年収の壁 物流現場の実態

2023年7月5日
全体に公開

「年収の壁」とは

巷を騒がせている『年収の壁』。NewsPicks上でも喧しいわけですが、制度設計に関する意見やあるべき論が多く、現場で何が起きているかは意外と知られていないのではないでしょうか。

年収の壁、130万円超でも扶養可に 一時的増なら 政府対策原案 

年収の壁、企業助成50万円 従業員の保険料穴埋め、年内にも

笑うに笑えない

私が物流会社の責任者をしていた時、「え、こんなことがあるの?」と驚いた事例を紹介させて下さい。

Unsplashの金 运が撮影した写真     

新任社長で張り切っていた私は、改善を頑張ってくれた作業者(女性のパートタイマーさんが多い)に少しでも報いたいと思い、年末に改善優秀賞として金一封を準備しました。実は、この手のイベントは人事や経理は準備が大変。どのような基準で受賞者を決めるか、予算枠の中でどれだけ費用を使うか、その経理処理をどうするか等々時間をかけて準備をしました。受賞者の皆さんの喜ぶ顔を想像しながら。

社内イベントとして授賞式を開催し、受賞者から「社長、ありがとうございます!」とお声かけ頂いた時は、私も嬉しかったですし、来年度はもう少し予算をしっかり取って大々的にやろうと思ったのですが・・・

翌日、受賞者の皆さんがぞろぞろと私のデスクにやって来て「社長、すみません。これお返しします。」と前日に渡した熨斗袋を返すではありませんか。

そうなんです。物流センターで働く多くの方は、夫々の基準ラインギリギリを狙って年末に就労調整をされています。新任社長が良かれと思ってやった金一封のご褒美が、逆に迷惑だったという笑うに笑えない話。

UnsplashのRoman Melnychukが撮影した写真     

包括的な制度設計を期待

リンク記事にもあるように、これまでも物流現場が超繁忙期を迎える年末に就労調整で働かない(働けない)従業員は存在したのですが、ここ数年続いている(そしてこれからも続くであろう)最低賃金の上昇や人材奪い合いによる時給アップで、総労働時間をセーブする方が急増しています。

霞ケ関は時給を上げることで、(特に女性やシニアの方など)これまで労働市場に出てこなかった層の労働意欲を促進することも狙っていると思うのですが、やればやるほど現場では労働者が足りなくなるという矛盾。

毎年鳥取県の人口ほどの人口減が進むこの国で、労働時間を減らすIncentiveが働いてしまう制度設計によって、物流危機に拍車がかかっています。

加えて、ただでさえ複雑なこのIssue(『壁』にも幾つか種類があり、同じ壁でも配偶者の年収によって基準が変わることも!)に今回のようなTemporaryで複雑な制度変更をすると、年末調整の時期、中小企業の現場は地獄絵図になるでしょう。人事や契約している社労士には長蛇の列。ストレスを抱える人が続出。。。合掌。

私も専門家ではないので無責任な発信で恐縮ですが、多くのPickerがコメントしているように課題を正しく捉えた包括的な施策を期待したいところです。(霞ケ関の皆さんも分かっているんでしょうけど。。。)

トップ画像:UnsplashAdrian Sulyokが撮影した写真

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