韓国ファッションEC、クィニッ(퀸잇)がすごい

2023年8月8日
全体に公開

韓国でファッションEC「クィニッ(퀸잇)を展開するラポラプス(라포랩스)が、昨年2月に約39億円を調達したシリーズBの追加ラウンドで、約37億円(340億ウォン)の調達を発表しました。

ラポラプスは、30代男性2人が創業し、40〜50代女性に特化したファッションECで圧倒的NO.1のアプリを生み出しました。

なぜ、40〜50代女性に特化したのか、そして韓国トップVCをこれほど惹きつける魅力を見ていきましょう。

☕️coffee break

ファッションEC「クィニッ(퀸잇)」がリリースされたのは2020年9月のこと。

2人の創業者は、ソウル大学校の在学時から(韓国では4年制以上の学科を大学校と呼ぶ)、観葉植物EC、インド市場向けマッチングアプリ、経済ニュースサービスなどを立ち上げては畳んでを繰り返してきました。

例えば、経済ニュースサービスは毎日、自らの就活のために新聞を読んでいたことから、就職準備をしている人向けにニュースレターの需要があるのではないかと思い、立ち上げました。

身近な課題をもとに立ち上げたこともあり、購読者は2年で2万人にまで増加したものの、収益が上がらずに撤退することになりました。

その経験を踏まえ、次は市場規模が大きく、競争が激しくない領域で事業を立ち上げようと模索していました。

その中で注目した服の市場は、若い女性向けのプラットフォームは数多くあるものの、韓国で最も人口が多い、中高年女性向けはほとんどサービスがないことに気づいたわけです。

そこで、求人プラットフォームに広告を掲載したり、カフェでランダムに話しかけたりすることで40-50代の女性約300人に30分程度のインタビューを行いました。

誰もが中高年女性向けのファッションECが無い理由として、「スマホに慣れていない」、「ファッションにはあまり関心がない」と考えていたものの、実際はそうではありませんでした。

創業者2名のMZ世代(1980〜2000年代前半生まれ)と全く同じようなスマホの使い方をしている上、ファッションへの関心も非常に高いことがわかりました。

この結果を受け、1週間で3つのプロトタイプを構築しました。

①10-20代が好きなブランドを多く含む

②40-50代が好きそうなブランドを多く含む

③両方の世代が好きそうなブランドを含む

これをもとに約1カ月間、日中は10人にユーザーインタビュー。夜にはインタビュー結果をもとに改善して、翌日再びユーザーインタビューを行うことを繰り返してきました。

そのフィードバックを反映しつつも、10人中8人が好きなアプリではなく、10人中1人が本当に必要なアプリを構築して、2020年9月に正式リリースを行いました。

「クィニッ(퀸잇)」アプリのスクリーンショット

🍪もっとくわしく

アプリ開発で重視したのは大きく3つです。

「シンプルで直感的なUI/UX」

アプリを開いてから、いかに早く商品を発見して購入までスムーズに進めるかが重要で、購入につながらない機能は追加しませんでした。

電話番号を入力するだけで会員登録が3秒で完了することができること、サイズを入力すると、フィットする商品だけが表示される仕組みを構築したわけです。

「取り扱いブランドの素材と品質」

40〜50代は服の素材、洗濯機の使用可否、糸くずが発生しないか、などを重要視していることから、素材や品質にこだわったブランドを多く取り扱いました。

「好みの商品が見つかる」

SNSや口コミなど、身近な情報をもとに店舗やECサイトに訪れるものの、他人が来ている服を真似して着ることはなく、自分の好みを重視していることがわかりました。

そこで、サイズ情報・閲覧履歴・購入履歴などから商品がパーソナライズされる独自のAIアルゴリズムを構築しました。

これらの魅力を磨いて、再びユーザーインタビュー→改善→ユーザーインタビュー→磨き込み→ユーザーインタビューを現在まで繰り返してきました。

先行する企業がない中、40〜50代の女性が使いたくなるようなファッションアプリを構築してきた上、新型コロナの感染拡大により、実店舗で服を購入していたユーザーも一気に流れ込んできました。

その結果、8カ月でアプリダウンロード数100万を突破、次の4カ月でさらに250万のダウンロードが行われました。

現在の累計アプリダウンロード数は、韓国の40〜50代女性の約3分の1にあたる550万を突破しており、まさしくNO.1のサービスとなったわけです。

2022年は売上高が約20億円(190億ウォン)でしたが、2023年には約43億円〜54億円(400〜500億ウォン)を見込んでおり、すでに3月からは営業利益・純利益ともに黒字転換しています。

🍫ちなみに

ラポラプス社の大成功により、韓国では40〜50代女性向けファッションEC市場で競争が激しくなり始めました。

2022年7月にはカカオグループのKakao Styleが「Posty(포스티)」を、2023年5月にはユニコーン企業のMusinsaが「LAZY NIGHT(레이지나잇)」をリリースしました。

Musinsaは7月にKKRなどから、約271億円の資金調達を実施しています(以下記事参考)。

ラポラプスも自社ブランドの立ち上げ、販売・流通チャネルを強化するとともに、男性向けブランド、農水産物のプラットフォームへと拡大に動きました

これもユーザーインタビューの結果、ラポラプスが抱える女性ユーザーは夫の衣類を代わりに購入している割合がかなり高いことに気がついたからでした。

これまでは40〜50代女性向けのファッションECプラットフォームでしたが、10年後までに韓国のX世代(1965年〜1981年生まれ)の半数が利用するプラットフォームの構築に向けて、さらなる事業拡大に動いています。

サムネイル画像:Unsplash/Markus Winkler

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