

現時点で、Employment Heroはグローバルで30万社・200万人以上の従業員に利用されており、イギリスでは2万社・20万人の従業員が利用しています。

TCVは今回の投資に至るまでに数年にわたり、CEOやチームとのコミュニケーションを重ねてきました。

当時はオーストラリアでは一定の市場を獲得しているものの、ニュージーランド、イギリス、マレーシア、シンガポールは立ち上げ段階でした。

新市場での立ち上げに注目していたTCVの担当者は大きく2つのことに魅了されました

  1. 各国の商習慣や規制に合わせて、十分にローカライズ(最適化)したこと
  2. プロダクトを隣接分野へと拡張してプラットフォーム化していること

顧客ターゲットである中小企業は複雑で頻繁に変更される就業規則に対応することに苦労しています。

しかし、既存のクラウドサービスはシンプルで直感的に使うことができないUI/UXだったため、多くの中小企業がクラウドサービスを導入していませんでした。

そこで各国の就業規則、休暇規則、給与規則にフォーカスして、それぞれの国に最適化したプロダクトを開発したんです。

やがて、税務サービスや年金基金、健康保険、住宅ローン、福利厚生サービスなど、関連分野での機能拡充を積極的に行い、あらゆる課題を解決できるように取り組んでいきます。

また、ほとんどの顧客は初めてのクラウド・サービス導入にも関わらず、継続的にサービスが活用されています。このような状況を見て、TCVはEmployment Heroが長年解決されなかった課題を解決して、バリューチェーン全体で価値提供できていることを確信したのです。

🍪もっとくわしく

HRプラットフォームは、米国でRippling(リップリング) 、HiBob(ハイボブ)など、ユニコーンが相次いで誕生している領域ですが、Employment Heroには他社にないユニークな魅力があります。

それは今年5月にリリースした、スーパーアプリ「Swagを提供していることです。

サービス導入企業の従業員向けに転職/キャリア支援から、休暇申請・デビットカード・福利厚生(キャッシュバック特典)まで、業務と個人の経済生活の両方をサポートするサービスです。

この動きはEmployment Heroが人事・給与領域にとどまらず、「全ての人がより気軽に、やりがいをもって働くことができるようにする」というビジョンの実現に向けて、事業拡大していくことが示されたものでした。

🍫ちなみに

今回、Employment Heroでオーストラリアのユニコーンは9社目となりました。

  • Canva(キャンバ):評価額390億ドル

グラフィックデザインツール

  • Airwallex(エアーウォレックス):評価額55億ドル

グローバル決済プラットフォーム

  • Immutable(イミュータブル) :評価額25億ドル

Web3ゲーム開発プラットフォーム

  • Go1(ゴーワン):評価額20億ドル 

法人向け学習サービス

  • SafetyCulture(セーフティーカルチャー):評価額17億ドル 

現場仕事向けコミュニケーションプラットフォーム

  • Culture Amp(カルチャーアンプ):評価額15億ドル

従業員エンゲージメントプラットフォーム

  • Employment Hero(エンプロイメント・ヒーロー):評価額13億ドル

中小企業向けHRプラットフォーム

  • Linktre(リンクツリー):評価額13億ドル

リンクインバイオ(プロフィールページ作成)サービス

  • Pet Circle(ペット・サークル):評価額10億ドル

ペット用品EC

オーストラリアにはスタートアップ投資家が少なく、未上場でユニコーン級まで事業成長をしていく上で資金調達は大きな課題となります。

ゆえに、これらの企業はある程度の規模になるまではオーストラリア国内の事業法人やCVCから調達。海外展開を本格化するタイミングで海外の投資家から資金調達をしていることが共通点として挙げられます。

CVC・事業法人の投資においては、アトラシアンの出現以来、Salesforce Venturesが熱視線を送っており、2014年〜2023年で最も投資件数の多いCVCとなっています

その他にも現地の人材プラットフォーム企業「SEEK」などが積極投資しています。

これらの動きを踏まえると、今後もオーストラリアのソフトウェア、HR分野から、グローバルなスタートアップが誕生する可能性が高いと考えられます。

サムネイル画像:Unsplash/Jamie Davies

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