僕達はJALをどうやって再建したのか⑫「機内サービスの全面刷新」

2023年12月25日
全体に公開

最近、JALが新型のA350機材をニューヨーク線に投入することが大きなニュースになっていました。

エコノミークラスの売りとなっている最初から少し傾ける座席のアイデアを10年前に発案した時の記憶を、前回『僕たちはJALをどうやって再建させたのか⑪「新しい機材を創る」』で記載させて頂きました。

今回は更に細かく、客室本部というJALのフロントともいる事業部において、どのように改革を推進していったのかについて記憶を辿ってつづりたいと思います。

ちなみにJALはディズニーシーのニューヨークエリアにあるビッグバンドビートのスポンサーになっています。クリスマスシーズンのディズニーシーは本当に綺麗です。

それでは本編に入ります。

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これまでの連載にて書いてきたように、本社にいる時に作ってきたJAL再建計画の主軸は、

①財務リストラクチャリング(=債務の圧縮と資本増強)

②徹底したコスト削減、固定費を削減して変動費化すること

③規模を縮小して均衡点に戻す

という手法だった。

これをとにかく早期に一気に実行貫徹することで、JAL再建の初動とした。そして、更生計画の策定とその後の計画実行の一部の責任者として実施した功労を認めて頂き、いまでは絶対に考えられないが

「ボーナスも給料も出せないけれど、好きな部署に異動させてあげるよ」

というオファーを人事部さんから頂いて、僕は企業再建の本質であるJALの商品サービスそのもの、お客さまに価値を提供する事業部への異動をお願いした。

これはユニバーサルスタジオジャパン(USJ)の再建に2005-2008年に関わった時に、自分自身の体験談として感じた一つの勝ちパターンだったからだ。

USJでもまずはゴールドマンによる資本注入を行い、債務の圧縮を行い、財務の健全化を半年程度で完了させた。その後はIPOを目指しながら、事業を強化するということが企業再生の本質で、それは現場にいないとできないと感じていたからである。

(USJ再建の時のお話は「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を僕たちはどのように再建したのか?」に纏めてあります。お時間あるときにこちらもぜひご覧ください。)

そして、客室本部に行き、これまで紹介をしてきたような約2年半の間に様々な取り組みを行ってきたが、機内サービスの大幅な改善をどうやって実現したのかについてご紹介したい。

僕もJAL入社前はちょいちょい飛行機には載っていたいが、残念ながらJALのサービスが良いとはあまり思えなかった。しかし、なぜそう感じるのかをうまく言語化はできてていなかった。

僕が最初に取り組んだことは、なぜお客さまがJALのサービスを良いと思わないのか?ということの言語化と、原因を因数分解して一つ一つ修正案を考えていくことだった。その時の話を振り返ってみる。

機能価値=座席の劣後

詳しくは前回の僕達はどうやってJALを再建したのか⑪「新しい飛行機を創る」をご覧頂きたいが、一般的に商品の価値とは

「商品価値」=「機能価値(座席等)」+「感情価値(ヒューマンサービス等)」

と説明されることが多い。しかしながら、僕はエアラインにおいては座席の価値はあまりにも重要なファクターのため、

「商品価値」=「機能価値」x(1+「感情価値(-1~無限大の値を取る)」)

というような方程式のイメージでとらえていた。

故に、本社側で現場の意向は関係なく新型機のエコノミークラス座席は31インチとする方針が出た時に、体をはって徹底して反対し、負けたらクビを覚悟で議論を交わした。

その議論で勝利を勝ち取った結果、今はお客さま側の立場になった自分も快適なJALのエコノミークラスで世界各国を飛び回っている。

余談ではあるが、やはりビジネスクラスに比べたらエコノミークラスでの異動は大変なのは間違いないので、以下のようなエコノミークラスを快適に過ごす秘伝の技をXで紹介をしたら多くの方々に見て頂けたようである。

さて、前回に書いたような大きな論争を仕掛けたこともあり、今度はそれを活かすも殺すも我々客室本部次第ということになるわけで、全責任を感じながら客室サービスの改革に着手した。

