37 厳しい安全保障環境のなかで企業が取るべき行動とは

2022年12月29日
全体に公開

 防衛費と増税が話題となっています。これそのものの是非を論じるには、様々かつ詳細な検証が必要となるため、それに入るよりも、今後、特にビジネスパーソンが日本を取り巻く安全保障環境について、どのような心構えでいるべきかについて考えたいと思います。

 日本の防衛費はGDP比でみれば1%程度と先進国のなかでは最も低いと言われています。世界の軍事費が2兆円771億米ドルという膨大な金額が費やされているなか、米国は約8000億ドル、中国は3000億ドル弱を費やしており、米中だけで世界の半分ちょっとの防衛費を使っているという状況です。日本は541億ドルであり、韓国の502億米ドルとほぼ同規模です。下記の論考が数字をよく整理していますので、参考にしてみてください。

世界有数の厳しい安全保障環境 

 そして、日本を取り巻く安全保障環境は、侵略戦争を現在進行形で行っているロシア、民主主義と自由主義という国家の根本的価値観を共有していない北朝鮮と中国の存在という、世界的に見ても、本来ならばリスクの高い状況にあります。日本が国境を接している国は実は5つしかありません。太平洋を隔てて遠くにある米国とカナダ、そして、ロシア、北朝鮮、中国、韓国です。ここに、「地域」をいれるとすれば、香港、マカオ、そして台湾です。地域のうち、実施質的な大使館を置くなどして、国家に近い扱いをしているのは台湾です。米国とカナダについては、日本を侵略するおそれはまずないと考えて良いでしょうし、太平洋を挟んで遠いところにあることを考えると、北朝鮮、韓国、中国、そして台湾という3つの国と1つの地域について、考える必要があります。

 北朝鮮については、あえてここで再論するまでもありません。一つだけ言っておけば、北朝鮮の脅威の質は、冷戦の残り火のようなものです。過去の経験則の延長線上にあると言って良いでしょう。(だからといって簡単な話、深刻ではない、という意味ではありません。)

 このうち、中国は世界第2位の軍事費を使い、かつ、強まる経済力を背景に、新たなルールメーカーとしての動き動きを強めています。具体的には安全保障では上海協力機構、経済ではアジアインフラ開発銀行などの動きがあります。中国については、専門家を交えた慎重な議論が必要ですが、中国についての「脅威」は冷戦的な脅威ではなく、これから未知の部分の多いもので、対応の方策がまだはっきりしていない、中国も形成途中にあるという意味で考えたほうが良いと思われます。

企業目線からの安全保障問題と地政学・地経学リスク

 北朝鮮の場合、日本企業でサプライチェーン上の問題はほぼないと言えますが、中国の場合は真逆で、多くの企業が中国抜きには考えられません。台湾も半導体などで重要なポジションにあります。

 戦後日本の安全保障環境は、敗戦後に米国の傘の下で軍事や安保については、政治、行政、防衛当局者などを除けば、一般市民はあまり考える必要がなく、経済活動に集中ができました。これを「平和ボケ」と表現することは簡単ですが、致し方なかったといえないこともありません。

 しかしながら、新たな環境のなかでは考えざるを得ないことは確かです。防衛費をめぐる国レベルの議論は、これからますます意見が交わされていくでしょう。企業としてできることは、日本という国家レベルの認識を抑えつつ、企業単位、事業単位、プロダクト単位でどのようなリスクが生じうるかということを、個別具体的に総ざらいしておくことでしょう。日本の脅威認識上、中国の重要度が高いことは確かですが、とはいえ、中国抜きの経済活動も考えがたい現実があります。そうであれば、どのようなシナリオが描けるのか、何が起これば自体がエスカレーションするのか。

 むろん、そこまで危機的な状況が結果として起こらないこともありえます。それならば、そこまでのリスクマネジメントプランを考える必要はないのではないか、起こるか起こらないかわからないことに、金銭と時間的なコストを費やす意味があるのか、という議論もでてくるでしょう。しかしながら、地政学・地経学リスクは、ひとたび発生してしまうと取り返しのつかない状況になる要素を含んでいます。完全にリスクをゼロとすることはできなくても、そこに至るまでのシナリオを想定しておくことで、被害を最小限に食い止める、破壊的なリスクを回避するといったことは可能でしょう。

 安全保障問題に起因する地政学・地経学リスクは、これまで、あまり深く考えずともどうにかなってきた時代が長く続きました。しかしながら、これからは、起こる可能性があるだろう、という前提に立って企業戦略を立てる必要がある時代を迎えつつあります。

(バナー写真:Koichi Kamoshida/Getty Images)

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