「アート思考」でイノベーションにつながる革新的コンセプトを創出する

2023年7月1日
全体に公開

はじめまして。このトピックスでは『「アート思考」とイノベーション』と題し、「アート思考」を活用することで、産業界にイノベーションを起こす秘訣を探っていきます。

今回は、「アート思考」とは、「自らの興味・関心に基づき、従来の常識を覆す革新的なコンセプトを創出する思考」であることをお話しします。「アート思考」という名前は、現代アートのアーティストたちが、自らの興味・関心を起点に、これまでにない全く新しい作品を制作していることに由来します。

アーティストは革新的なコンセプトを創出する

アーティストは、先人が創った作品と同じ形式や内容(コンセプト)の作品を制作しても評価されません。常に、形式や内容(コンセプト)が新しい作品を創らなければなりません。しかも、自分の過去作に対しても、より新しい作品にすることが要求されます。

これまでになかった新しい作品を創るために、アーティストたちは、私たちが見逃してしまうような社会事象にも着目して、その事象の本質を洞察し、思いもよらぬコンセプトを考えだしています。

例えば、東京の地下鉄の駅は頻繁に水漏れが起き、駅員が、ビニールチューブやペットボトルを使って応急措置を行なっています。私たちは毎日のように地下鉄に乗っていますが、このような光景は目に入りません。

アーティストの毛利悠子さんは、この現象に着目し、2009年から写真を撮り続けています。そして、応急措置も「作品」と呼べるものであると思い至りました。この発想を発展させ、日用品で水漏れの応急措置をするワークショップを行ったところ、2時間ほどでほとんどの人が、素晴らしい「作品」を創り上げたといいます。毛利さんが予想もしていなかった日用品の使い方をしたものもありました。このことから、「人は緊急事態に直面すると、意図せぬクリエイティビティを発揮する」というコンセプトを導き、自分も水漏れを応急措置する作品《モレモレ:与えられた落水#1-3》を制作しました。水漏れは美術館では最も避けたいことの一つです。水漏れを作品に取り込み展示してしまうというのはとんでもなく革新的なのです。

毛利悠子《モレモレ:与えられた落水 #1–3》2015/「日産アートアワード2015」展示風景/撮影:長谷川恵美子

アーティストの思考を学びイノベーションを起こす

このようなアーティストの視点・思考は、産業界においても革新的なアイデアやコンセプトの創出に繋がります。ビジネスパーソンが「アート思考」を身につけることは、イノベーションの促進や組織の変革を行ううえで大きな力となります。

私は、ビジネスパーソンが「アート思考」を学ぶためのワークショップやイベントを開催しています。ワークショップでは、参加者が自らの創造力を解き放ち、新たなアイデアを生み出す場を提供しています。また、企業とアーティストとのコラボレーションを通じて共同で課題解決に取り組む、アーティスティック・インターベンションと呼ばれるアプローチも提案しており、文化庁の事業として実施しました。

私が目指しているのは、産業界において「アート思考」が当たり前のものとなり、創造性と革新が日常的に行われる社会の実現です。従来の枠組みを超えた新たな可能性が広がることを期待しています。「アート思考」に興味を持っていただいた皆さんとともに、創造と革新の旅を歩んでいけることを願っています。

Pexels/Airam Dato-on 撮影

参照:「日産アートアワード2015 |  毛利悠子 インタビュー」神奈川文化プログラム マグカル

トップ画像:Pexels/ Mark Henry Rood撮影

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