スティーブ・ジョブズの逸話から考えるAIの価値と、生成系AIの実演から見る「プロ」の危機
<目次>
1. スティーブ・ジョブズの幼少期の逸話とAIの価値
2.「熟練のプロ」 vs 「with AIの素人」の戦い
3. 生成系AIが作ったイラストから考える「プロ」の危機
4.フォロワー特典やお知らせ
1. スティーブ・ジョブズの幼少期の逸話とAIの価値
アップルの創業者スティーブ・ジョブズの「スティーブ・ジョブズ 1995〜 失われたインタビュー〜」という映画で、彼はこんな話をしている。
ジョブズが幼い頃に読んだ雑誌に、動物の移動効率を比較した記事があり、一番効率的なのはコンドルで、人間は下から3分の1くらいの順位だった。
ところが、「自転車に乗った人間」を比較対象に入れてみると、コンドルの移動効率をはるかに上回っており、人類にとって「道具」とは、能力を劇的に増幅できる装置なのだと興奮気味に説明している。
ジョブズはその話を引き合いに出し、「アップルのコンピューターも自転車と同じで人間の能力を劇的に増幅させるものだ」と劇中で語った。
この逸話を生成系AI全盛の現代に照らすと、AIこそ人間の能力を劇的に増幅させる「自転車」と言える。
自転車は、自分で行き先を決めることができるし、外部の燃料を必要とせず、自分がペダルにかけた力を増幅して前に押し出してくれるので、「道具に使われる」ということがない。
そこが、飛行機でも、電車でも、自動車でも、バイクでもなく、ちょうどいい距離感の道具として「自転車」が、比喩としてピッタリなポイントだ。
AIは「Garbage in, Garbage out」(=ゴミのインプットからはゴミのアウトプットしか生まれない)の法則が当てはまる。
いくら優秀なAIでも、指示の質が低ければ、それなりの結果しか得られないが、磨き抜いた指示をすると、期待以上の結果を返してくれる。
つまり、行き先を自分で決めて、ペダルをきちんと踏めば踏むだけ望んだ方向へ進める自転車のように、AIへの指示の方向性と入力の質にはこだわる必要があると言える。
この自転車の話は「コンドル」 vs 「人間」だったが、「オリンピックの金メダリスト」 vs 「自転車に乗った一般人」が競走した場合の比較をすると、仕事においてのAIの価値や示唆が見えてくる。
次の章「熟練のプロ」 vs 「with AIの素人」で、プロントも紹介しながら生成系AIの実演も交えて見てみよう。
2.「熟練のプロ」 vs 「with AIの素人」の戦い
ジョブズの逸話では、「コンドル」 vs 「人間」だったが、「オリンピックの金メダリスト」 vs 「自転車に乗った一般人」が競走した場合の比較をするとどうだろうか?
当然、一般人は金メダリストには到底かなわない。
一般人の全速力は約18km/hと言われ、誰もが知るウサイン・ボルト氏の最高速度は約45km/h(2009年の世界陸上選手権で100メートルを9.58秒から試算)だ。
まともに戦えば、まず勝ち目はないが、先ほどのコンドルと同じく、自転車に乗った人間と比較すると、どうなるか。
ツール・ド・フランスなどにも使われる競技用の自転車(ロードバイク)は初心者が乗っても約40km/hの速度を出すことができ、習熟すると約70km/h(〜100km/h)にも達する。
この自転車に乗った場合、世界最速の人間にも互角に戦えるし、勝算すら出てくる。
これは、「専門的なプロ」 vs 「with AIの素人」でも同じことが言える。
AIの台頭で、各業界の熟練のプロが、AIを使った素人に質的にも量的にも勝てない時代が来つつあるのだ。
次の章では、実際に生成系AIを触りながら、「専門的なプロ」 vs 「with AIの素人」について、イラストのケースで見てみよう。
3. 生成系AIが作ったイラストから考える「プロ」の危機
「1万時間の法則」を踏まえると、今まで、熟練のプロが1万時間以上かけて培ってきた経験をもとに作るコンテンツに対し、AIを使った一般人のコンテンツが良い勝負をするか、圧勝するケースが出てきたので見てみよう。
・イラストレーターのケース
例えば、「にじジャーニー」(※1)を利用すると、素人でも本格的なイラストがすぐに作れる。
もはやオワコンではあるが、来年(辰年)の年賀状に使えるような龍のイラストを作ってみると、1分程度で4パターンのイラストが生成できてしまう。
入力したプロンプトが小学生でも書けるような平易でシンプルなものにも関わらず、アウトプットの質が極めて高いところがポイントだ。
※1画像生成AIのMidjourneyをベースにアニメやイラストに特化して作られたサービス。月に10ドルで利用できる。
▼使用したプロンプト:「日の出とともにかわいいドラゴンが写っているイラスト」
▼使用したプロンプト:「ドラゴンのイラスト」
