米国最大の年金基金がVCへのLP出資を6倍増加させる
「The California Public Employees' Retirement System(カリフォルニア州職員退職年金基金)/通称:CalPERS(カルパース)」がVCファンドへのLP出資比率を大幅に引き上げる方針を示しました。
なぜ、これまでの6倍以上にまでVCへの出資比率を拡大するのか、見ていきましょう。
☕️coffee break
CalPERSは1932年にカリフォルニア州の公務員(州職員・学校職員・公共機関職員)が退職後にも安定した収入を得られるように設立された米国最大の公的年金基金です。
2023年6月2日時点で、4550億ドル(約64兆円)を運用しており、公務員200万人以上の退職金(年金)と健康保険プログラムを管理しています。
ESG投資をメインにしており、投資先企業に改善すべき点が見つかると、株主提案や議決権の行使も行いながら対話を行う。つまり、年金基金では珍しく、アクティビスト投資家として、経営にも積極的に関与していくんです。
ゆえに、CalPERSの投資戦略や動向は、常にマーケット全体から注目を集めています。
昨日開催されたトヨタ自動車の株主総会においても豊田章男会長の取締役再選に反対票を投じていましたね。
参考:米カルパースなどがトヨタ会長の取締役再選に反対、株主総会で
そんなCalPERSは、2011年にオルタナティブ投資管理プログラム(現:プライベート・エクイティ・プログラム)から、VCファンドへのLP出資を全体の1%程度配分することを決めました。
以降は、ほぼ毎年のようにVCファンドにLP出資をしてきたものの、2000-2020年はわずか0.49%のリターンと、市場ベンチマークを大幅に下回る運用成績となったんです。
資産配分が上場株や不動産など、実物資産に偏っていた上、プライベート・エクイティ(VC)投資の戦略には一貫性がなかった。スタートアップのブームに乗れず、膨大な投資収益を逃して、“失われた10年になった”
🍪もっとくわしく
なぜ今、VCへのLP出資を8億ドル(1%)→50億ドル(6%)以上に拡大していくのでしょうか。
それは、米国VCのファンドレイズ(資金調達)が非常に厳しいから。
2022年はIPO市場の凍結でスタートアップのEXIT(M&A・IPO)は約90%減となったことから、多くのVCファンドのパフォーマンスは最悪の状況となっています。
それに伴い、資金の出し手であるLP投資家は、VCファンドへの出資を引き上げ、より低リスクの実物資産にシフトする動きが加速しているんです。
参考:ベンチャーキャピタルが資金調達に大苦戦(23年3月)
ファンドレイズに大苦戦するVCは、シリコンバレーでタブー視されていたサウジアラビアからの資金調達を相次いで行っているという状況です。
参考:サウジのタブー解禁。Startup Weekly(4/1-4/7)
CalPERSはこれを逆手に次の10年はなんとしても黄金時代にする。というのが今回の背景。
通常、米国のトップVCには、LP出資をしようと思っても、投資枠にアクセスすることがあまりにも難しいんです。
しかし、トップVCでも厳しい時期だからこそ、これまではアクセスできなかった優良ファンドにも出資できるチャンスが訪れているんです。
これまでは、リスクをとらなかったことで、高いパフォーマンスを生み出したファンドへの出資機会を相次いで逃してしまった。
そんな振り返りをしているタイミングで、挽回する絶好のチャンスが舞い降りたんです。
🍫ちなみに
日本では2022年に入り、初めて年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がVCファンドにLP出資をしたことがわかりました。
これは、岸田政権の「新しい資本主義」に基づき、海外のように公的資本を活用したスタートアップ投資の実現。これにより、スタートアップをさらに育成していきたいという狙いがあります。
GPIFは、運用資産全体の5%を上限にプライベートエクイティを含むオルタナティブ資産に投資していく方針が示されています。
2022年度はオルタナティブ資産がポートフォリオ全体に占める割合はわずか1.43%ですが、これは約2.7兆円にあたります。
これを5%まで拡大するとともにその一部をVCファンドへの出資に割り当てるということはかなりのインパクト。さらに、公的年金基金が出資したことがお墨付きとなって、海外投資家などの呼び水となる可能性もあります。
すでに、グロービス・キャピタル・パートナーズが設立した7号ファンド(ファンドサイズ:727億円)に出資したことがわかりましたが、今後の発表にも注目したいですね。
サムネイル画像:Coolcaesar at English Wikipedia
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