機内サービスマニュアルを客室乗務員ではない僕が作ることになった経緯

まずは機内サービス(のヒューマン部分)について、なぜ自分が満足できないのかについて、言語化することから取り組んだ。その為にもまず大事なことは現場主義である。現場から上がってくるレポートは日々たくさんあるし、ライン管理職の皆さんからもいろいろな情報は頂ける立場にはあったが、やはり百聞は一見にしかずである。

今現在も、自分の投資先のベンチャー企業の皆様にもよくお伝えしていることであるが、本当に事業が起きている現場はなによりも重要な場所であり、自社にとって有意義な情報の宝庫である。暇さえあれば現場を直接見ることをお勧めしている。当時の僕も、まずは徹底して現場、すなわち実際のフライトに同乗した。ロンドンでもサンフランシスコでもシンガポールでも上海でも、同じ飛行機で現地滞在3時間程度で日本と現地を往復して機内の状況を観察した。

ちなみに上海での出来事だが、自分はJALの社員でこういう目的であると説明しても、同じ飛行機で日本に帰るということがめちゃくちゃ怪しまれ、別室連行となった。幸いにして空港内にはJALの空港部門があり、そこに自分の身元を確認を取ってくれと懇願したところで身元と目的が証明され、無事に解放されて同じ飛行機で帰ることができた。但し、軍事関係の空港閉鎖で出発が数時間遅れるというトラブルにも巻き込まれた。もう二度と中国線ではシップなり(同じ機材利用)はやらないと決めた。

逆にロンドンの空港では「あなたも大変ねぇ」みたいな同情の言葉はあったがすんなり通ることができたことを今も記憶している。

さて、機内ではどう過ごしていたかというと、基本的に離陸したらすぐに厨房である「ギャレー」に移動して、そこから各クラスの乗務員の動き方のデータを取ることを行った。

国際線の稼ぎ頭であるビジネスクラスからまずは着手をした。(その後エコノミーを検証。ファーストは他社よりも多い乗務員数なので特に検証はしなかった)

お客の立場として、JALのビジネスクラスが抱えていた問題は、

①:大した品数でもないのに、ほとんどの便で2時間半くらい時間がかかっていたこと

②:かといって乗務員は忙しそうに駆け回り、飲み物のお代わりすらまともにもらえない、

という状況になっていたことである。

この原因を探るためにギャレーから各乗務員の動き方をモニタリングし、データ化していった。エンジニアであればカメラをつけて動きを自動でトラックして個々人の動きを簡単に見える化できたのかもしれないが、僕は紙と鉛筆で各人の動きをメモしていき、それをオフィスに戻ってからエクセルに落して、どこに無駄の原因があるかという事を探った。するとその結果はある意味予想されたことでもあるが、大きく二つの要素があった。

一つ目は少々マイペースななお客さまの存在であった。

基本的には前の方に座るお客さまから順々にサービスをしていくし今もそうなっているのだが、前にいる人の中でどんどんお酒を飲もうとする人がいると、乗務員が通過するたびに乗務員を呼び止めてお代わりを求めてくる。すると前の方に座った人にはサービスが行き届くが、後ろのお客さまには前菜すらなかなか出てこないという問題が生じていた。

そうした現状のため、忙しく動き回る乗務員はなかなか気づけない、もしくは気づけても後ろに行けないという問題があった為、僕達はある意味単純な作戦を講じた。

要はすぐにお代わりを求めなくて済むようにすれば良い話なので、高級レストランぽくしたいという幻想は捨てて、現実的な提供方法を徹底することを現場の皆さんにお願いすることにした。ジュースを缶で出すのはあまり現場では望まれていなかったが(搭載本数に限りがあるので、使用本数のセーブという意味もあり)、コース料理の時間帯は必ず缶と一緒に提供することでお客さまご自身でお代わりしてもらえるようにした。

ワインは一般的にはワイングラスのだいぶ下の方までが本来注ぐべき分量であると言われているが、大飲みな人はあっという間に飲んでしまう。そこで、クレームが出るリスクはあったが、後ろで大勢の人を待たせてしまう不満に比べたら取れるリスクであるということで、ワインをなみなみと多めに注いで、なかなか飲み切れないようにする作戦にした。とはいえ、その後機内のクレームレポートを見ていてもワインが多すぎる、というクレームが入っていることは無かった。

