なぜ、東大合格者を出す高校はかたよるのか?

2022年4月7日
全体に公開

こんにちは!

前回の記事への、いいねやコメントありがとうございます!はげみになります!

このトピックスは、「組織と経営のデザイン」を取り扱います。「新規事業をつくり続ける組織のデザイン」がその中心テーマです。

第1回で、「既存事業で抜群な結果を出した人に、新規事業のリーダーを任せる」という新規事業の一般的なリーダー任命の仕方に対して、「もっと成功の再現性が高いパターンがある」んじゃないかと書きました。

その具体について考えるにあたって、ポイントはこの2つだと考えています。

1. 新規事業創出のハードさを乗り越えるための、自己効力感
2. 新規事業創出の成功確度を上げるための、暗黙知の伝承

1つ目が社会認知論における代理経験、2つ目が、SECIモデルにおける共同化がキーになります。今回の記事では「代理経験による自己効力感の向上」について書いていきます。

いきなりですが、東大合格って一部の高校にかたより過ぎだと思いませんか?

長崎にある私の出身校では、東大合格は数年に1人のレベルです。一方、今年の東大合格者を出した数でトップの開成高校は193人、全体(約3,000人)の6%を占めています。

上位20校までの合計が1,310人で、東大合格者の42%です。20校は日本の高校の約0.4%。0.4%の高校数で、40%以上の合格者を占める。すごいかたより。

これは、先天的な人の能力の差より、「自己効力感を生む環境の差」ではないかと考えています。後天的な能力の差も、「努力を続けられる自己効力感」を得られる環境の差から生まれるとも考えられます。

「自己効力感」とは何か?

自己効力感(Self-efficacy)とは何でしょうか?

自己効力感(self-efficacy)とは、自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること。カナダ人心理学者Albert Banduraが提唱した。自己効力や自己可能感などと訳されることもある。Banduraの社会的認知理論の中核となる概念の1つであり、自己効力感が強いほど実際にその行動を遂行できる傾向にあるという。

とWikipediaに書かれています。

無理やりカンタンにいうと、「自己効力感とは、特定の状況を乗り越えることができると自らを信じる力」という感じでしょうか。

ここに登場するAlbert Bandura氏はスタンフォード大学の研究者で、昨年95歳で亡くなられています。2002年のGeneral Reveiw of Phychologyにおける「20世紀で最も著名な心理学研究者」の第4位にランクしています。

Albert Banduraの1977年の論文「Self-efficacy:Toward a Unifying Theory of Behavioral Change」によると、自己効力感を得る要因は以下の4つに分類されます。

1. 成功経験(Performance accomplishments)
2. 代理経験(Vicarious Experience)
3. 言語的説得(Verball Persuasion)
4. 情動的喚起(Emotional arousal)

成功経験は分かりやすいので省略します。言語的説得は、他者のフィードバック(褒めるなど)により、自己効力感を獲得すること、情動的喚起は、健康で元気な時に自己効力感が増すということを指しています。

分かりにくいのは2番めの代理経験です。「自己効力感をもっとも増すのは成功経験だが、2番めが代理経験だ」とも言われています。

上述の論文の説明を、日本語訳して引用します。

自ら経験して習得することだけが、自己効力感の水準を決めるのではない。多くの期待は代理経験から得られる。他人が困難な活動を実行し、悪い結果にいたらないことを観察することで、自分も努力を続ければ、同様のことが達成できるという期待を抱く。他人ができるのであれば、自分もある程度できるはずだと、自分に言い聞かせるのだ。

重要なのは、自分と似たような人が持続的な努力によって成功するのを見ると、観察者は自分も同じような成功を得られる能力を持っていると考えるようになる傾向があるということ。

たしかに、自分の同期、同学年、同じ会社出身の人が大きなことを成し遂げると、自分も同じようなことができるんじゃないかと考えたりします。身近な人が、大きな成功を成し遂げると、その成功例も身近に感じられる。

東大合格と新規事業の成功は似てる?

自己効力感を増す2大ファクターである、「成功経験」と「代理経験」を使って、「なぜ、東大合格者を出す高校はかたよるのか?」という質問に答えてみます。

まず、「成功経験」。

東大合格者上位20校は、2校を除き中高一貫校です。これらの高校に在籍している(多くの)方は、中学受験の時に、「ハードな受験を乗り越えることができた」という成功経験を持っています。中学受験と大学受験の経験の類似性から、これは「大学受験を乗り越えることができる」という自己効力感を増す要因になり得ます。

次に、「代理経験」。

これらの高校は、毎年東大合格者を数多く輩出しています。自分の身近な先輩が、多数東大に合格しているのを横で見ていることは、代理経験そのものです。「同じ高校にいる自分も、努力すれば合格できる」という自己効力感につながります。

もちろん、他にも多くの要因があると思いますが、この2つの要因による自己効力感の向上、特に、「代理経験」を一定の要因として、「東大合格者を多数出した高校は、その後も東大合格者を多数出しやすくなる」という「成功の再生産」が起こると言えるのではないでしょうか。

これは、「新規事業をつくり続ける企業」をデザインする上で、多くの示唆を与えてくれます。

新規事業をつくり続けるためには、新規事業の成功が連続的に起こらなければならない。すなわち、新規事業の成功を自社の中で再生産し続けなければならない。例えば、リクルートはそのような「新規事業成功の再生産」に成功している企業だと思います。

新規事業づくりで特に重要なのは、「この事業を成功させる能力が自分にある」という自己効力感の維持、向上だと思います。

新規事業づくりは、ハードなことの連続です。せっかくつくったプロダクトが何度営業しても売れない。そもそも、プロダクトが完成しない。その過程で、周りからは批判や、冷めた目で見られ続ける。このまま努力を続けていて、本当に成功できるのかと毎日自問自答する。

実際、私が関わった新規事業で、リーダーが途中で降りる、ということを何度も経験してきました。ハードなことにぶつかり続ける中で、「これは本当に自分がやりたいことなのか。人生をかけてやることなのか」という悩みが大きくなり、リーダーを続けられない、という方を何人も見てきました。

この、新規事業における「自己効力感の壁」を乗り越えるための、成功経験、代理経験のデザインについて、次回以降書いていきます。

感想や質問など、コメントいただければうれしいです!

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
Kuo Johnnyさん、他2231人がフォローしています