「ソフトウェアの魔法を取り戻す」プロジェクト管理ツール Linear の挑戦
こんにちは 👋
このトピックスでは、筆者が好きなソフトウェアを紹介していきます。前回は Figma をご紹介しました。
今日はプロダクト開発のためのソフトウェア、Linear を紹介したいと思います。このトピックスを始めるにあたって思い浮かんだソフトウェアは幾つかありますが、中でも Linear は外せません。
なにせ彼らのモットーは「Let’s bring some magic back to software」——「ソフトウェアの魔法を取り戻す」ことなのですから。
Linear について
Linear は 2019 年に創業した会社です。Airbnb でプリンシパルデザイナーを務めていた Karri Saarinen(CEO)を中心に、Tuomas Artman(エンジニア・元 Uber)と Jori Lallo(エンジニア・元 Coinbase)を加えた 3 名によって設立されました。社名と同じプロジェクト管理ツールを提供しており、いま最もクールなプロダクトのひとつ として、エンジニアや PdM(プロダクトマネージャ)からアツい注目を集めています。
Linear がどんなプロダクトか一言で説明するのは難しいのですが、Jira に代表されるプロジェクト管理ツールと、Asana や Trello などのタスク管理ツールの中間に位置していると言えるでしょう。
プロジェクト管理ツールの潮流
多くのソフトウェア開発の現場では何らかのプロジェクト管理ツールが利用されていますが、この界隈の草分けでありデファクトスタンダードと言えるのが、Atlassian が提供している Jira です。2004 年に登場した Jira は、現在でも多数の大企業でも利用されており、さまざまな機能や高度なカスタマイズ性を備えています。
一方、そんな Jira の「重さ」を嫌気したスタートアップで使われ始めたのが、Asana や Trello などのタスク管理ツールです。いずれも 2010 年代初頭に開発され、Trello はシンプルさ、Asana は速度をウリにしながら、小規模な企業を中心に広がっていきました。
しかしながらこの数年、プロジェクト管理ツールに新しい潮流が生まれ始めています。背景にあるのはスタートアップの隆盛と、ソフトウェア開発の高速化でしょう。より現代的な開発チームに使いやすいプロジェクト管理ツールが求められるようになる中で、Linear・Height・ClickUp などの新興サービス群が生まれ始めました。
Asana や Trello などのタスク管理ツールには、計画を立てたりプロジェクトを管理する機能が不足しています。一方 Jira はカスタマイズ性が非常に高い分、セットアップは複雑で運用は容易ではありません。この間を埋めるためのソフトウェアとして、これらのサービスが誕生しています。
Linear はその中でも、最もクールなブランドを獲得していると言って良いでしょう。順調に成長しており、創業 2 年目で黒字化し、3 年が経過した時点で 1000 社以上の顧客を抱えています。人気の高まりにあわせて、最近では様々なソフトウェアがこぞって Linear と連携し始めています。
On this day 3 years ago, January 10th, @linear was incorporated by @jorilallo @artman and me.
— Karri Saarinen (@karrisaarinen) January 10, 2022
Today:
- The team is 17 people
- Linear runs product for 1000+ startups
- 1st profitable month in Jun 2021
- Jan 2022 is already having the highest MRR weekly growth to date 🔥 pic.twitter.com/CiPYrAqwsm
※ 驚くべきことに、この時点でわずか 17 名の小規模なチームで運営されています。
魔法についての物語
さて、そんな競合ひしめく市場において、Linear が人気を博しているのは何故でしょうか。
プロジェクト管理ツールはそれほど参入障壁が高い分野ではありません。実に一般的なソフトウェアと言って良いでしょう。もちろん細かい部分の作り込みや使い勝手には差がありますが、同時期に登場した競合サービスと機能カバレッジを比較しても、どこも似たような機能を提供していますし、価格帯もそれほど変わりません。
では、何が Linear をクールたらしめているのか —— その源泉になっているのが彼らの提唱する「ストーリー」なのではないかと、筆者は考えます。
冒頭にも記載した通り、彼らは「ソフトウェアの魔法を取り戻す」と宣言しています。このフレーズは創業の経緯にも現れますが、採用ページ でも繰り返し強調されています。一部抜粋してみましょう。
「ソフトウェアの魔法を取り戻す」
ソフトウエアは魔法を失った。私たちは、それを取り戻すためにあなたの力を必要としています。
ソフトウェアがまだ魔法のように感じられた頃を覚えていますか?優れたソフトウェアは、かつて体験できるものでした。それは、私たちの生活や仕事の仕方を根本から変えるものでした。まるで未来に生きているような気分にさせてくれたものです。
今日、ソフトウェアはどこにでもあります。しかし、本当に素晴らしいソフトウェアは、信じられないほど希少になっています。コンピュータは速くなりましたが、アプリケーションの動作は遅くなりました。職人技はグロースハックに取って代わられました。先見性のある製品のアイデアは、漸進的な変更に変わりました。ソフトウェアの魔法が失われたのです。
Linear では、それを取り戻すための探求を行っています。
私たちの仲間になって、ソフトウェアの魔法を取り戻しましょう。
さらに素敵なのが、採用候補者向けに公開されている README(注:エンジニア用語で、利用者に最低限読んでおいてほしい内容を記載するもの)です。この README では、ソフトウェアの魔法について、ワクワクするストーリーが描かれています。
This is not a manifesto.
