『優れた起業家の条件』
いまベンチャーキャピタルにおいてキャピタリストというスタートアップ投資の仕事をしていますが、世の中の最先端、もっと言うと5-10年後の未来に投資をするビジネスである為こちら側の知識量も半端ないものが求められます。
その為毎日毎日、自分自身をアップデートして自分なりの物事の見方をシームレスに更新をしていかなければ、才能あふれる起業家の皆さんとの会話にはついていけません。そのため、相当な努力を継続して行く必要あります。
以前読んだ以下の本になかなか良いアクションプランが書いてありましたので、僕も日課に取り入れることにしました。
ソースはこちら。https://t.co/OHdZHjOZHV
— 鈴木大祐 @ソニーベンチャーズ/Sony Innovation Fund/Sony Ventures (@SuzukiDicek) November 5, 2022
「毎日欠かさずに、読書を1時間する事を日課にするだけで、世界のトップ0.00001%の人間になれます。毎日本を欠かさず読む習慣を身につけよう!」
継続は力なり、ということで毎日1時間はどんなに忙しくても絶対に本を読むことにしました。これまでも本は読んでいましたが、図書館でも借りまくり、Kindleでも買いまくり、いろいろな本を読み漁ることにしました。
ちなみに以前は一冊一冊を読み切らないと気が済まなくて我慢しながら読んでいることもあったのですが、本をいくつかを並行して飽きをかんじたら飛ばしたり、少し本を変えてみたりすることで楽しみながらずっと読めるようになってきました。これが僕にはあったsスタイルの読書法でした。
そんな中で最近読んだ本で大変参考になる本がありましたので、今日はその本のご紹介と、その本を読んでの自分なりの考えを纏めて見たいと思います。
まずはおすすめの本のタイトルのご紹介ですが、「スーパーファウンダー 優れた起業家の条件」です。
本の大まかな概要としては、時価総額10億ドル以上になったユニコーン企業に関して(米国中心)、統計的に傾向を探る研究結果がまとめられており、そこに過去に成功を収めたユニコーン企業のファウンダーや偉大なVCのキャピタリストたちの成功の秘訣インタビューがふんだんに記載されている本でした。
ふと見つけた本だったのですが、大変勉強になりました。それでは本書に沿って、自分なりに感じたことを纏めていきたいと思います。皆様にもお勧めしたい本です。
起業家のバックグラウンドについて
スタートアップ企業というと若い方々が多く、若くないといけないのか?という通念がもしかしたらあるかもしれません。しかし本書の統計によると年齢は全く関係なく、ユニコーン企業誕生時のファウンダーの年齢は非常に幅が広いことが見て取れます。Jet.comは42歳の時に、人事管理ソフトで著名になっているWORKDAYに至ってはデイビッドさんは64歳ということでした。
また技術者がCEOの方が良いのかどうか?ということについても論じられていました。結論としては技術者CEOでもそうでなくても、ユニコーン比率は同じ、ということでした。
但し、CXOの中に少なくとも技術者がいることは重要のように見えます。むしろ経営や財務が分かるメンバーと、技術が分かるメンバーのバランスの良さが会社を成長させると言って良いでしょう。
実際に自分が見ている投資案件でも、そうしたバランスの良い経営チームは、組織の意思決定や仕事を進めるプロセス管理や質が高いように感じています。
また、面白いことにその時に経営しているスタートアップ事業とCEOの過去の事業には強い関係性が無くても、結果としてうまくユニコーンになった事例も多数あるということでした。
ユニコーン企業になるのに起業家個人の過去に関連事業の経験の有無は関係ない、というデータです。意外です。
— 鈴木大祐 @ソニーベンチャーズ/Sony Innovation Fund/Sony Ventures (@SuzukiDicek) November 27, 2022
むしろ人を動かすソフトスキル、人間力が重要、とのこと。
他にも面白い統計が沢山載ってました。
出所:「スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件」⬇️https://t.co/1lYNymK7I1 pic.twitter.com/0tfX1EcNGi
なお、昨今のような不況モードになってきた際に感じていることを付言しますと、実際に事業をやってきて、会社のリストラクチャリング経験がある人材は貴重です。
