ユーザベースは非公開化してどうする(なる)?

2022年11月18日
全体に公開

2022年11月9日、Newspicks等を運営するユーザベースがカーライル(PEファンド)によるTOB(公開買付)を通じた非公開化を発表しました。この1年の市場低迷の期間はもちろん、それ以前から長期株価低迷のトレンドに入っていたユーザベースの動向は多くの方が注目していたはずです。本日PEファンドによる非公開化を選択し、それを公表しました。

私の年初のnoteでも書いた通り、株式市場の調整はスタートアップに大きな影響を与えており、その影響は今も継続しています。特に上場株式においては選別は激しく、一部業績好調の有望スタートアップは一定程度株価を戻しましたが、それ以外のポストIPOスタートアップは株価を大きく下落させ、まさに「上場後の死の谷」にはまってしまった様な状況に陥っています。

ユーザベースが非公開化を選択した背景や、一連のプロセスについては以下のnoteにまとめていますので、よければまずこちらをご一読ください。トピックス読者はNewsPicksについてよくご存知なので、その辺りはスッと理解できると思います。せっかくのトピックスなので、このコメント欄を活用して、是非皆様のNewsPicksやユーザベースに対する評価やフィードバック、そして課題や解決に向けた未来の方向性についてご意見いただければ面白いと思います。

ユーザベース苦戦の2つの原因

最初に現象面でどのあたりで苦戦が表面化していたのかだけおさらいです。原因分析は別途、読者の皆様から是非ご意見もらいたいところです(もちろん私見はあります)。

①Quartz買収

最初に苦戦が顕在化したのは、米国でのM&A、Quartzの買収です。この買収案件で描いた絵が実現できず、業績的にも資金的にもバランスシート的にも株価的にも厳しい状況に追い込まれています。この辺りの経緯は以下のnoteにまとまっています。この苦戦を打破するための、事業会社からの第三者割当増資であり、2020年7月の公募増資です。

②NewsPicks事業の成長鈍化

もう一つは2020年、丁度コロナ以降より顕在化してきたNewsPicks事業の成長鈍化です。以下のARR推移を見れば明らかですが、2年以上に亘りほぼ横ばいであり、目下では有料課金ユーザーの獲得が解約を下回り、減少傾向のトレンドに入ってしまっています。

ユーザベース復活に必要な打ち手

noteでは復活に向けた打ち手はさらっとしか書いていません。この辺りも参考に是非、読者の皆様のご意見が聞きたいと思います。

メディアコンテンツを軸にした復活には大きな人材補強と先行投資が必要

何度も触れていますが、復活には人的資本の拡充が何よりも重要だと思われます。NewsPicksを軸にしたSaaSとのハイブリッドモデルを変えることはないでしょうし、そのユニークさを発揮するためには、まずNewsPicksの復活なしにはなしえないでしょう。

メディア事業はコンテンツが命、コンテンツは人が命ですから、まず競争力のある人的資本の拡充が求められます。NewsPicks開始当初はこのモデル自体にユニークさがあったかもしれませんが、すでにアプリ中心、インフルエンサー、コミニティなどの施策だけであれば差別化しきれない状況に陥っています。

本質的なメディア事業としての競争力をどの様にして取り戻すか、そのためには人的資本の拡充がキーになることが会社もカーライルも認識している様に、最重要の課題だと思います。

メディアの復活なしにはシナジーは実現しない

上記でも触れましたが、SaaS x NewsPicksのモデルが持続的に競争力を有し、ユニークさを構成し、解約率を低下させるネットワーク効果を発揮するためには、NewsPicksが圧倒的にユニークで熱量の高いコミニティを構成していることが不可欠です。

ターゲットセグメントにおける迷い

メディアの難しい点にジェネレーション(世代)の移ろい、流行り廃りというものがあります。コンテンツの軸を定めるにも、ターゲットユーザーの絞り込みが鍵になってくるでしょう。目下、コンテンツを見ているとまだ迷いを感じるのが私自身の感覚です。この辺りが人的資本の拡充とともに、見える形で成果につながってくれば、復活に向けた道筋が見えてくるのではないでしょうか。