にじジャーニーの絵を見た漫画家の友人曰く、「それぞれの絵を描くだけでも1時間以上かかるし、むしろここまでの緻密さで描くこと自体が相当難しい」と、舌を巻くほどだった。
つまり、良くも悪くも、時間と質の観点からすると、イラストを描くという領域において、すでにAIは人間を凌駕していると言えるのだ。
・弁理士のケース
同じように、弁理士が約1ヶ月かけて40〜90万円の相場で請け負っていた特許出願のサービスも危機に瀕している。
日本のAIベンチャーが開発した知財AIを使うと、最短3日・5万円で代行できるようになりつつあるのだ。
▼法律改正により、知財AIが活況になっていることを紹介した日経新聞の記事
▼上記の日経新聞の記事で紹介されているAI Samraiのサービス紹介ページ
上記2つのHPの内容を踏まえると、納品までのリードタイムは約1/10(30日→3日)、費用は最大で約1/18(90万円→5万円)に圧縮される計算になる。
リードタイムは今後、更に短くなるだろう。
特許は「早く提出した者が認められる」という性質もあるため、10倍にもなるリードタイムの差は、研究開発に多額の投資をしてきた企業からすると、かなり大きいはずだ。
むしろ、リードタイムが10倍短くなるのなら、タッチの差で特許が取得できず莫大な研究開発費が無駄になるリスクを踏まえ、40〜90万円という現行の相場よりも高くても払う企業すら存在するかもしれない。
このように、リードタイムや、金銭的にもAIが選ばれやすい環境が出来つつある。
・ここからの示唆は何か?
いま見てきたイラストレーターや弁理士のように、テクノロジーの進化や法律の改正で、AIが様々な領域に進出し、プロの存在価値が低下傾向にある。
こういったプロの受注案件がいきなりゼロになることはないだろうが、なるべく早く、対策を考え、手を打っておくに越したことはない。
その際に参考になるのが、拙著『AI時代のキャリア生存戦略』で紹介している次の3つの戦略だ。
① 退避戦略:AIの大波から逃れるために高台(AIが代替し辛い領域)に退避する戦略▶︎コミュニケーションや身体性、情操教育など、人間が行うことに価値のある領域にAIは進出し辛い。
②防御戦略:AIの大波から身を守るために堤防(Business・Technology・Creativeを跨ぐようなマルチスキル化)を構築する戦略▶︎AIは1つの領域に特化して開発されることが多いため、AIの学習用のデータが少ない複合領域は進出が難しい。
③波乗り戦略:AIの大波に乗ること(AIを使ったモノ・コトを作る)で身を守る戦略▶︎AIの波に乗ることで新しい事業を作ることでAIの進化を味方につける。
この3つの戦略をプロの立場で対策として考えると、例えば次のようになる。
① 退避戦略:AIの進出が難しい別分野のピボット先を考える。
②防御戦略:+αの付加価値を別分野から持ってきて、自社のモノ・コトに加える。
③波乗り戦略:攻め込まれている自分の専門領域で、逆にAIを使ったサービス作りに乗り出す。
先ほど紹介した特許出願サービスを提供しているAI Samuraiは、弁理士の資格を持つ経営陣がサービスを作っているため、波乗り戦略の成功事例と言える。
いま見てきたように、これまで以上に、外部環境の変化と自分や自社の特性を見極め、早めに戦略を決めて手を打つことが必要な時代に入っている。
本トピックスについて
「Techサプリ - 生成系AI時代のシゴト論」では、こうしたプロの仕事が、どのようなAIによって攻め込まれているのか、その波に飲み込まれないためには、どのような対策が推奨できるかを毎月1テーマずつ解説していくシリーズになっている。
今回のように、俯瞰してAIを捉える回も月に一回、毎月第四週に発信する予定で、8月は「コンサル」をテーマにAI時代のコンサルについて解説をする予定だ。
このトピックスを読み、少しでも自社の方針や自身のキャリア形成に役立てて頂ければと思うので、乞うご期待ください!
4.フォロワー特典やお知らせ
①NewsPicksのTHE UPDATEに出演しました!
IBMさんSponsoredで、THE UPDATEの生成AIのテーマの回に出演させて頂きました!生成AIがビジネスに与える影響に関心のある方は是非ご覧ください!
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NewsPicksのNewSchool「次世代ビジネス書著者発掘プロジェクト」で最優秀賞を頂いた書籍が好評発売中ですので、AI時代を生き残る3種類の戦略について解説していますので、是非参考にしてみてください!
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