【デジタルバンクの覇権争いが始まったナイジェリア】(その2) エージェントバンキングを展開するTeamApt

2022年2月12日
全体に公開

ナイジェリアの品田です。すっかり更新が遅れてしまいましたが、今年も宜しくお願い致します!(年末年始は日本に一時帰国していました。)

前回の記事では、ナイジェリアにおいて、2020年に中国系のスーパーアプリOpayがラゴス州政府によるバイクタクシー全面禁止の実行によって、バイクタクシー事業が大打撃を受け、Opayのスーパーアプリ構想も大きく失敗した際の状況をご紹介しました。今回は、Opayの競合であり、現在ナイジェリアでもっとも成長が著しい、デジタルバンクのスタートアップであるTeamAptについてご紹介したいと思います。

TeamAptが展開するMoniepointのエージェント(出所:https://restofworld.org/wp-content/uploads/2021/07/nigeria-banking-andrewesiebo-8-1600x1067.jpg)

年間5兆円の取引金額

TeamAptの年間取引金額は5兆円に達します。ナイジェリアのGDPはアフリカ最大ですが、日本の約1/10でざっくり50兆円です。創業2015年のスタートアップであるTeamAptは2019年から2021年の2年間で売上を138倍に増加させ、現在の規模に至りました。TeamAptのビジネスモデルとは一体、どのようなものでしょうか。

エージェントバンキングとは

TeamAptの展開するビジネスモデルはエージェントバンキングと呼ばれています。これは一言でいうと、「支店とATMのない銀行」といえるものです。ナイジェリアでは大半の人が銀行口座をもっていませんが、TeamAptのサービスを使えば、どんな田舎でも、たとえスマホをもっていない人でも、銀行とほぼ同じサービスを受けることができてしまいます。

どのような仕組みかというと、TeamAptは人々が日々の買い物をするママパパショップやキオスク、近所の人々が集まる街角の露天ショップ等に対してPOSを提供し、彼らがエージェントとして金融サービスを人々に提供しています。たとえば、青空市場で肉を売っている商人は、一日の終わりに、歩いてすぐの馴染みのエージェントのところにいけば、その日の売上を預け、仕入れ代金をサプライヤーに送金し、電気代を支払い、親戚からの仕送りを受け取る、といったことがすべておこなえるのです。送金先の相手が銀行口座を持っている必要もなく、先方が利用するエージェント経由で受け取ってもらうことができます。こうしたエージェントネットワークをTeamAptはナイジェリア中に張り巡らせており、その数はなんと20万人にのぼります(2021年12月末時点)。

道端のエージェント(著者撮影)

かくいう私も、エージェントバンキングのお世話になることがあります。ナイジェリアでは外国人が銀行口座を開設できるようになるのは、在住許可証の取得後です。この許可証を取得するのに半年以上かかるのですが、その間、銀行口座を持たずに現地で生活することは簡単ではありません。そのため、私がナイジェリアに拠点を移した直後は、家賃の振込やインターネット代金の支払いをするため、頻繁にエージェントバンキングのお世話になっていました。エージェントがものの数十秒で取引を完了してくれるので、ATMで操作したり、携帯アプリのモバイルバンキングを使うよりもずっと簡単で速いのが特徴です。

また、ナイジェリアでは給料日が近づくと、銀行のATMに長蛇の列ができることがしばしばです。こういった時、エージェントのところに行って、モバイルバンキングでエージェントに送金するか、エージェントのPOSに銀行カードを差し込んで操作すると、エージェントが現金を渡してくれます。手数料も数十円という安さです。このように、銀行カードを持っている人でも、エージェントバンキングをかなりの頻度で使っています。

 問題点はないのか?

しばしば問題点として質問されるのが、①エージェントを信頼できるのか?、②エージェントは十分な資金を持っているのか?、そして、③チャージバックの問題です。

まず、エージェントに騙されないのかという問題がありますが、基本的に、エージェントは地元のコミュニティですでに商売をおこなっている人たちが兼業していることが多く、顔なじみで信頼している人がエージェントになっています。また、取引の度にPOSからレシートがでるので、取引内容をきちんと確認することができます。

エージェントが十分な手元資金をもっていないと、せっかくお客さんが来ても現金での払い出しができないため、お客さんを逃してしまうという問題も起きます。TeamAptは自社のエージェントに対して、POSの取引ボリュームに応じてフロートを提供しており、エージェントが十分な資金をもてるようにしています。

ナイジェリアでは、しばしば、チャージバックの問題も起きます。これは、POSの故障やネットワークの接続不良、あるいは、決済システムのエラーなどによって取引が不成立となってしまい、利用者に返金が必要となるようなケースです。利用者がチャージバックを受けるには、指定されたフォーマットにその詳細を記入し、金融機関に対して返金の申立てをおこなう必要があります。これは非常に手間と時間がかかるプロセスですので、チャージバックの問題が頻繁に起きると、利用者の満足度は大きく低下してしまいます。このような問題を回避するため、TeamAptはスイッチングライセンスをすでに取得しており、自社で電子決済をすることが可能です。既存の大手銀行でないプレーヤーがこのライセンスを取得するのは簡単ではないため、TeamAptの大きな強みとなっています。

なぜTeamAptは短期間でエージェントバンキングのビジネスモデルを構築できたのか?

