a16zとLerer Hippeau、米著名VCが相次いでtoC投資を縮小

2024年3月18日
全体に公開

実は今、米国のBtoC(消費者向け)事業を展開するスタートアップの投資環境において、大きな変化が起きています。

Andreesen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ/通称:a16z)、Lerer Hippeau(レラー・ヒッポー)といった著名ベンチャーキャピタル(VC)を筆頭に、toC分野への投資戦略を見直す傾向が広がっています。

本記事では、これらのVCがtoC投資を見直す背景と、その是非について掘り下げていきます。

サムネイル画像:Unsplash/Nik

☕️coffee break

昨年6月にa16zは消費者チームをFinTechチームと統合したことを発表しました。統合後のチームでは、AI分野を中心とする投資方針に見直されました。

それまでa16zでは、Airbnbのような巨大な消費者サービスや、TikTokのような中国発の消費者向けアプリを求めて、投資機会を模索していました。

しかし、イベントプラットフォーム「Hopin」、写真共有アプリ「BeReal」、音声SNS「Clubhouse」など、コロナ禍で投資をしてきたスタートアップが相次いで苦戦に追い込まれたのです。

参考:コロナ禍のスター企業「Hopin」が経営難で中核事業を売却

また、中国系スタートアップへの投資においては、米中間での規制がますます強化され、中長期的な状況が読めなくなったことで、ほぼ全く投資ができなくなりました。

これにより、これまで消費者チームを率いていたゼネラル・パートナーは退職(独立)・チーム異動を迫られたのです。

「著名なD2C企業を発掘してきたLerer Hippeau(レラー・ヒッポー)はB2B投資に注力へ」

Lerer HippeauはサステナブルシューズのAllbirdsやメガネのWarby Parker、コスメのGlossierなど、D2C分野で代表的なスタートアップに投資をしてきたことで知られています。

しかし、直近5年間で徐々にtoC→エンタープライズ(toB)にシフトしており、現在運用中のファンドでは70%がtoBのスタートアップへの投資になっていたのです。

スタートアップ投資の過熱とともにtoCスタートアップには多額の資金が集まり、業績に対して企業価値が高くなりすぎていました。

そんな状況で、金利上昇により、消費者支出が鈍化するとともに顧客コストが上昇し始めています。

こうしたマクロ環境の変動が、toCスタートアップに厳しい環境をもたらし、投資家たちはtoBにシフトして、より確実なリターンを求めるようになったんです。

「2023年11月上旬までの消費財、ECスタートアップの資金調達動向」

Crunchbase:VCs No Longer Do DTC

🍪もっとくわしく:toC投資の是非

toC投資に特化して、10年で最も成功したVCの1社となったForerunner Ventures(フォアランナー・ベンチャーズ)が、2010年以降にシリーズBの調達を行った12,000社以上のスタートアップを分析すると興味深い結果になったと発表しました

それは、toC企業の方がtoB企業よりも優れた点がいくつもあるということです。

toCスタートアップの方が、

・IPOに至る確率が13%高い

・時価総額100億ドル以上となる確率が2倍高い(toCは18.8%、toBは9.6%)

・企業の成長性と収益性を測る指標「Rule of 40*」の達成率が16%高い(toCは62%、toBは44%)

*Rule of 40とは売上高成長率+営業利益率が40%を超えているかが基準で、それを超えている企業は高い成長性と収益性を兼ね備えていると見なされる

Amazon・Google・Metaといった世界最大手のテック企業は、いずれもtoC事業からスタートし、その後に隣接する分野のtoBで拡大してきたように大きな成功を収めることができる市場でもあるのです。

🍫ちなみに

VCがBtoCスタートアップへの投資を縮小・見直しをしている一方で、プライベートエクイティ(PE)は引き続き積極的な投資を行っています。

例えば、LVMHグループ系列のL Catterton(エル・キャタルトン)、Great Hill Partners(グレート・ヒル・パートナーズ)など。

一般的にVCは利益が出ていない企業にも投資を行い、成長を支援しますが、PEは利益が出ていて、カテゴリーリーダーに値する企業(ブランド)を中心に投資を行います。

スタートアップの資金調達市場には周期性があり、これまで何度も資金が集まりやすいホットなカテゴリーが現れたり、消えたりを繰り返してきました。

短期的には向かい風が吹いているものの、明確に価値を届けられていると、持続的な成長を遂げることができます。

また、過去の事例から、著名なVCはこうした市場でも逆張りの投資を行うことがあり、それにより、高い成果を上げてきました。

toCスタートアップにとっては自らの価値を見直す重要な局面を迎えています。

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