またすぐに配れるおつまみ(亀田のあられの袋など)をすぐに配れるようにして、明確に

「後ろのお客さまにまだご提供ができていないので、少しお待ちください」

とお断りすることを乗務員の皆さんに徹底を依頼した。倒産して引け目を感じていた現場乗務員の皆さんは可能な限りお客さまにYESで対応しようとしていたので、こういう方針には戸惑いはあったようだった。しかし、お客さまもちゃんとお話すれば分かってくださる方が99%であり、亀田のあられをお渡しすると皆さんニコりと笑顔で快諾をされるケースばかりであった。

2つ目の原因は乗務員の無駄な動きであった。

食事サービス中はとにかく行ったり来たり、乗務員がせわしなく動いていた。その理由は提供するものがないので毎回ギャレーまで取りに行っていたのである。そこで僕はエコノミーみたいにカート使ったらいいじゃないですか?と提案したところ、ビジネスくらいにはJALにもまともなワゴンが搭載されていることが分かった。しかし、理由は分からないが前に機内サービスを設計した人がワゴンを使うな、というお達しを出していたそうである。

そこで僕は機内サービスのやり方を全面的に見直して、ワゴンを使う方法に切り替えることを提案した。また、一つのメニューが終わったら次のメニューに、という段階的な提供を行っていた。

しかし、すべてのお客さまに前菜の提供が終わるまで、一部の乗務員は手持ちぶたさになって、お代わりを聞いて回るということで上記の間延び問題の原因を自ら作っていることが判明した。

エクセルに各乗務員の動きをプロットして可視化したら、その動きの無駄がものすごくよく見えるようになっていた。可視化することがどれだけ大事なのか、実感する経験であった。

そしてそのデータをもとに、僕は「オーバーラップサービス提供」を提唱した。アミューズ提供が最後まで終わらないうちに、後追いで前からオーバーラップさせて前菜を提供していく。それが終わる前に前の方では先にメインを提供する、その時にはデザートの要否も一緒に確認する、といったものである。当時30歳前半だったが、僕は甘いものは嫌いでデザートは食べなかった。

ただ、機内で統計を取ってはじめてわかったのだが、男性は40歳を過ぎると急激にデザートの完食の割合が上がる、というものであった。逆に若い男性のお客さまはデザートに手を付けないケースも良く見られた。女性のお客さまには年齢でそんなに傾向はなく、皆さんお召し上がりになっていた。

いずれにしてもデザートを無駄に出すことを避けることでお客さまも早く机を片付けてお休みになれるし、乗務員もサービス時間を短くできるというWin=Winであった。

これらの施策を実行することで、満席のビジネスクラスのフライトで、それまでは約2時間30分かかっていたサービス時間を、1時間45分くらいまで短縮することができるようになった。

お客さまも次々と(というには少し間は空くが以前に比べると圧倒的に改善した)食事が出てくるので、機内食サービスの満足度は顧客調査でも大幅に向上していることが分かった。

最初は選抜メンバーでトライアルで複数便で実施してみて、結果が良好だったので機内サービスマニュアルを全て書き換えることにした。経験値の高いアドバイザーと呼ばれる乗務員の皆さんに協力をお願いしたのだが、昔々のJALでワゴンを使っていたということで、導入は極めてスムーズだった。

設計したのが僕だったので、乗務員でもない僕が、ビジネスクラスの機内サービスのマニュアルをゼロから書き換えることとなり、当時のビジネスクラスサービスマニュアル(CAM:Cabin Attendant Manual)を執筆することとなった。考えている設計図を文字で、誰にでも分かるように文字に落すことはなかなか骨の折れる作業であったが、気持ちとしてはとても楽しくて数日で書き上げたと思う。

その他にも機内サービス改革の代表的な僕の取組として、

マジカル・モーメント・プロジェクト(MMP)

ハワイ線のハネムーンお祝いの機内ケーキを辞めさせた話

があるのだが、ちょっと長くなってきたので、上記はまた後日書きたいと思います。

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