10 「現地の人が言っていることだから・・・」という情報について。

2022年3月16日
全体に公開

 長年、情報を扱うことを仕事にしていると様々な場面に出くわします。そのなかでも、ずっと気になっている「現地の人が言っていることだから」という情報です。

 例えば、「インドネシア人がジョコウィ大統領は不人気だと言っていた。だから、イマイチなんじゃないですかね」という語りがあるとします。海外関連のビジネスをしていると、こうした語りに一度はあったことがあると思います。(注:ジョコウィ大統領の件はあくまで事例で私が良い悪いということを、ここで言っていることではない点にご注意ください)。

 そして、「そうか。現地の人が言うのだから、そうだろう。なるほど」と思ってしまうこともあると思います。

アジアの街角のおっちゃんたちの語りは確かに面白く、雰囲気を感じ取るには良いのだが・・・ Photo by Hobi industri on Unsplash (https://unsplash.com/photos/9SIV5MQF3vw)

 しかし、逆に考えてみたらどうでしょうか。

 私たち日本人が日本の森羅万象を知り、高精度な分析をしている訳ではありません。そのため、こうした語りだけで、「そうだ」と言えそうもないことは確かでしょう。皆さんも、何気なく外国人に話したことが、日本代表のように語られてしまっていたら、「ちょっと待ってよ」と思いませんか。

 また、こうした語りは、そこまで大げさな意図を持っている訳じゃない、というツッコミもあるでしょう。一市民の感想として重要だという捉え方も成り立ちます。私もそう思いますが、一市民の感想をどこまで一般化して良いのか、という課題にも突き当たります。語り側の問題ではなく、受け取る側の課題と言えるでしょう。

 そして、外国人は現地の人よりも正確に分析が出来ない、と思っているのではないかと思う場面にも何度か出くわしたことがあります。「日本人のあなたの分析でしょ。こっち(=現地)の人はね、こういう風に話していますよ」と、反論めいた形で意見を頂くことがあります。貴重な意見ですから、もちろん拝聴はします。そして、その人の的確であるともあるかもしれません。

 しかし、先ほど日本人である私たちが聞かれたときの事例のように、「こっちの人」が森羅万象を正しく理解し、分析しているかは別の話です。

 例としてあげておきたい人物は、「菊と刀」(講談社学術文庫)を書いたルース・ベネディクトです。この本は、日本文化論で非常に有名な論考です。今、日本人の私たちが読んでも、「そうだな」と思う部分が少なくありません。後に、色々と反証がされている本でもありますが、日本文化論のモダンクラシックスの一つであることは確かです。が、驚くべき事に、ベネディクトは日本を訪問したことがありません。文献の熟読と日系移民からの話で書いたとされています。

Photo by Brent Jones on Unsplash (https://unsplash.com/photos/Q2rNaxfV_t8)

 どのような属性を持つ人が、どのような文脈で語っているのか。それを抜きに一人歩きする「現地の人曰く・・・」という言説の受け止め方は十分な注意が必要でしょう。

 よく聞くのが「タクシーの運転手がこう言っていた」です。確かに、タクシーの運転手の語りは面白いことがあります。景気に敏感に左右される業界でもありますから、景気の肌感も感じられるでしょう。また、タクシーの運転手の個人的なストーリーが多いこともあります。何かを考えるきっかけになることもあります。しかしながら、政治経済やビジネスの分析としてそのまま活用して良いかは別の話でもあります。

Photo by Lee Blanchflower on Unsplash (https://unsplash.com/photos/UG3JyuazH-w)

 加えて、外国に出かければ、私たちが外国人であることもよく意識しなければなりません。例えば、どこかの国に投資を考えていて、投資庁のような役所を訪問したとしましょう。当然、外国からの投資が欲しいわけですから、良いことを前面に打ち出します。課題点も「大問題です」と正面切っては言わないでしょう。何らかトーンを弱めたり、改善策とセットで話したりすることがほとんどでしょう。全てを疑ってかかる必要はありませんが、説明を受けた内容を独自に検証することも大切です。

 現地の人からの一次情報は肌感としての感想の重要性はあります。一方で、それが全てであるかのように語ったり、外国人の分析は現地の人に勝らないということにはなりません。「現地の人の語り」自体は興味深く、そうした会話を重ねて草の根から見えてくることが間違いなくあります。ただ、ビジネス上、その発言の位置付けや意味は、十分注意しながら扱うことが必要だ、ということをお伝えしたかったのが今回のお話でした。

(2022年3月16日 00:30 SGT脱稿)

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