— Linear (@linear) March 17, 2022
This is not a codex.
This is not a whitepaper.
This is not a secret master plan.
This is just a simple story.
A story about magic.
README
└─ https://t.co/FwTy4whxhUhttps://t.co/FwTy4whxhU
こんなストーリーを公開している会社を、筆者は見たことがありません。しかし開発者向けのツールだからこそ、この内容がユーザーの共感を生み、ますます Linear の人気を強固にしています。そしてこのストーリーが、プロダクト・開発プロセス・採用方針など、Linear の企業文化の核になっているのは間違いありません。
魔法を取り戻す方法
では、どうやって「ソフトウェアの魔法」を取り戻すのでしょうか。その答えが Linear Method です。
複数のビッグテックで働いていた創業者たちは、「多くのプロダクトカンパニーには、プロダクト開発のための方法論がない」と気付きました。アジャイル開発ソフトウェア宣言 から 20 年、その方法論はすでに時代遅れになってきていると、彼らは指摘しています。多くの企業が非生産的な開発プロセスに閉じ込められ、夢のようだったソフトウェア開発は、すっかりつまらないものになってしまったと。
実際 The Pragmatic Engineer の調査によると、プロダクト開発の方法論が明確に定められている会社はほとんどありません。この表を見ても明らかなように、ビッグテックにおいても決まった方法論は存在しないようです。
そこで彼らは、より良いプロダクトを開発するための実践的なプラクティスを「Linear Method」と名付けて言語化し、自らのプロダクトを通じて提供することにしました。いくつか抜粋してみます。
- ロードマップで方向性を決める
- 管理可能なバックログを維持する
- ユーザーストーリーではなくタスクを書く
- ユーザーとともに構築する
- 変更履歴を公開する
これだけ読むと当たり前に思えるかもしれません。しかし Linear では、実際にこれらのプラクティスを強力に実践するための機能が提供されています。
誰もが物語に組み込まれる
まとめましょう。つまり彼らは「ソフトウェアの魔法を取り戻す」ストーリーを提唱し、そのストーリーを実現するための方法論を示し、それを実践するためのプロダクトをユーザーとともに開発してきました。
そのやり方に共感した開発者が Linear に参加したり、使ったり、あるいは自社プロダクトに組み込んでいくことで、徐々に大きなムーブメントを起こし始めています。
Some news:
— Julian Lehr (@julianlehr) December 1, 2021
Today is my first day at @linear ✨
Excited to join @artman, @karrisaarinen, @jorilallo & team on their journey to bring back craftsmanship and magic to software!
Rare to see a team ship this fast with quality (speaking not just as an investor but a power user). Feel it in my bones that @linear is the next Figma/Notion/Airtable/Loom etc.
— Daniel C. Liem (@dcliem) December 13, 2021
If you're looking for no BS hyper growth, this is it https://t.co/pmgbFZG3s8
recently switched from notion to @linear for ops/growth/product mgmt, this is FIRE
— Omar Waseem 🚢 (@omarwasm) May 7, 2022
New this week:
— Linear (@linear) November 22, 2022
@linear 🤝 @browsercompany
With this new integration, Linear users can create new issues directly from the command bar in Arc.https://t.co/LQQBhWT3v0
このように、Linear はストーリーを軸として活発なコミュニティを形成しており、オープンに開発を進めています。
また先日、Linear は「Polishing Season 2022」と名付けられた面白い取り組みを始めました。12 月いっぱいを「磨き込み」の季節として、長年放置されているバグや取り組めなかった改善要望に取り組むようです。普段 変更履歴 をオープンに公開している Linear ですが、この専用サイトでは修正された内容がリストアップされているのはもちろん、新たな要望も投稿できるようになっています。
ちなみにこのページ、エンジニアが何らかの要望に取り掛かるとそれが分かるようになっています。このスクリーンショットを撮影した時点では、どうやら開発チームはお休み中のようです。こんなところにもちょっとした遊び心を感じられて、ついついファンになってしまう要因なのかもしれません。
長くなってしまいました。まだまだ語りたいポイントは沢山あるのですが、一旦これぐらいで終えておきます。
Linear は、いちエンジニアとして憧れてしまう魅力を放つ企業でありソフトウェアです。果たして Linear がソフトウェアの魔法を取り戻せるかは分かりませんが、魅力的なストーリーを中心としたプロダクト開発の進め方は、多くの読者の皆さんにとっても参考になるのではないでしょうか? もし興味をお持ちいただけたら、ぜひ一度使ってみて、物語に参加してみるのをオススメします。
それでは、また次回の更新でお会いしましょう 👋
※ 私個人としては、弊社の開発チームでも Linear を使いたいなぁと思っているのですが …… みんな許してくれるかな?(笑)
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