混乱に陥った名古屋港、港としての日本での位置付けは?

2023年7月10日
全体に公開

先週、物流業界はある話題で持ちきりでした。

名古屋港のコンテナターミナルがランサムウェアの感染により、コンテナの搬出入作業を4日〜6日にかけてストップせざるを得ない事態となりました。

現在は復旧しているものの、障害発生の間は基本的にコンテナの搬出入ができなかったこともあり、現状多くの荷物の動きが止まり納品の遅延が発生している状況です。

日本海事新聞報道によれば、

港湾に対するサイバー攻撃は、ロッテルダム港など複数のオランダ港湾で今年6月上旬に発生。昨年12月にはスペイン・リスボン港でもあったようだ。
アムステルダム港では6月6日、ウェブサイトが1時間以上機能しなかったほか、フローニンゲン港では2日にわたってシステム障害が発生した。ロッテルダム港によると、親ロシア派のハッカーによる攻撃だという。

ということで、直近も類似の事例があり、今回の名古屋港についてもロシア系ハッカー集団の関与が疑われています。

真相究明はこれから進むと思いますが、今回の名古屋港の停止ってどれくらい大きな事象なの?思ったあなたに向けて、「名古屋港」の位置付けを紐解きたいと思います。日本の輸出入にとって名古屋港は重要な港湾の一つです。

ランキングから見る名古屋港の位置付け

港の位置付けを知る上で参考になるのがLloyd's List Intelligenceが発行している、ONE HUNDRED PORTSというコンテナを軸とした港のランキングです。取り扱われたコンテナの数として順位づけがされています。

2022年発表のランキング(2021年実績)見ると日本の港は以下の様に位置づけられています。

・上海 1位 4703万TEU(参考)

・東京 46位 432万TEU

・横浜 72位 286万TEU

・神戸 73位 282万TEU

・名古屋 77位 272 万TEU

・大阪 82位 242万TEU

※TEUとは、20フィートで換算したコンテナ個数を表す単位のことです。

これを見ると名古屋港は世界で77位、日本でも4位とそれほど特筆すべき位置付けではない様にも見えますね。

しかし、コンテナの数は一つの側面にしか過ぎません。少し見方を変えてみましょう。コンテナの数ではなく重量です。

コンテナに限らず見たときに、物を運ぶ際にコストが掛かるのは「遠く」へ「大きい(または重い)」物を運ぶ時です。ですので貿易は必然的に近隣の国々との取引が多くなりますし、「大きい(または重い)」物は需要が多ければ需要地の近くで作るのが定石となります。

一方で、それでも「大きい(または重い)」物を遠くへ運ぶ必要があるとき、それは強いニーズや競争力があるとも言えるので、私は重量にも注目して見ています。

港湾政策研究所が提供する情報によれば、2020年の実績で日本の各主要港の「輸出」「輸入」「移出」「移入」(※移出と移入は国内での荷物の動き)をトータルした取扱貨物量計(トン)は次の通りです。

・名古屋 1億9235万トン

・千葉 1億3400万トン

・横浜 9362万トン

・水島 7128万トン

・東京 7084万トン

全く別の見え方になってきたのではないでしょうか?重量ベースでみると名古屋の量的な特徴はコンテナ数1位の東京と比較しても2倍以上の差がありますね。自動車製品中心の輸出のイメージが当てはまります。ある種日本の自動車産業の強さを図るバロメーターはこの重量という見方もできるのではないでしょうか。

また、金額ベースでのランキングも税関のWebページを参照して得ることができます。こちらは2022年の輸出+輸入トータルの実績ベースです。

・成田国際空港 35兆9043億円(参考)

・東京 22兆8634億円

・名古屋 21兆2105億円

・横浜 14兆9739億円

・神戸 12兆612億円

金額で見ると東京、名古屋の順になります。参考ですが金額ベースの一位は成田国際空港で、精密機器、通信機器、集積回路、金等、小さいながらも付加価値の高い製品が空輸されており1位となっています。

レポートから見る名古屋港の特徴

最後に名古屋港の特徴も見ていきたいと思います。前述したONE HUNDRED PORTSの中で名古屋港の特徴は以下の様に記載されています。

・輸入が輸出を上回るという同様の傾向も見られました。総輸入は11.2%増の約1,400万TEUであり、輸出は9.4%増の1,300万TEUを超えました。

・名古屋港は中部地方(自動車、工作機械、航空宇宙、鋼鉄、電気機械の主要な生産拠点である)およびトヨタ自動車の本拠地である愛知県という重要な産業地帯を支えています。自動車部品はまだ名古屋の輸出の大部分を占め、16.7%増加しました。それに続いて産業機械が17%増加しました。

・輸入品は主に衣料品・靴、自動車部品、電気機械で、後者2つはそれぞれ17%と16%増加しました。港自動車部品と完成車の増加により輸出が増加したとのことです。名古屋からアメリカへの輸出は約20%増加し、主に新車の購入の増加によるものです。ただし、2021年下半期には、東南アジアのサプライヤーからの半導体やその他の部品の不足により、トヨタの生産が減少し名古屋港の貨物量が以前の水準に届かなかったことが一因となりました。

・名古屋港は現在のトレンドに遅れずに改善を続けています。鍋田埠頭コンテナターミナルのバースT3は完全に自動化され、残りのバースT1とT2も2024年4月までに自動化される予定です。飛島埠頭コンテナターミナルはより大型のコンテナ船の取り扱いに対応を進めています。バースR1の水深は15mに増加し、耐震性が向上します。今年運用を開始し、バースR2もすぐに続きます。

自動車輸出のイメージが強い名古屋港ですが、2021年においては輸入が輸出を上回った様です。どうやら中国からの輸入が牽引している模様とのこと。こちらに記載がある通り、1-2年程前は半導体不足で自動車生産量が減少した結果も反映されている様ですが、足元はまた輸出が好調になっているのではないでしょうか。

また、名古屋港はターミナルの自動化も進んでいます。2023年版国際輸送ハンドブックによれば、飛島コンテナ埠頭が管理しているターミナルでは、日本初となる自動運搬送台車や遠隔自動RTGを導入した自動化ターミナルも運用されているということで設備投資も盛んな様です。

今回は名古屋港を切り口に様々な貿易情報を見ていきましたが、経済と密接に関わっていて奥深い港の世界をもう少し深掘りしたくなったので、次回は世界銀行が発行しているThe Container Port Performance Indexについて記事を書きたいと思います。お楽しみに!

「トップ画:Getty Imagesより掲載」

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