アントニオ猪木さん死去。隠れた3つの名セリフを知ってほしい

2022年10月1日
全体に公開

プロレスラーのアントニオ猪木さんの訃報が1日、届きました。

プロレスにまったく関心がなくても、「元気ですかー!」「1、2、3、ダー!」という「猪木節」を見聞きしたことがあるでしょう。ただ、人生訓につながる隠れた「名言」「名セリフ」がたくさんあります。3つを引用して、魅力を伝えたいと思います。

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私はもともと、プロレスを少し冷ややかにみていました。テレビ中継でみた米国人レスラーのビッグバン・ベイダーの姿に「パロディっぽい」と感じたことを覚えています。

ただ、高校で男子校に通ったことで、一転してプロレスファンになりました。

「週刊ゴング」や「週刊プロレス」を読んで、テレビのプロレス放送を録画して欠かさずチェック。休み時間には、プロレス談義に飽き足らず、体育館でプロレスごっこをしていました。休日は友達の家でゲーム「ファイヤープロレスリング」に熱中。近くで興行試合があれば、友達と見に行き、Tシャツを着て選手たちに声援を送っていました。

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こうしてハマった時期は1990年代後半。かつてゴールデンタイムだったTV中継はすでに深夜枠で、K-1やPRIDEなどの総合格闘技が人気を集め、プロレス人気はさらに低迷していました。1998年4月、猪木さんの引退試合が東京ドームでありました。私はレスラー・猪木の「晩年」を、試合会場やテレビで見ていたことになります。

日常会話で、茶番っぽいやりとりを指して「プロレスやってる」「プロレスっぽい」ということがあります。ファンはその度に言い返したくなるのをぐっと堪えているのですが、エンタメ性やショーの要素が強いのは事実で、それが大きな魅力の一つです。

エンタメはリング外でも楽しいものです。アントニオ猪木の名シーンを一つ紹介します。

「出る前に負けること考えるバカいるかよ!」

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猪木が立ち上げた新日本プロレスによる1990年2月10日の東京ドーム興行でのことです。タッグ戦を前に、ガウンを着て入場を待つ猪木に、TVアナウンサーがこう聞きました。

もし負けるということがあると、これは勝負は時の運という言葉では済まないことになりますが?

ガウンを直しながら黙って聞いていた猪木ですが、その場で軽くジャンプをして、この「出る前に負けること考えるバカいるかよ!」というセリフとともに、アナウンサーにビンタを食らわせます。

そしてカメラをにらみつけて「出ていけ、コラ!」。

この当意即妙なやりとりに、ファンは「勇気をもらえる名言」「挫けそうな時にこれを見て気合いを入れています」と心酔しています。人生や仕事の迷い、はたまたちょっとしたチャレンジを前に、自らをこのシーンに重ねて奮い立たせるのです。

「出る前に負けること考えるバカがいるかよ」と。

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「折ってみろ!」

プロレスと他の格闘技や競技との違いはなんでしょうか。よく話題や論争となる「ブック」(筋書きや段取り)があるか、ないかではありません。

私は、相手の技をあえて受けるかどうか、だと思います。

プロ格闘家でユーチューバーとしても活躍する朝倉未来さんに「ストリートファイトで勝ったら1000万円」という企画番組を見ました。力の差のある挑戦者を容赦無くボコボコにしたり、締め上げたりする姿に、友達は「おっかないね」と一言。強さが際立つ一方、私も見てはいけない映像をみたような気がしました。

こうした格闘技やボクシングなどと違って、プロレスは相手の技を受けずに「一方的にボコる」ことを、あまりよしとしません。

肉体を鍛え上げたレスラー同士が、互いの技を受けあって、こらえて、たえて、その上で力や粘りの強さを見せて、ギブアップや3カウントを奪うーー。そのプロセスがプロレスの魅力です。何度も技を受けるために、身体を絞るのではなく、ムキムキに鍛えているのです。

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1983年5月29日。猪木は、前田日明(まえだ・あきら)というレスラーとの生涯唯一のシングルマッチに臨みます。

前田日明さんのプロフィールには、「1977年に新日本プロレスへ入団し、デビュー。プロレス団体UWF、世界初となる総合格闘技団体リングスを旗揚げ」とあります。猪木の弟子でありながら、別の格闘技路線で業界を引っ張った人物です。

「切れていないですよ」のフレーズで一躍有名となった長州力の顔面を背後から蹴り上げて物議を醸した、「武闘派レスラー」としての顔もあります。

猪木vs前田のマット上で、腕ひしぎ十字固めを決められた猪木が放った一言が「折ってみろ!」でした。猪木はピンチにあっても「そんなものか」と相手に檄を飛ばしたのです。

これぞ「相手の技をあえて受ける」プロレスの真骨頂かもしれません。

前田日明さん(中央)にビンタをするアントニオ猪木さん(右)=Gettyimages

猪木が引退後、ますます落ち込んだプロレス人気には、復活の兆しがあるそうです。ただ、「ストリートファイト」や総合格闘技RIZINに人気が集まっています。

相手の「いいところ」を引き出したり、体で受けたりしなくても、力で瞬時にねじ伏せて「勝てば官軍」。リング上で起きていることは、世の中の写し鏡とも言えるでしょう。

「折ってみろ!」と、向き合う相手の技をあえて受ける猪木イズムを心に持ちたいです。

「一生懸命にやっている人を小馬鹿にするのは、自分がかなわないから笑うことで逃げているのだ」

猪木さんはどこか真面目な顔があり、キリギリスのような人間には「己のちっぽけな自尊心を満足させているに過ぎない」と強く非難しました。

また、「プロレスは人生に似ている」として、失敗した人間に安易に烙印を押すことも嫌っていたようです。

猪木語録 一日一叫び』(扶桑社BOOKS)には、こんな説明があります。

プロレスは、両肩をついてもアマレスのように、すぐにフォール負けにならない。3カウントの途中で返せば逆転できる。反則も5カウントまで許される。人生のように常に挽回するチャンスがある。人間だって時に法を犯すような大きな失敗をしても、深い反省と厚生で再起する機会がある。だからプロレスは人生に例えられるのだ。
『猪木語録 一日一叫び』(扶桑社BOOKS)

「デジタルタトゥー」で、失敗や負の遺産が、将来にわたって残やすい時代に響きます。

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世界中継された世界ヘビー級王者・モハメド・アリとの「異種格闘技戦」や、「国会に卍固め」「消費税に延髄斬り」をキャッチフレーズに国会にも乗り込んだ猪木さん。多額の借金や「74歳で4度目の結婚」など、いつまでも話題に事欠かないレスラーでした。

最近は難病で闘病中でしたが、YouTubeを通して「燃える闘魂」を最後までファンに見せてくれました。

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