ちなみに)ファンドが考えそうなシナリオ

この点も簡単にだけ書いておきます。これは"may NOT be good for Uzabase"かもしれません。

1)投資回収のボトムラインはSPEEDA+市場回復

現時点で収益化していてキャッシュフローを産んでいる事業の柱は間違いなくSPEEDAです。これはファンドの立場からすると計算できる事業。ここでのキャッシュフローの範囲内で無理なく他事業へ投資はするけれど、それ以上の無理をするかは成功確率との天秤にかけられると思います。果たしてSPEEDAの確実性を指し引いても投資したくなる事業が出てくるのか注目です。

最低限、この事業が成長していれば、今の市場環境はボトムに近いと考えれば、ここからのアップサイドは考えられるでしょう。

2)メインシナリオはSPEEDAを中心としたSaaS事業の成長

流石にSPEEDAだけだと面白くないし、きっとユーザベース経営陣とも折り合いがつかなかったかもしれません。SaaS事業の中でも期待できる、SPEEDAと相性が良い事業はROIを見ながら慎重に、実績が積み上がって来ればそこで大胆に攻めていくでしょう。

場合によっては、カーライルの資本力を活用して、より相性の良いSaaS事業をM&Aで手に入れることも考えていると思います。なにせ今はバリュエーションが下がっていますからリスクリターンの算盤勘定は合いやすいとも言えます。

3)メディア事業のターンアラウンドは難しい

正直、一度モメンタムを失ったメディア事業の再生は難しいというのが一般論です。カーライルもそのように考えていることでしょう。当然、この投稿でも書いているように人材の入れ替えやインセンティブ設計などできることはやっていくでしょう。ただ、一般論としてメディアはユーザーとクリエイターに紐づいていますから、それを一気に変えていくことが難しいという特性があります。

一定程度のトライアルはするでしょうが、どれほどリスクを取ってくるかは実物です。SaaS系で実績が出て来れば投資余力が増してくるので、投資は積極化してくるかもしれません。

SaaSとのシナジーが見えてこない、成長シナリオが描けないということになると、安定事業として仕立て直して、事業売却という選択肢も、企業価値最大化の観点で検討してくる可能性もあります。さて、その際の買い手候補先はどこでしょうか?

以上、簡単なイントロダクションとして投稿してみました。是非、皆様の忌憚ないご意見やフィードバックをお待ちしています。コメント欄が盛り上がることを、私も(きっとNewsPicksの関係者も)望んでいることと思います!

追記)皆様への質問

いくつか典型的な質問を書いておいた方がコメントしやすいかと思いましたで、問いの例を下に列挙しておきます。これも参考に是非コメントください。

1)NewsPicksは有料課金ユーザーをゼロから18万人程度まで増やした近年で最も成功した有料課金ベースのメディアの一つです。その前提でこのまま有料課金ユーザーを増やし続けることを最大目標とし続けるべきか? 広告収入だけではなく有料課金ユーザーがいることがマネタイズ・ビジネスモデルの特徴の一つです。一方で、これを100万、1000万と増やしていこうとすると難易度は増しますし、どんどんマスメディア化し特徴が失われていきます。そこをどう考えるか? (※そうすると尖ったクリエイターは離れて独立してしまう傾向を止めることはできません。)

2)NewsPicksは企業などから法人向けまた広告で売上を上げています。企業のマーケティング予算や人材育成費は大きな市場規模ですから、そのポケットを狙うことは合理的とも言えます。一方で、企業側を向けば向くほどユーザーが求めるコンテンツから外れていってしまう矛盾も抱えています。今は、企業も個人もそれぞれから収入を上げるビジネスモデルです。そこをどう考えるか?

3)ユーザーの心を掴み続けるには有力なコンテンツが不可欠です。有力なコンテンツを生み出すのは人です。新進気鋭のクリエイターを囲い込み続けることができるのか。そのためにどのような方法があるのか?

4)どんなコンテンツを見てみたいのか? 記事の内容、テイスト、スター、タレント、専門性、フォーマット(動画・文字)等々

5)どういう読者層をターゲットにすべきか? 30-40代? 50-60代? 20代? 10代? ビジネスパーソン?などなど。

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