企業再建やPEファンドで経験を積んできた人材です。如何にして早期に会社を黒字化させるのか、という会社の最適化を設計できるメンバーがいる会社は非常に強いでしょう。
一方でユニコーンになるかどうかにおいて明確に優位差が出ている起業家群がありました。それはシリアルアントレプレナー=連続起業家です。但し、単に起業した人ではなく、最低でも10億円以上でエグジットをしたことがある人です。
VC投資において10億円エグジットというとそんなに大きな金額ではないのは事実ですが、ゼロから会社を作り、10億円の価値を創造した方々のノウハウ、創造力はやはり大変なものです。さらに個人としても10億円の投資余力を持っていますので、財務面でも保険があるとも言えます。
確かにユニコーンには憧れますが、起業家にとって大事な心持ちはそこではないようです。
「最初から10億ドルのユニコーンを目指す必要はなく、何かを作ること、問題を解決すること、ハードシングスを乗り越えていく過程を楽しめることが重要である」
と本書では結論付けています。
ピボットのコツ
本書ではピボットをうまく成し遂げるコツについても詳細に記述されています。
いまでは誰もが知るスタートアップでもたくさんのピボット事例があります。とても分かりやすい事例としてはYoutubeです。
YouTubeも実はピボットの産物。
— 鈴木大祐 @ソニーベンチャーズ/Sony Innovation Fund/Sony Ventures (@SuzukiDicek) November 27, 2022
元々出会い系サービスで設計したが誰も使わなかった。
=> 一方ユーザーが休暇やペットのビデオをあげ始めた事に気づき、当初事業に固執せず別の価値提供で大成功。
余裕があるうちにうまくいかない事業はピボットする決断力が重要。
出所:https://t.co/E4Fq9aeOBC pic.twitter.com/FtETjL7FN9
技術そのままは活用していますが、顧客のペルソナを大きく変更しています。
自分の投資先でもこれまで培ってきたコア技術を、テクノロジーは変えずに他業界に見事に適用させて新しい成長事業を作った事例が複数あります。ピボットすることは全然悪い事ではなく、必要な時は一気に取り組むことは重要です。
一方でピボットをする際には気を付けないといけないことがあります。それは資金の管理です。ピボットをするとこれまでの収入が失われて、新たな収入が生まれるまでは再び赤字を掘ることになります。よってピボットを行う際には十分な資金があることが大変重要になってきます。自社製品がPMFするまでは、極力資金効率を意識して資金をセーブすべし、と本書では言っています。
議論は分かれるとは思いますが、本書ではPMFするまではセールスやマーケティングに費用は使うべきではないといっています。まずはチャーンをかなり低い水準に抑えることに注力して、そのうえで新規の顧客の開拓をすべきだとグレイロックVCのサラさんがコメントしています。
ユニコーンになりやすい業種やマーケット
本書の調査によって、これまでのユニコーン企業が属する業界について分析が行われています。これを見るとやはりB2Bのエンタープライズ向けのソリューションはTAMも大きく成功しやすいという可能性が示唆されます。
ユニコーンになれたスタートアップの業界割合の図。
— 鈴木大祐 @ソニーベンチャーズ/Sony Innovation Fund/Sony Ventures (@SuzukiDicek) December 3, 2022
B2Bエンプラソリューション、2C SaaSなどが多い。
フィンテックやバイオが意外と小さいのは意外だった。
出所: https://t.co/zBYEaaH6V1 pic.twitter.com/L0KPYFCyWW
またヒット率は下がりますが多くのスタートアップがいる2CのSaaSのユニコーンも数は多いようです。
また個人的にはかなり興味深い統計がありました。著名なVCさんは「小さなマーケットでもいいから圧倒的シェアを取れ」とニッチ戦略を説く人も少なくありません。僕もそれは正しいと思ってきました。
ただ、実際の統計を見るとそうでもなかったようです。ユニコーン企業の60%以上が、すでに需要がそこにあるマーケットで事業を始めていた、という結果でした。こうしたTAMが大きなマーケットでユニコーンになった企業は、優れた技術力により大手も含めた他社からシェアを奪ったり、コストを下げてマーケット自体を更に拡大して成長を続けています。
分かりやすい例で言うと、オンライン会議のZOOM社の事例があります。
なぜWebex等大手がいる中でZoomは後発で勝てたのか?
