【声】名刺交換の必須マナー。銀行副頭取から教わった一つのルール

2022年10月14日
全体に公開

リモートワークが増えました。コロナ禍が皮肉にも「出勤の無駄」をなくした点をありがたがっている人が多いです。一方、久しぶりに対面で仕事をすると、「やっぱり会ってこそ」と、その効果を実感するケースも少なくありません。

私もその1人です。

この1カ月で数えると、計80人の方と名刺交換をしました。簡単な自己紹介やちょっとした会話がきっかけで、新たなご縁やお仕事につながったこともあります。

スマホ一つで仕事が完結するデジタル時代に、名刺の存在意義も変わりつつありますが、まだまだ捨てたものではありません。「わたしは何者か」「あなたは何者か」を数秒で情報交換できる、アナログでいて便利なツールです。

80枚の名刺を整理して眺めると、いろいろなデザインがあることに気づきます。

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名刺は人なり、組織なり

クリエイターのメディアプラットフォームnoteの名刺はエメラルドグリーンに文字が白抜き。会社ロゴのように右角が切れており、noteらしさが表れています。

若者の声を社会につなぐ一般社団法人NO YOUTH NO JAPANの代表からいただいた名刺は、団体のインスタに飛べるQRコードつき。漫画家・クニさんの名刺は、本人そっくりの似顔絵の漫画と「検索窓のキーワード」がコミカルに描かれています。

伝統的なメディア関係者や大学教員らの名刺は硬めのデザインで情報が多い一方、新興メディアやテック企業は、文字の配置バランスなどで強弱があって文字は少なめ、スタイリッシュな印象を受けました。

大手新聞社を退職した元上司の名刺は手作りで、肩書きが「チャリダー 兼ネンキン生活者 兼テキトー投資家」。そこから日頃の暮らしぶりに話題が転がりました。

都内に動画スタジオを構え、オンラインイベントの支援をするシンフォニティ。共同経営者の名刺は、黒地の高級紙で少し光沢がかっていました。印象的な1枚だったので聞くと、「起業するときに、名刺だけは負けるなと、気合を入れて作りました」。

名刺は人なり、組織なり。

いろいろな活動をしている人たちと交換する中で、それぞれの日頃の仕事ぶりや個性が詰まっている1枚だと、改めて実感しました。

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マナー講師が教える名刺交換。日本だけのガラパゴス?

20年ほど前、大学を卒業して会社に入る直前に、友人と連れ立って名刺入れを初めて買いました。銀行で働くその友人は、「あまり奇抜なデザインは良くないだろう」と言って、黒革のシックなデザインを選びました。数年前に支店長にもなった彼のビジネスマナーの始まりです。

私も入社すると、新人社員向けの「ビジネスマナー研修」を受けまました。

名刺交換のマナーで教わったのは、こんな内容でした。

名刺を渡す際は、相手が読みやすい向きにした名刺を名刺入れの上に乗せ、両手で持ちながら差し出します。相手に差し出すタイミングで、社名や部署、氏名を名乗りましょう。 相手が差し出した名刺よりも低い位置から自分の名刺を差し出すことで、より謙虚で丁寧な印象を与えることができます。
フレマガ「名刺交換のやり方を徹底解説!受け取り方・渡し方の注意点とは?」

このお作法は、「ビールを注がれる際のコップの持ち方」と似ています。

日本から一歩外を出ると、同じようにする外国人と出会うことは、まずありません。アメリカや東南アジアで仕事をしてきましたが、日本流の「名刺交換のマナー」や「ビールの注がれ方」は食事の際に「ジャパニーズマナー」と酒の肴になるほどです。

「失礼のない作法」として覚えておいて損はないものの、その通りやれなかったからといって非礼にあたるものでもありません。

そんな私が、名刺交換で「君、それは失礼だよ」と、仕事相手から指導をいただいたことが一度あります。それは新聞社の経済部で、日銀担当をしていたころのエピソードです。

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夜回り取材で銀行副頭取から教わった名刺の必須マナー

日銀担当として為替相場をみていた私は、同時にメガバンクなど民間の金融機関の動向もカバーしていました。

取材は、会見への出席や広報担当者と日常的に会うほか、銀行幹部への面談もあります。本店でアポをとって、役員室でお時間をいただくこともあるのですが、当然ながら、そんなに頻繁には会えません。そこで「夜回り・朝回り」と呼ばれる取材をします。

銀行幹部らが出勤・帰宅する朝や夜、自宅近くで声をかけて、歩きながらや立ちながら、わずかな時間で「オフレコ取材」をするのです。取材相手からすれば迷惑なのですが、待っていても情報は集まらないので、記者が迷惑承知で足を運んでいる、という構図です。

ある晩。銀行副頭取の自宅近くで待っていると、社用車で夜の会食から帰ってきました。

以前に名刺交換をしたことがある私に、「もう一度、名刺を」といいます。翌朝に取材を受けたことを銀行内で共有するためだ、と理由も明かしてくれました。

近くに車を停めて身ひとつで待っていた私は、名刺入れを持ち合わせていませんでした。「すみません、名刺入れを忘れました」と釈明します。

すると、この副頭取は、こう言って私を諭しました。

名刺は絶対に切らしてはいけない。それが仕事で何より大事なマナーだよ。

そう言うと、「ちょっと見せてやろう」と、背広のポケットをあちこち探ります。手帳や財布、名刺入れ、携帯を取り出すと、それぞれから自分の名刺が数枚、出てきます。どれも同じ会社の名刺ですが、保管場所を名刺入れだけに限っていませんでした。

「名刺入れがないから、名刺がない」「名刺をいま切らしているんです」というのは二流、三流の言い訳。いつでもどこからでも出せるように、財布でも手帳でも携帯でも、そこらじゅうに何枚も入れておくんだ。
商談でも取引でも挨拶でも、第一声で『名刺を切らしていまして』と言ったら、その時点で自分の立場がない。うまくいくものもいかない。

この副頭取は、法人営業の叩き上げとして、金融業界にとどまらず人脈が広い人でした。

浪花節っぽいところもありますが、副頭取が自宅前で親切心で教えてくれた「ビジネスマナー」は、会社の研修室でマナー講師から習うどんなお作法よりも、実践的で、核心をついていると私は感じました。

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この1カ月、名刺交換の場面で「すみません、いま名刺を持ち合わせておらず……」と、言う人に1度や2度ならず、会いました。みんな恐縮した様子です。

その人がいないところで、「あの人、結局、何者なんだったけ?」「名刺ないと、よくわからないよね」と漏らす人も見かけました。時間が経ってそのままだと、名前も思い出せません。

「名刺は両手で受け取る」とか「名刺ケースの上に載せる」とか、そんなことは本質的ではありません。まず、名刺を切らさないこと。そして、いつでもどこからでも出せるように、いろいろなところに携帯しておくこと。これが私が教わった必須ルールです。

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