SmartDrive IPOの考察(Twitter続き)
2022年11月10日に日本のスタートアップ であるSmartDriveがグロース市場への上場申請を行いました。示唆深いIPOだなと感じましたので、Twitterに呟いた際に以下のように「書ききれないのでNewsPicksのトピックスで続きを書きます」と言ったので、そのお話しです。
今回のIPOサマリー(Twitterより)
Twitterに今回のSmartDriveのIPOの特徴をいくつ記載しました。
1)ダウンラウンドIPO:未上場ラウンドの半分以下2)赤字上場:3Q▲2.3億円(前期までも赤字)3)想定時価総額:67億円4)オファリングサイズ:約20億円(30%程度)5)資金調達額(公募分):2.4億円
さて、ここからどんなことが見えてくるのか、その考察をしましょうというお話しをしました。
Twitterでも書きましたが、まず難しい環境下、難しい状況での経営判断だったことは間違いありません。ですので、当方の考察が当たっていようがいまいが、また他にも色々と見えない論点があると思います。それらを含めて色々と賛否はあり得ると思いますが、冒頭に申し上げておくと、外野としては今回のIPOの意思決定は一旦尊重したいと思っています。
その上で、以下のような意思決定上の論点があったと思われます。
調達額がシリーズA並と小さい(2.4億円)、だからこそ上場するか否か、
未上場ダウンラウンド v.s. ダウンラウンドIPO
どちらが企業価値向上、ステークホルダーにとって望ましいかという経営判断
その辺も含めて考察してみたいと思います。その前にまず基礎情報のごく簡単なおさらいです。
SmartDriveとは
クラウド型車両管理サービスを主力にしたB2B企業です。
以下のようにプラットフォームとして機能することで、今後のモビリティ時代において様々なパートナー企業になくてはならない存在になっていくことを目指します。
SmartDriveは赤字上場
業績推移を見てみると、売上は成長を続けていますが、収益的には赤字が継続しています。いわゆる「赤字上場」に該当します。
今回の考察のポイント
要するに、資金調達している金額が極めて小さいのです。たった2.4億円です。それであればシードラウンドでも調達できる可能性ありますし、シリーズAであれば問題ない金額水準です。それをIPOが可能な会社が調達するという観点では、上場する意義の一つである資金調達という観点では今回のIPOはあまりそこのメリットを享受できていないことになります。いわゆる「Small IPO」です。
であれば、上場せずに未上場ラウンドをすれば良いじゃないか。すぐにそういう疑問が出てくると思います。それをせずなぜIPOを選択したのか。
では今、IPOの市場環境はどうでしょうか。決して良いわけではありません。大型IPOはこぞって見送りをしていた環境ですし、バリュエーションもシビアにみられます。機関投資家も来たる本格リセッションに備えて、リスクオフモード、また相対的にリスクが高い会社には保守的になっています。ましては、まだ小規模、かつ赤字のSmartDriveは機関投資家にとって優先度の低い状況と言えます。
さらに言えば、赤字企業なのです。市場環境が悪い中で、赤字企業がわざわざ上場する必要があるのか。
そこでポイントとなるのが、バリュエーションです。今回はいわゆる「ダウンラウンドIPO」に該当します。未上場での調達ラウンドの価格を下回って上場するものです。さらに今回は大幅なダウンラウンドで、半分以下の値付けで想定価格を設定しています。
では、なぜそこまで良い条件とは言えない中で、無理をして赤字上場を選択したのか。なぜ、既存株主はそれを了承したのか。ということが問題になります。
当方の考察はこちら
おそらく、未上場でダウンラウンドでしか調達が難しいことが一定確認されていたのだと思います。だからこそ、資金調達をするには、上場するにせよしないにせよ、価格を大きく引き下げた形を許容せざるを得なかったのだと思います。
そうした際に「今IPOできるのであればする」という選択肢か、一旦大幅なダウンラウンドを受け入れて、しかるべきタイミングで上場を目指すかという判断になります。
前者はダウンラウンドIPOの赤字上場という今回選択した結果になりますが、後者の場合は、どうでしょうか。バリュエーションを引き下げれば上場ができるような企業ですから、問題なく資金は集まった可能性が高いと思います。ただ、それで来年以降に確実に上場できるのか?そこが論点だったと思います。
まだ赤字企業ですから、仮に売上成長が止まってしまったらどうなるでしょうか。キャッシュフローは赤字立とすると、また資金調達が必要になる可能性もあります。それはキャッシュフロー黒字化や、何らかの繋ぎ資金で乗り越えたとしても、成長性が鈍化してしまってはこの規模でこの収益力(もしくは赤字)だと、IPOの難易度は高まるばかりです。
さらに来年以降市場環境が今よりも良いとは限らない。むしろもっと悪化している可能性すらあります。
そして実際に、前期が売上高成長率のピークだった可能性があります。もしそうだとすると、その成長性を武器にこのタイミングで上場することが、既存投資家のExit戦略にも合致した可能性が高いと思います。
重要な株主構成とロックアップ
株主構成とロックアップはこちらの情報がわかりやすいので見てください。
上位株主はINCJ/ANRIといったVCです。それ以外にも事業パートナーの企業が多数名を連ねています(+個人)。ポイントの1つ目は、INCJ/ANRIといった上位株主は初期投資家であり簿価が低いということです。ですので、今回のIPOに対するリターン目線が相対的に低く、IPOを今日しやすかった。
ではロックアップはどうでしょうか。外部筆頭株主であるINCJはロックアップに応じていません。ANRIほか主要株主はいわゆる90日+1.5倍解除の日本型の緩めのロックアップです。
これから想定されるのは、INCJはこの株価水準でもどんどん売り抜いていきたいという可能性です。そして、初値については一定上昇する可能性も期待しており、それであればリターンの確保も、未上場でいるよりもしやすいとも目論みがあるのではないでしょうか。
ロックアップ株主についても、株価推移は不透明であるものの、上昇してくれれば売却可能せが高まります。このまま未上場でいるよりは有利な価格で売却できる可能性が高いという判断は合理性があります。
最後に
いかがでしたでしょうか。このような形で今回はIPOを選択しています。既存株主がダウンラウンドIPOを許容する背景は理解できます。ただ、その代償かもしれないのが、資金調達額の小ささです。まだ赤字企業であるSmartDriveにとって、仮に売上成長が鈍化した場合、キャッシュフローが黒字化しきれない場合に、上場後の舵取りは困難を極める可能性があります。
私は事業や財務の詳細分析は行っていませんので、その辺りは分かりません。是非このまま順調に成長を遂げて、株価を引き上げ、キャッシュフロー創出力を高め、大きく事業投資ができる体力を持って、本当のミッション達成に向けて事業基盤を拡充して欲しいと願っています。
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