— 鈴木大祐 @ソニーベンチャーズ/Sony Innovation Fund/Sony Ventures (@SuzukiDicek) November 30, 2022
エリックさんは元シスコのWebex エンジニア。顧客から不満だらけのWebexの改善提案しても大会社ゆえに却下。
それで会社を辞めゼロから顧客目線で作ったツールがZoom。その後は皆さんご存知の通り。
主典:https://t.co/rSj1QuwGEb
もちろんゼロからマーケットを作る企業もありますが、やはりこれは時間もかかりリスクが大きい戦略かもしれません。
TAMが大きいところに、他社よりも優れた技術で、他社よりも早く動くことで勝つことができます。大企業は強敵ですが、大企業には過去のしがらみもあります。
スタートアップが勝てるスペースは必ずあります。
僕がいたJALでもそうだったんですが、昔からのシステムを使うお客様がいる場合、運用を止めるわけにいきません。
— 鈴木大祐 @ソニーベンチャーズ/Sony Innovation Fund/Sony Ventures (@SuzukiDicek) November 30, 2022
故にシステム改修の難易度が高すぎて、JALもシステム刷新に予定より何年も多くかかりました。
スタートアップがゼロからagile に作り、大企業に勝つチャンスは十分あると思います。 https://t.co/5YQJByRsfv
黒字化の重要性
昨年までは売上拡大の為に赤字を掘ってでも良い、という思想が流布していましたが、景気がこうして悪化してくると赤字の企業には上場企業投資の投資家も含めて、資本市場からは赤字企業は相手にされなくなってしまっています。
どのようにして黒字化させていくのかという経営戦略の道筋の明確化が大変重要です。
スタートアップで黒字化なんて無理に決まっているじゃないか・・という声も聞こえてきそうですが、街中でレストランや物販をしているお店は当初は創業ローンをお借りするとしても基本的には初期から黒字化させてローンを返済し、自己資本を厚くし、2店舗、3店舗と事業を拡大しています。
著名なスタートアップでもブートストラップ=外部資本を取らずに成功した会社があります。例えばギットハブです。当社は途中で戦略的目的によりアンドリーセン・ホロウィッツから出資を受けましたが、お金は必要ありませんでした。設立から9ヵ月後には課金できるようになっており早期に黒字化しています。
そんな状況ですから設立から4年半は外部資本を受けていませんし、資金調達の交渉は非常に強気に進められました。そして最終的にはマイクロソフトに75億ドルで買収されています。
本書ではスタートアップの皆さまへのアドバイスとして「VCから資金調達できない前提で企業経営を考えるべき」と結論付けています。
最後に
本書にはここでは紹介しきれないほど有用なインタビューや情報があります。宜しければぜひご覧ください。
最後に総括をすると、大成功するために抑えるべき基本的な部分はありますが、完璧なマニュアルはありません。アンドリーセンは
「弱みがない会社でなく、強みがある会社を目指せ」
と言っています。その焦点の定め方、実行のスピード、そしてタイミングや運も重なって大成功かどうかが決まります。
結果は最後まで分かりませんので、苦しいときも含めてやれるだけやってみて、後はなるようにしかならないと楽観的に割り切って、プロセスそのものを楽しむことも大切でしょう。最後に大成功した人も、何度も苦境には陥ってますから。
そしておまけですが、今週見つけたイーロンマスクさんの経営6箇条が大変興味深かったので、そちらをご紹介して今回のTOPIXは終わりとしたいと思います。
イーロン・マスクのテスラでのビジネスルール6箇条
— 鈴木大祐 @ソニーベンチャーズ/Sony Innovation Fund/Sony Ventures (@SuzukiDicek) December 2, 2022
1)大人数の会議は避けよ
2)貢献しない聞いてるだけの人間は会議からは退席せよ
3)職務遂行の為の最短ルートで動け
4)頭良さげな難しい単語は使うな。クリアに伝えろ
5)定期MTGは不要。緊急案件にフォーカスせよ
6)常識を軸に判断せよ
最後まで読んでいただきましてありがとうございました。
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