最高時速452キロの車を3Dプリンターで生産するスタートアップ

2023年6月19日
全体に公開

スーパーカーよりもさらに高出力エンジンで最先端な技術を有するハイパーカー。

そんな超高性能の自動車を3Dプリンティングで製造するという、革命的な手法を用いるスタートアップがあります。

☕️coffee break

近年、自動車業界では、EV(電気自動車)、自動運転、コネクテッドカー(インターネットと常時接続された車)など、いくつかの技術的ブレークスルーがありました。

しかし、自動車の製造方法という点では、フォードが1913年に導入した、ベルトコンベアを活用して大量生産を行う「ライン生産方式」以来、ほとんど変わっていません。

その領域を変革しようとしているのが、米Divergent Technologies(ダイバージェント・テクノロジーズ)」

2013年、3Dプリンティングの技術を活用して、自動車などの複雑な構造体を自動的に設計し最適化する会社として設立されました。

Divergentは、「​Divergent Adaptive Production System​」というプラットフォームを自動車メーカーに提供しています。これは、AIベースの設計×3Dプリンティング×完全自動のロボット組み立てを組み合わせたプラットフォームです。

これを活用することで、自動車メーカーは大量生産だけでなく、少量生産にも対応することができる上、迅速な新車生産も可能になります。

2022年4月時点で、アストンマーティンなど8つのブランドにサービス提供をしており、100台から数十万台までの自動車生産に対応しているようです。

🍪もっとくわしく

Divergentはさらに技術を磨くべく、自社で自動車開発にも取り組み始めます。

2015年に世界初の3Dプリントによるスーパーカー「Blade」のプロトタイプを発表。2019年には、子会社として、AIと3Dプリンターで製造するハイパーカーブランドメーカー「Czinger Vehicles(ジンガー・ビークル)」を設立しました。

そして、2021年には「Blade」を進化させ、最初の市販車「Czinger 21C」を80台限定で販売・生産を開始しました。

この車は、スーパーカーを大きく上回る性能を持ち、最高時速452kmまでわずか21.3秒で加速し、1250馬力を発揮します。2021年には市販車最速記録を更新したハイパーカーなんです。

と同時に、3Dプリンターを活用することで、金属廃棄物を大きく削減。二酸化炭素等を一切排出しないゼロエミッション走行も可能で、環境にも優しい。

2022年時点で、自動車メーカーだけでなく、防衛、航空宇宙など30以上の業界での生産プログラムを有しており、さまざまな業界への拡大に動いています。

それらが評価され、2022年4月のシリーズCでは、ユニコーンクラブ入りしています。

2024年には、欧州と米国で​「Divergent Adaptive Production System​」工場を稼働させる予定です。

🍫ちなみに

今年4月に開催されたG7環境相会合では、自動車業界に対して、

・2035年までに二酸化炭素排出量を2000年比50%削減

・重要鉱物の安定確保とリサイクル

という目標を掲げました

この過程で、さらなるEVの普及・移行が想定されるため、部品の軽量化・多様化が焦点となります。

そうした課題を解決しつつ、台数限定の高級車販売、過去の名車の復刻といった点でもDivergent Technologiesのプラットフォームが活用されるかもしれません。

自動車業界、さらには製造業全体まで変革してしまうかもしれないーーそういった期待が寄せられるスタートアップなのです。

サムネイル画像:アルカンターラ プレスリリース(Czinger 21C)

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