12月国内大型調達:トップ5社には海外投資家がこぞって出資

2023年12月29日
全体に公開

12月も国内スタートアップ業界では、大型の資金調達が行われました。

トップ5社はいずれも海外での事業展開に動いていることから、海外投資家が出資して、資金調達額が大きくなっていることが特徴です。

☕️coffee break

1. Shinobi Therapeutics(*米国法人/シノビ・セラピューティクス):iPS細胞由来の新たな細胞療法を開発

  • シリーズA
  • 資金調達額:5100万ドル(約74億円)
  • リード投資家:EQT Life Sciences、Eight Roads Ventures Japan、F-Prime Capital

ここに注目👉京都大学iPS細胞研究所の金子新教授の技術をもとに2015年に設立されたサイアス(現:シノビ・セラピューティクス株式会社)が前身です。

固形がんの治療を目的とする他家iPS細胞(他人の体の細胞から作られたiPS細胞)由来の細胞治療プラットフォーム開発に取り組んでいます。

他家細胞由来の治療法においては、高価な細胞培養と投与した際に患者の免疫機構が他家細胞を拒絶してしまう課題があります。そこで既存の細胞療法よりも安価に細胞培養を行いながらも、他家細胞の免疫回避能力を付与したiPS細胞を活用するプラットフォームを開発したのです。

2023年1月に米国法人を親会社とする組織再編を行い、iPS細胞由来の各種免疫細胞の研究開発が活発化している米国に本社を構えることでさらなる開発加速に向けた人材・資金の確保を狙います。

2. アクセルスペースホールディングス:小型衛星による地球観測事業

  • シリーズD
  • 資金調達額:62.4億円
  • リード投資家:SMBC-GBグロース1号(グローバル・ブレイン、SMBC ベンチャーキャピタル・マネジメントの共同ファンド)

ここに注目👉小型衛星コンステレーション(多数の人工衛星を一体的に運用するシステム)を構築して、地球観測インフラサービス「AxelGlobe」、衛星プロジェクトのワンストップサービス「AxelLiner」などを展開しています。

現在は運用している衛星は5機のみですが、最短1年で開発できる小型衛星「PYXIS」を打ち上げ、衛星コンステレーションの機数を増強します。

すでに重量50kg以下の超小型衛星では米Planeなどが先行しているものの、衛星画像の画質がさらに高い小型衛星(重量100〜500kg)の需要が高まっています。アクセルスペースは現在、世界中のどこでも2日に1回衛星画像撮影することができますが、1日に1回撮影できる体制の構築に向け、調達資金で衛星開発・打ち上げのスピードアップを図ります。

3. Kyulux(キューラックス):有機EL材料の開発

  • シリーズC
  • 資金調達額:42.7億円
  • 投資家:El Camino Capital(中国)、MCPアセット・マネジメントなど

ここに注目👉九州大学・ハーバード大学からライセンスを得た技術をもとに、テレビやスマホのディスプレイとして広く普及している有機ELディスプレイや照明に用いる次世代発光材料「TADF」の開発に取り組んでいます。

希少で高価なレアメタルを活用することなく、長寿命・広色域・高効率な発光を実現する材料を開発していることが強みです。

設立翌年に韓国大手のSamsung Display・LG Displayが出資・共同研究開発をするなど、海外からも注目されています。

参考:【直撃】サムスン、LGが競って出資した福岡発ベンチャーの正体

2025年からはパートナー企業と連携して量産化に取り組み、2026年12月期に売上200億円超えを目指しています。

4. Micoworks(ミコワークス):LINEを活用したマーケティングツールの提供

  • シリーズB
  • 資金調達額:35億円
  • リード投資家:Vertex Growth(シンガポール)

ここに注目👉パーソナルコミュニケーションプラットフォーム「MicoCloud」、個人経営の飲食店向けマーケティングツール「ミコミー」」を展開しています。

創業時は新卒マッチングサービス「digmee(現:CLUTCH)」、採用管理システム「HRPRIME」を提供していましたが、現在主力の「MicoCloud」に集中すべく、両事業は譲渡しています。

「MicoCloud」は2022年2月のシリーズA調達時点から66%増の1000ブランド以上が導入しており、利用継続企業は驚異の99%超え。

シンガポール政府系ファンド傘下のVertex Growthから資金調達したことを機に、アジアを中心としたグローバル展開に向けて開発・組織体制の強化を推進します。

5. Allganize Holdings(オルガナイズ・ホールディングス):法人向けオールインワンLLMソリューションの提供

  • シリーズB
  • 資金調達額:2,020万ドル(約30.2億円)
  • 投資家:Intervest、Murex、SK Telecomなど

ここに注目👉当初は米国に本社機能がありましたが、日本での事業展開の好調を受け、2022年に日本に本社機能を移転し、日本でのIPOを目指しています。

法人向けにオールインワンのLLM(大規模言語モデル)ソリューションを提供しています。

業務に活用できる生成AIアプリを100以上備えたアプリプラットフォーム「Alli LLM App Market」、AIチャットボット「Alli」、請求書情報抽出サービス「Alli for Invoice」などを展開しています。調達資金をもとに日本・米国・韓国を中心とした事業拡大、開発を加速させます。

🍫ちなみに

LINEヤフーの子会社も大型調達を発表しました。

NFTプラットフォームを開発するLINE NEXTは、韓国のPEファンド、Crescendo Equity Partnersのコンソーシアム(共同事業体)から1億4000万ドル(約200億円)を調達しました

CEOはLINE Payの元CEO高永受(コ・ヨンス)氏が務めており、グローバルNFTプラットフォーム「DOSI(ドシ)」を中心とした、Web3サービスのエコシステムの開発に取り組んでいます。

ベータ版の提供開始からNFTウォレット「DOSI Wallet」の登録アカウント数は550万を超え、累計取引数も約47万件と急成長を遂げています。

アジアのブロックチェーン・Web3業界において2023年最大規模の資金調達で、新規サービスのさらなる開発に取り組みます。

サムネイル画像:Unsplash/Sigmund

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