スタートアップの大型調達に新たな選択肢(3月国内調達額トップ5)

2024年3月29日
全体に公開

3月、国内のスタートアップではエクイティ・ファイナンス(新株発行)以外での大型調達が複数件発表されました。

中でも注目は、特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)の活用です。

スタートアップが資金調達をする際は、VCなどの投資会社もしくは事業会社ですが、本制度を活用すると、証券会社などを通じて、機関投資家だけでなく、個人投資家を含むプロの投資家からも資金調達をすることができるんです。

本制度を活用して、50億円もの調達をした事例が生まれたので、チェックしていきましょう。

サムネイル画像:DALL·E 3での生成

☕️coffee break

1. GO:タクシーアプリ

  • 融資枠:80億円(シンジケート・コミットライン)
  • 参加金融機関:三菱UFJ銀行 (50億円)、三井住友信託銀行 (10億円)、みずほ銀行、三井住友銀行、あおぞら銀行

ここに注目👉タクシーアプリ『GO』は日本国内45都道府県で展開しており、累計ダウンロード数は(23年12月末時点)1800万と、タクシー配車アプリにおいては日本NO.1となっています。

今回のシンジケート・コミットメントライン契約は、4月から「日本版ライドシェア」が解禁されることに伴い、事業の拡大状況に応じて機動的に投資するためのものだと考えられます。*シンジケート・コミットメントライン:複数の金融機関が共同で設定した融資枠。企業はこの枠内で必要に応じて、借入をすることができる

「日本版ライドシェア(自家用車活用事業)の特徴」

タクシー会社管理のもと、二種免許を持たない一般ドライバーが自家用車で乗客を輸送できるように。区域ごとに運航を認める台数の上限、時間帯などが決められています。

【対象区域】

・東京23区、武蔵野市、三鷹市

・神奈川県(横浜市、川崎市、横須賀市、三浦市)

・愛知県(名古屋市、瀬戸市など12市、3群)

・京都府(京都市、宇治市など8市、4群)

(5月以降に大阪、北海道、広島など8区域を追加予定)

ドライバーの教育や車両整備、事故時の責任はタクシー会社が負うため、GOはタクシー会社が日本版ライドシェアに対応できるよう、導入支援サービスの開発・提供に取り組みます。

2.  ティアフォー:オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」

  • 資金調達額:60億円
  • 投資家:いすゞ自動車(60億円)、三菱商事(金額非公開)

ここに注目👉いすゞが蓄積してきた路線バスのデータや知見をもとに、共同で自動運転レベル4に対応した車両とシステムの開発に取り組みます。

三菱商事はこれまでもティアフォーと協業し、大型自動運転バス・地域のオンデマンドバスの自動化を目指してきました。今回の出資を機にさらに協業を加速させます。

現在、ティアフォーはバスの自動運転運行を中心に取り組んでいます。これまでの実証実験はティアフォーがパートナー企業の車両を活用して一定期間での実施でした。

3月9日からはティアフォーの「Autoware」を搭載した小松駅〜小松空港間の自動運転路線バスが、全国で初めて有償での通年運行を開始しました

3. 五常・アンド・カンパニー:途上国の中小零細事業向け小口金融サービス(マイクロファイナンス)

ここに注目👉2022年に規制が改訂された特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)を活用して、野村證券を通じて、特定投資家から資金調達をしました。

特定投資家とは、適格機関投資家や上場企業に加え、一定の金融資産・知識を持った個人投資家のこと。2月にTBMがFUNDINNOを通じて3億円を調達をしたのが、初の制度活用で、五常・アンド・カンパニー(以下、五常)は現時点で史上最高額の資金調達を完了しました。

日経新聞によると、五常は今回の資金調達を実施するにあたって、130ページ強の特定証券情報(財務状況やリスク)を開示しました。

また、同じく野村證券を通じて、プリント基板を開発するエレファンテックが約30億円を調達しました。

資金調達をする企業にとっては、大型調達の選択肢が増える上、これまでよりも幅広い投資家にアプローチをして、上場後を見据えたファイナンス戦略をとることができます。

3. アイリス:AI技術を用いた医療機器の開発

  • シリーズD
  • 資金調達額:50億円
  • 投資家:JSR(投資子会社)、虎ノ門インパクトキャピタル(東京都が出資するファンド)など

ここに注目👉数秒〜十数秒でインフルエンザの判定を行えるAI搭載の咽頭内視鏡システム「nodoca」を開発しています。2024年3月末までに5万人がこの検査システムを活用したインフルエンザ検査を受けました。

インフルエンザの場合は、のどの奥にインフルエンザ濾胞(イクラのようなぶつぶつしたもの)が現れます。これまでは医者が経験に基づいて目視で診察していたものを、AIが過去のデータをもとに判定するのです。

今回の調達資金をもとに、さらなる研究開発・導入の拡大を進めると共に、咽頭画像データベースを拡大することで、新たな疾患判定AIの研究開発を加速させます。

5. エナジーグリッド:電力の小売・卸売取引

  • 資金調達額:36億円(シンジケートローン)
  • 参加金融機関:三菱UFJ銀行(アレンジャー)、あおぞら銀行、愛知銀行

ここに注目👉2021年7月にゴールドマン・サックス・シンガポールでエネルギートレーディング&リスクマネジメント業務に従事していた城﨑洋平氏が設立したスタートアップ。

ここ数年、ウクライナ戦争や暖冬による影響で、天然ガス価格が乱高下しており、それが電力価格にも波及しているためリスク回避の需要が高まっています。

欧米では2000年前後に電力小売りが自由化されましたが、日本は2016年と大幅に遅れたため、将来の電力を一定の価格で売買するデリバティブ取引量はそれほど多くはありません。

現在、そんな状況が外資系企業の参入により、激変しているタイミング。エナジーグリッドはゴールドマン・サックス出身者を中心に、電力現物取引や金融取引に精通したメンバーが集まっていることを武器にオーダーメイドの独自商品を組成しています。

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