増収増益記録がストップ:ニトリ再成長の鍵を握るスタートアップ

2024年5月20日
全体に公開

ニトリホールディングス(HD)が2024年3月期の決算を発表し、売上高は前年比5%減の8957億円、営業利益も8%減の1277億円となりました。

ニトリは国内外の上場企業における世界一の増収増益記録を誇っていましたが、その記録は36期連続でストップしました。

そんなニトリはさらなる成長に向けて、今年2月にマーケットプレイス型ECの立ち上げを発表しています。今回はその新戦略において重要な役割を果たす、フランスのスタートアップを紹介します。

サムネイル画像:DALL·E 3での生成

☕️coffee break

ニトリは1967年に代表取締役会長の似鳥昭雄氏が創業してから、わずか一代で時価総額2.1兆円(5/17時点)を築き上げました。

「お、ねだん以上。」で知られるように、商品企画→デザイン→製造→販売までを自社で担うことで、品質・コストをコントロールをすることで、営業利益率14〜20%と小売業界では異例の高収益を実現しています(2019年以降のファーストリテイリングの営業利益率は7〜13%)。

2024年3月期の決算においては、売上高8957億円(前年同期比5.5%減)、営業利益1277億円(8.8%減)と、円安影響をカバーしきれず、減収減益になりました。

商品の9割以上を海外で生産し、約8割を国内で販売しているニトリでは、円安が1円進むと約20億円の為替差損が発生します。

そのため、ドル円相場を踏まえ、国内既存店の改装、オンラインとオフラインの融合施策で、売上・客単価向上を、物流の内製化、梱包・配達費の削減など、徹底した経費の削減を行いました。

それでも2021年1ドル115円台→2024年現在では155円代にまで円安が加速して、約800億円の為替差損が発生したことはあまりにも影響が大きかったのです。

これにより、上場前の1986年から36期連続、上場企業として33期連続で増収増益という世界一の記録が途絶えました(2位ウォルマートは32期でストップ)。

🍪もっとくわしく

そんなニトリは2002年に30年計画「2032年ビジョン」を策定し、2032年に3000店舗・売上高3兆円を達成することを掲げました。

その達成に向けて、2021年〜2025年の5か年計画、中長期経営戦略が策定され、より具体的な戦略が定まり始めています。

ニトリHD 経営方針ページより

その戦略の1つ目には事業領域の拡大・顧客支持獲得が挙げられており、Eコマースでの変革などが重点分野とされています。

すでに自社商品を取り扱うECサイトを展開しており、現在は連結売上の約10%ほどが国内EC経由での売上となっています。2032年にはこの国内ECを売上の20%にまで拡大することを目指し、大きなチャレンジをします。

それは、マーケットプレイス型ECの立ち上げです。

自社商品だけでなく、他社が販売する食材や日用品、エアコン掃除や包丁研ぎのサービスまで、暮らしに関連する商品・サービスを提供して、アマゾン・楽天に戦おうというのです。

このマーケットプレイスの立ち上げの裏には、フランスのユニコーン企業「Mirakl(ミラクル)」の存在があります。

ミラクルはBtoC、BtoBなど、あらゆるマーケットプレイス構築を支援するSaaS、Marketplace as a serviceを提供しています。

Mirakl 日本向けサイトのスクリーンショット

自社ECだけでは商品カテゴリーが限定され、集客に苦戦するケースがほとんどです。加えて、受注型でなければ、サービスが成長すればするほど、在庫を抱える必要があります。

一方、マーケットプレイスは、商品の買い手と売り手のマッチングにフォーカスすることで、より多くの商品カテゴリーを取り扱うことができる上、プラットフォームが成長すればするほど、ネットワーク効果でサービスの利用価値が高まります(例:BtoC→Amazon、BtoB→MonotaRO(モノタロウ)、ラクスルなど)。

しかし、マーケットプレイスの立ち上げにおいては、ニワトリと卵問題が立ちはだかります。売り手は十分な売上が得られなければ商品を出品せず、買い手は商品がなければ、サービスを利用しません。

特にBtoBでは、既存の取引先を抱えているため、売り手側に出品するメリットを提供することがより難しくなっています。

こうした課題を解決するためには多額の初期投資と時間がかかります。

ミラクルはそうした課題を丸っと解決して、マーケットプレイスを迅速に立ち上げ、データ分析・AIを活用して事業成長までを支援しています。

2023年末時点で、Miraklを利用する30以上のプラットフォームが、年間流通金額(GMV)1億ドル(当時約148億円)超えを達成。総GMVでは前年比+50%の86億ドル(約1兆3000億円)、ARR(年間経常収益)は+20%の1億6000万ドル(約240億円)、第4四半期には黒字化も達成しました

🍫ちなみに

日本展開においては、2022年から『THE MODEL』の著者として知られる福田康隆氏のジャパン・クラウド・コンピューティングの支援のもと、事業展開を本格化させています。

現在のところ、ニトリの他、BtoCでは日本最大級のフラッシュセールサイト「GLADD」、BtoBでは三菱電機での導入が発表されています。

家具からインテリア、寝具、ホームファッションへと拡大しているニトリは、暮らしに特化したマーケットプレイスをMiraklと構築して、さらなる成長を狙います。

2025年までに、このマーケットプレイスを立ち上げることを目指しており、この取り組みがどのように進展するのかには注目です。

参考:ニトリホールディングスのCIO(最高情報責任者)、武井直氏のインタビュー記事

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