● 創業者 Tosin Eniolorunda

創業者のTosinはナイジェリア生まれ、ナイジェリア育ち。地元の名門大学Obafemi Awolowo Universityを卒業後、ソフトウェア開発者として後にユニコーン企業となるInterswitchに入社しますが、2015年に独立して、TeamAptを創業しました。創業当時、TeamAptは銀行業務のデジタル化を推進するサービスを提供していました。

外部からの資金調達ゼロで、ナイジェリアの大手銀行26行を顧客とし、2017年時点で既にガーナへの進出も果たし、売上は1億円超え、純利益も出ていました。(この時点で、彼らのサービスを使用していないナイジェリアの銀行は2行を残すのみでした。)

しかし、彼が今一度何をしたいのか振り返った際に、創業理念である「Grow financial happiness through technology」を実現するためには、銀行を顧客とするのではなく、銀行口座をもっていない人たちにこそ金融サービスを届けることが重要であると気づきました。また、Unbankedな市場は巨大なブルーオーシャンであり、ここに入り込むことができれば、ビジネスとしても莫大な成長を遂げることができると考え、2018年に一念発起、ビジネスモデルの大転換をおこないました。

TeamAptの現在のビジネスモデルは「ATMと支店のない銀行」であるといいましたが、実は、TeamAptはもともと銀行向けのデジタル化サービスを提供していたため、既存の銀行業務の仕組みを知り尽くしています。それゆえに、新しい形の金融サービスをゼロから創り、銀行をDisruptすることができるのです。

Forbesの表紙を飾ったTosin (出所:https://shop.forbesafrica.com/product/rise-of-the-fintechs-aug-sep-2021/)

● オペレーション

事業のオペレーションの面でも、TeamAptの急成長を支えた仕組みがあります。

すべてのエージェントは地域毎に縦管理されており、各エージェントの取引状況、POSの稼働状況をリアルタイムで把握しながらサポートする仕組みができあがっています。優秀なエージェントはクラスターマネージャーとして他のエージェントを管理する立場になり、さらに、州マネージャー、地域マネージャーと上にあがっていくことが可能です。

エージェントはすべての取引履歴を一括して管理できるダッシュボードへのアクセスを提供されており、自分が受け取るコミッションの内訳を一目で確認することができるので透明性が高いことも大きな強みです。

エージェントの経済的状況を考慮して、コミッションは日払いし、取引高に応じてコミッションの取り分が上がっていくなど、インセンティブを巧みに設計して、優秀なエージェントの獲得と囲い込みに成功しています。

そして、エージェントを通じてボトムアップで顧客の声が届き、顧客満足度を高めるための方法を取り入れやすくするよう工夫されています。

B2C金融サービスへの拡大、そして、アフリカ最大のデジタルバンクへ

エージェントバンキングによって、既存の銀行をディスラプトしているTeamAptですが、最近、銀行のライセンスも取得しました。既得権益を守りたい銀行側からの横槍が入り、規制当局との交渉は一筋縄ではいかなかったようですが、銀行ラインセンスの取得により、TeamAptは顧客に対して自由に金融サービスを提供することが可能になりました。B2Cアプリも開発済みで、顧客は、エージェント経由での取引と、アプリの利用を併用することが可能になり、利便性が大きく高まります。

世界のネオバンク、あるいはチャレンジャーバンクと比較しても、TeamAptは銀行口座をもたないUnbankedな層に特化し、エージェントバンキングという画期的なモデルで急成長したことは非常にユニークです。まもなくユニコーンになることがほぼ確定しているTeamAptですが、今後は、エージェントネットワークを基盤に、顧客に対してより直接的なサービスをアプリで提供しながら、TeamAptは新しい形の銀行に進化していきます。私たちはTeamAptの初期投資家としてこの成長プロセスに付き添う栄誉にあずかってきましたが、彼らの成長はまだまだ序盤にすぎず、今後、アフリカ最大のデジタルバンクに育っていくと確信しています。

(※ こちらで、2021年の私たちの活動を振り返りながら、アフリカスタートアップの動向について語り合っていますので、ご関心のある方はどうぞ。)

では、今年も宜しくお願いします!

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
中山 健志さん、他715人がフォローしています