【ニュース上乗せ】世界一の高成長国含む中南米。どんなビジネスの種がある?

2023年7月15日
全体に公開

世界の成長地域に関する記事でよく取り上げられるのはアジア、アフリカです。こうした「人口が多い、しかも若い年齢層が多い」「中間層が増えている」国・地域は成長ぶりが分かり易く、その観点で中南米は語られることは少ない気がします。でも昨年、海外から中南米に流れ込んだ直接投資は過去最大の額を記録するなど、ビジネスは活発に行われているのです。国連機関の報告書をもとに、中南米で展開されているビジネスにはどのようなものがあるのか見てみましょう。

*【ニュース上乗せ】は、最近出たニュースをより深く理解するためのトピックス記事です。このトピックスはこのニュースに解説を上乗せしています(ロイター 2023年7月11日付「中南米・カリブへの海外直接投資、22年は過去最高=国連報告書)。

GDP成長率のランキングを見たことがありますか?

IMFのGDP成長率マップを眺めていると面白いことに気づきます。ガイアナという南米北部にある人口80万足らずの国が、ここ数年、世界一の高成長国として君臨しているのです。2020年の実質GDP成長率は43.5%(首位)、翌21年は20.1%(3位)、昨年はなんと62.3%の成長となっており、2位のセントルシア(これも中南米地域の島国です)の14.9%をおさえ、ダントツの首位でした。

近年はコロナ禍の影響で、観光を主要産業とする国々が大きな影響を受けてきましたが、コロナからの回復に伴う「前年の反動」で二桁成長を記録している国も少なくありません。しかしガイアナはそうした統計の都合で高成長を記録しているわけではありません。

背景として、新たな油田が見つかったことがあります。石油メジャーのエクソンが、ガイアナ政府から取得していたスターブロック鉱区で2015年に原油の埋蔵を確認して以来、急激な成長を遂げているのです。そうした成長を支えているのは、海外からの石油開発関連投資です。2021年、22年と連続して40億ドル以上の投資がなされています。

出所:ECLACデータより筆者作成

それでも中南米全体におけるシェアは僅か

ガイアナの石油資源に集まる海外からの投資。しかしこれでも中南米全体の対内直接投資額の2%程度にすぎません。国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会が2023年7月10日に発表したデータによると、中南米地域への2022年の同投資額は、前年比55%増の2,250億ドル(約31兆2,000億円)と過去最高額となりました。

国別では次のグラフのとおりブラジル、メキシコ、チリ、コロンビア、アルゼンチンが多く、この5カ国で全体の8割以上を占めています。国別トップのブラジル(915億ドル、約12兆8,000億円)は、有力な新興市場の一角として注目が集まっていた2010年代前半の水準近くまで戻してきました。内訳をみると、サービス関連投資が全体の半分を占め、製造業、天然資源と続いています。2位のメキシコも、サービス業が全体の半分以上を占めていますが、これは一件の大型案件があったことによります。自動車を中心とした製造業の割合がもう少し高いのが例年の傾向です。チリは例年、非鉄金属関連やサービス関連の案件が多く、製造業投資は殆どありません。

出所:ECLACデータより筆者作成

ECLAC報告書記載の、クロスボーダーM&Aの案件(中南米以外の企業と中南米企業間の案件)をみると、2022年に大規模なM&Aが行われたのはサービス分野です。この分野も大きく2つに分けられます。まずは放送・通信や電気・ガス・水道などのインフラ分野で、もう一つは近年目につくスタートアップに関するM&A案件です。

前者については次の地図にあるように、メキシコ・米国のヒスパック系放送局が関係した案件、ジャマイカに本拠を置きながら南太平洋で事業を展開する通信会社デジセルの一部部門の買収などがありました。デジセルはカリブ海で事業を展開していますが、南太平洋諸国でも事業を行っていました。本案件は、日米豪3カ国のパートナーシップに絡む案件として、日本の国際協力銀行も関わっているとのことです(同社プレスリリース参照)。

ブラジルやアルゼンチンでは、スタートアップ関連の案件がみられました。オランダ企業に買収されたブラジルのフードデリバリー最大手のアイフージ(iFood)は、ユニコーン企業として知られていたスタートアップです。

出所:ECLACをもとにジェトロ・ビジネス短信、報道の内容を一部加筆。

地図には記載されていませんが、製造業については上記以外にメキシコやブラジルでも投資案件があります。エネルギー分野では炭化水素関連でガイアナの他にメキシコでの案件があります。また、再生可能エネルギー関連投資は、中南米ではこの10年間はチリやブラジルで投資案件がよく見られましたが、2022年はパナマやドミニカ共和国などでも案件が記録されています。

直接投資の案件を見ることで、中南米地域で様々なビジネスが展開されていることが理解できます。今回は概観のみ記しましたが、詳細については次回以降のトピックスで紹介していきます。

トップ画像:Unsplashより(Almani撮影)

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