米最大の年金基金:“失われた10年”に出資したファンドは?
米国最大の年金基金、通称:CalPERS(カルパース)はスタートアップブームに乗れず、膨大な投資収益を逃した“失われた10年”になったと振り返りました。
では、CalPERSはどんなファンドに出資してきたのでしょうか。
☕️coffee break
CalPERSは、2011年にVCファンドへのLP出資を全体の1%程度に配分することを決定。以降も1%を目標に出資してきたため、現在のVCへの出資額は800億ドル(約1119億円)にあたります。
実は、このVCへの出資枠1%を設定したときは、すでに出資していた約7%からさらに比率を引き下げるものだったんです。
つまり、CalPERSはこれからスタートアップが相次いで生まれてくるというときにスタートアップ業界と距離をとってしまったということ。
その理由は大きく3つ。
①テックバブル崩壊後、VCはリスクに見合うリターンが挙げられていない
②多くのVCはCalPERSが求める詳細な情報開示を好まなかった
③CalPERSにとって、VCのファンドサイズが小さすぎて出資しにくかった
その結果、2000-2020年でバイアウト投資が11.59%のリターンを生み出したのに対し、VC投資はわずか0.49%と散々な成績に。
2011年以降には、Facebook(2012年IPO)・Alibaba(2014年IPO)・Uber(2019年IPO)・Airbnb(2020年IPO)・Coinbase(2021年IPO)など、世界をもリードするスタートアップが相次いで誕生したにも関わらず、機会を逃してしまったんです。
🍪もっとくわしく
CalPERSがLP出資している主なVCを見ていきましょう。
Net IRR:投資の収益性を時間的価値を考慮して評価した指標。投資ファンドでは、15%〜20%が目安とされる
Investment Multiple:投資の絶対的なリターンを評価する指標。投資額の何倍になったのか
「2007年」
•Insight Partners(インサイト・パートナーズ/旧:Insight Venture Partners)
👉米ニューヨーク本社に加え、米パロアルト・イギリス・イスラエルにもオフィスを構えていることから、Wix(イスラエル)・Shopify(カナダ)など、米国外の優良企業にアクセスすることを得意としています。
<ファンド:Insight Venture Partners VI>
・CalPERS出資約束金:6800万ドル
・Net IRR:19.2%
・Investment Multiple:2.5×
「2009年」
•Khosla Ventures(コースラ・ベンチャーズ)
👉プログラミング言語「Java」を生み出し、シリコンバレーのテクノロジー産業を大きく発展させたサン・マイクロシステムズ(2009年オラクルが買収)の創業者の1人、ビノッド・コースラ氏が創業。DoorDash、Stripe、OpenAIの初期投資家としても知られています。
<ファンド:Khosla Ventures III>
・CalPERS出資約束金:2億ドル
・Net IRR:10.1%
・Investment Multiple:1.9×
<ファンド:Khosla Ventures Seed>
・CalPERS出資約束金:6000万ドル
・Net IRR:6.7%
・Investment Multiple:1.9×
「2015年」
•Insight Partners(インサイト・パートナーズ)
<ファンド:Insight Venture Partners IX>
・CalPERS出資約束金:1億ドル
・Net IRR:28.3%
・Investment Multiple:3.7×
「2018年」
•Insight Partners(インサイト・パートナーズ)
<ファンド:Insight Venture Partners X>
・CalPERS出資約束金:2.5億ドル
・Net IRR:31.4%
・Investment Multiple:2.4×
「2020年」
•Insight Partners(インサイト・パートナーズ)
<ファンド:Insight Partners XI>
・CalPERS出資約束金:4億ドル
・Net IRR 31.2%
・Investment Multiple:1.6×
「2022年」
2022年に設立されたファンドは運用が始まったばかりのため、Net IRRや、Investment Multipleの測定ができていないため、CalPERSの出資金額だけを見ていきましょう。
•Sequoia Capital China(セコイア・キャピタル・チャイナ)
<2ファンド:出資約束金4400万ドル>
👉2005年に米Sequoia Capitalが設立し、Alibaba・ByteDance・DiDi(配車アプリ)、Pinduoduo(共同購入EC)など、中国のテック業界を代表するスタートアップに投資してきました。2024年3月末までに中国とインド部門は独立させることが発表されました。
•Base10 Partners(ベース・テン・パートナーズ)
<出資約束金:5000万ドル>
👉2017年に設立され、データドリブンのリサーチに基づいた投資をする新進気鋭のVC。世界最高のベンチャーキャピタリスト100名を選出する「The Midas List 2023」において、共同創業者Adeyemi Ajao氏が、南米のデジタルバンクNubank(ヌーバンク)への投資で黒人投資家として初めてランクインしたことから、より一層注目を集めています。
•Lightspeed Venture Partners(ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ)
<4ファンド:出資約束金総額4億ドル>
👉2000年に設立された米国VCですが、イスラエル・中国・インド・ヨーロッパ・東南アジアにも拠点を構え、積極投資していることからグローバル全体でも知名度を有します。エンタープライズ・消費者向けサービスであれば、アーリー〜レイターまで全てのステージで投資していることが特徴です。
•Tiger Global Management(タイガー・グローバル・マネジメント)
<出資約束金:3億ドル>
👉ジュリアン・ロバートソン氏が創業した伝説的なヘッジファンドTiger Managementから派生したファンド。著名シードファンドとの提携などで、投資候補先リストアップ〜投資までを高速で実行することで一時は著名スタートアップには必ずTigerが出資していることで恐れられていました。
米国では、PEファンドも積極的にスタートアップ投資をしているため、VCファンド出資枠との違いが不明ですが、スタートアップブームを作る時期にはInsight Partners以外の著名VCにはほとんど投資できていなかったことがわかります。
今後、800億ドル(1%)→6倍以上にまで拡大していくとともに、他ファンドとの共同投資や、ベンチャープログラムの構築を開始に向けても動いています。
詳細は不明ですが、今後はリスクをとって、積極的な投資方針に転換していくため、次の10年はどうなるのか、楽しみですね。
サムネイル画像:Scott Graham on Unsplash
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