「思考を助ける」ノートアプリ Reflect が、VC から資金調達しない理由

2023年2月13日
全体に公開

最近、朝のルーティンに AI が組み込まれました。コーヒーを淹れて、PC の前に座り、おもむろにノートアプリの録音ボタンを押す。いま考えていることや今日やりたい仕事について話し、AI が書き起こしてくれた文面を、今度は箇条書きにサマリーしてもらい、一日を始めます。頭の中に散らばった取り留めのない思考を AI が整理してくれるのは、とても気持ちが良いものです。

このルーティンを支えているのが、今日ご紹介する Reflect —— AI が統合された、高速でシンプルなノートアプリです。NotionEvernote をはじめ、世の中には様々なノートアプリが存在しますが、私はこの 1 年ほど Reflect を愛用しています。残念ながら日本での知名度はほぼありませんが、「Less is more」の哲学が好きな人には好まれるソフトウェアかもしれません。

Reflect とは

Reflect は、書き手の思考を助けるために作られたノートアプリです。機能的な特徴は、なんと言ってもバックリンクでしょう。Web サイトのクリップ・Kindle のハイライト・日常のメモ —— あらゆる情報を取り込み、それらを バックリンク によって関連づけられます。

バックリンク

またカレンダーも統合されており、予定に関連したバックリンクつきのノートが、参加者と共に自動的に作成されます。これによって、どの会議で誰と何を会話したのか簡単に記録でき、後から検索可能になります。

カレンダー統合

個人的には、毎日たくさんの会議に参加するマネージャにとっては非常に使いやすいノートアプリだと思います。「どこに書くか」を考えず、カレンダーの予定に沿ってメモを記録していけば、自動的に情報が整理されていきます。

もちろん、冒頭にご紹介した AI 機能 も統合されています。Open AI の GPT 3.5 API が組み込まれており、自分が書いたメモを AI に整えてもらったり、あるいは単に AI に質問できます。音声も Whisper を使った書き起こし が可能です。

Less is more

かと言って、リッチな機能があるわけではありません。近年のノートアプリは百花繚乱、Notion や Evernote と言った有名どころに加え、CraftSupernotesObsidian など様々なアプリがありますが、これらと比較すると低機能なノートアプリと言っても良いでしょう。

主観で分類したノートアプリのポジショニング

Reflect は「Less is more」を信条としており、「スピード」「セキュリティ」「信頼性」「シンプルさ」を重視して開発されています。すぐに書き始められ、蓄積された情報をバックリンクや検索によって高速に探し出せる —— これが Reflect の特徴であり、他のノートアプリにはないものです。技術的には、Reflect はすべて手元の端末上で動作しているため、Notion などのクラウドベースのソフトウェアと比較すると非常に高速に動作します。

船上での再起業

Reflect を語る上で、創業者の Alex MacCaw に触れないわけにはいけません。Reflect は、シリアルアントレプレナーとしての彼の思想が強く反映された会社でもあります。

隠さずに言うと、私は彼のファンでもあります。私が初めて彼を知ったのは Twitter のエンジニア時代で、彼は JavaScript に関する書籍を書いたり、世界中を飛び回りながらコードを書いていました。

その後、彼は Stripe のエンジニアを経て Clearbit を起業し、約 5 年間 CEO として働きました。私自身は(Stripe のビジネスモデルに影響を受けたであろう)API カンパニーとしての Clearbit にも注目していたので、これはこれでどこかでご紹介したいのですが・・・現在では 1500 社以上の顧客に利用されているようです。

Clearbit 時代、彼はコーチを雇って一緒に マネジメントの書籍 を出版するほど経営者として努力したそうですが、結果的には「CEO には向いていない」と悟り、エンジニアに戻る意思決定をしたようです。それだけエンジニア気質 —— というよりは、クラフトマンシップの強い人なのでしょう。

2020 年末の CEO 退任後、彼は大西洋を横断する航海に出ました。そして幾らかの開発期間を経て、2021 年の夏にカリブ海を航海中のヨットから立ち上げられた会社が Reflect です。

リリースまでの長い道のり

2020 年末に開発が始まった Reflect ですが、実は正式リリースまで 1 年半ほどかかっています。この間、プロダクトは主に Twitter のクチコミで広がり、コミュニティの限られたメンバー向けに開発中のプロダクトを公開し、フィードバックを受けながら改善を繰り返していました。

Alex MacCaw は Superhuman の立ち上げ方に影響を受けたと公言していますが、正式リリースまでに大規模な作り直しを二度も行っています。彼らのバリューでもある「スピード」のために、エディタや同期エンジンなどを作り直すのに苦心していたようです。

面白いことに、彼らは 2021 年夏の β 版の段階で有料課金を必須 にしていました。当時は $160 の年間プランのみでしたが、Reflect に期待する一部のユーザーによってキャッシュフローが安定し、じっくりとプロダクトの体験を磨き込めたようです。

持続的なビジネスモデルに挑戦

前職での経験を踏まえ、Alex MacCaw は自分の好きなやり方で会社を作っています。例えば、典型的な B2B ビジネスで数百人単位のチームを必要とした Clearbit と異なり、小規模なチームで持続的なビジネスを作る のを重視しています。Reflect のメンバーは Alex を含めて 4 名。エンジニア 3 名に加え、今年になってからグロース担当が 1 名ジョインしています。前回の記事 でご紹介した Linear と比べても、さらに小規模なチームだと分かります。

資金調達のやり方も異例です。昨年末、Reflect は Wefunder でコミュニティからの資金調達を実施しました。彼らはプロダクトのシンプルさを保ち、持続的なビジネスを実現するために、高成長を求める VC からの資金調達を望んでいません。その代わりにコミュニティから資金を募り、黒字化したら配当を分配する方針を明らかにしています。

少額の資金で持続可能なビジネスを実現するため、エンジニアリングのやり方も独特です。初期はノートアプリにとって生命線となるエディタの品質を高めるため、彼らが採用したオープンソースソフトウェア の開発者を採用しました(これが 3 人のエンジニアのうちの 1 人です)。

その後も、リッチテキスト編集・クライアントサイド機械学習・クライアントサイド検索など、Reflect にとってコアな問題に取り組む GitHub リポジトリや有望なエンジニアを探し出し、積極的にスポンサーになっています。

これは将来の技術的改善にも繋がりますし、低コストで有能なエンジニアの技術力を借りる術にもなっています。また会社側のメリットだけでなく、スポンサーシップを提供されるエンジニアにとっては、より情熱を持ってプロジェクトに取り組めるようになります。理想的な共創環境と言っても良いでしょう。

持続的なビジネスは実現できるのか

これまで書いてきたように、Reflect はとてもユニークなプロダクトづくりをしている会社です。

自分たちの理想とするノートアプリを作り続けるために、高成長は望まず、小規模なチームでコミュニティから資金を募る。オープンソースを活用し、エンジニアリングチームをレバレッジする。とても現代的でユニークなやり方だと思いませんか?

今のところ、彼らは今回の資金調達で黒字化までのランウェイを十分に確保できていると考えており、追加の資金調達などは考えていないようです。私自身も少額ながら Reflect に投資していますが、果たして持続的なビジネスは実現できるのか、引き続きウォッチしたいと思います。

Reflect Academy では、彼らの開発方針やノートの取り方の原則についても書かれています。この記事を読んで興味を持った方がいたら、ぜひ一度 Reflect を使ってみてください 👋

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