閉館してからでは遅いミニシアター支援。「元町映画館のサポーターズクラブ設立」から考える、ミニシアターのある街で生きるということ

2024年3月31日
全体に公開

2024年4月1日から神戸・元町映画館が、サポーターズクラブを設立し、映画館の継続を目指す、という発表がされました。さて、みなさんの住む街に、ミニシアターと呼ばれる映画館は、ありますか?コロナ禍を乗り越えた先の時代に考える、私たちの文化的な生活とはどのようなものでしょうか。

元町映画館のサポーターズクラブ発足(2024年4月~)

2024年4月から、神戸・元町映画館に、サポーターズクラブが発足します。

これは、コロナ禍で減少した観客動員数が戻り切らず、継続的な公的支援が制度化されないという現状。このままの状況が続けば、2024年末には閉館やむなしの結論が見えるなかで、支援者の方による継続的なサポートを形にしたものです。

〜元町映画館サポーターズクラブ設立のご案内〜
https://www.motoei.com/support/

さて、なぜこのような動きが必要となっているのか。ミニシアターをとりまく状況はどうなっているでしょうか。元町映画館様が公表されたデータなどを元に、少し見える化していきます。

閉館が続く、ミニシアターの現状は

2022年9月30日、大阪梅田の「テアトル梅田」が閉館しました。翌年の2023年9月、60年の歴史がある「京都みなみ会館」が閉館しました。そのほかにも、「豊岡劇場」の2022年の休館(2023年3月再開)、「名古屋シネマテーク」の閉館(同場所に2024年3月「ナゴヤキネマ・ノイ」がオープン)など、ミニシアターの運営は、苦境が続いています。この記事を書いている2024年3月31日には、仙台駅前にある「チネ・ラヴィータ」が閉館を迎えるという状況なのです。

コロナ禍に起きたこと

提供:元町映画館

これは、元町映画館様が公表された、2010年の開館から2022年度までの観客動員数の推移のデータです。コロナ前の2019年までは、なんとか経営維持のラインである動員数でしたが、コロナ禍を超えた2022年の動員数は、まだ経営安定ラインである3万人に到達していなません。

2020年3月25日からの地方自治体の外出自粛要請や、4月政府による緊急事態宣言のなかで、映画館は、営業の休止を求められました。また、科学的な根拠に基づかない政府や地方自治体の要請は、コロナが落ちついたあと、同政府や地方自治体から「安全宣言」といった形での打ち消しをされることはなく、文化施設へ与えたダメージへの責任を取ってはいない。

ミニシアターを支えた活動

コロナによる閉館危機を支えたのは、深田晃司監督や濱口竜介監督らが取り組んだ「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」に参加した、多くの支援者や関係者の方々。また、井浦新、斎藤工、渡辺真起子ら、俳優陣が取り組む「ミニシアターパーク」といった活動などがあり、現在も継続的に行われているものもあります。

なぜ、ミニシアターの動員数が戻らないのか

編集部は、年間450回以上、映画館で映画を鑑賞しているので、必然的にミニシアターへ何度も足を運んでいますし、コロナでの休館明けから実際の観客動員の様子を現場でみてきました。

元町映画館様は、以下のとおり、回復しない原因を上げておられます。

※1 観客数が回復しない理由は複数考えられます。
(1)コロナ禍で映画館に行く回数が減り、それが習慣化したこと。
(2)動画配信サービスによる映画視聴の習慣化。
(3)近年の物価高によって趣味に割くお金が減ってきたこと。
(4)コロナ禍での映画制作への支援で作品は増える一方、配給宣伝費には支援がなく宣伝が行き届かないこと。

今回の、元町映画館サポーターズクラブや、他のミニシアターにも存在する支援者の取り組みは、この原因のうち、(1)コロナ禍で映画館に行く回数が減り、それが習慣化したこと、を改善しようとする取り組みであり、これだけで、ミニシアターの経営改善・維持ができるものではありません。

まずは、映画館へ行くこと。

提供:元町映画館

では、さらに、必要なことは何でしょうか。

なぜ、私は、映画情報「Life with movies」という独立メディア活動を始めたのか

ミニシアターで映画を観る体験は、私にとって、世界の文化を知る、世界を知るために、価値の高いものであり、維持していきたいと「大切なこと」です。映画館を支えるのは、まずは、映画館へ行くことが大切。しかし、友人・知人と会話した際に、よく言われることが「そんな映画が上映していることを知らないです」ということ。

これは、元町映画館様の原因(4)コロナ禍での映画制作への支援で作品は増える一方、配給宣伝費には支援がなく宣伝が行き届かないこと、に繋がる課題で、私が活動を開始した2017年には、起きていたこと。

日本だけでなく、世界に広がる情報量が爆発的に増加し、私たちが触れる情報量は500倍以上とも1,000倍以上とも言われています。また、平成以前は、新聞、雑誌、テレビ、ラジオの主要4メディアが情報を握っていましたが、Webが急速に発達したことで、広告費は、Web広告費が他のメディアの広告費を上回っています

映画情報のベクトルに変化が

私たちに届く「映画に関する情報」は、以前は、映画専門紙に加え、新聞や生活情報誌などに掲載されていましたが、現在は、ネット上の映画系メディアやyoutubeチャンネル、インフルエンサーが中心となっています。

この映画系メディアの転換は、映画に関する情報の偏り・歪みを生み出す結果になりました。

なぜなら、映画専門紙や新聞や生活情報は、カスタマーである私たちが有料で購入する媒体であり、その情報は映画ファンに向けられたものでした。しかし、現在の映画系メディアやYoutuber、インフルエンサーの収入源は「広告収入」が中心。つまり、大手商業映画を中心として、資金を持って、情報を届けたい側の意向、「広告主の意向」に沿ったものを提供している。

つまり、情報を届ける意図が、情報のベクトルが、以前と逆転しているのです。

アクセス数の稼ぐために、記事を書くのが中心で、その先に存在する映画ファンは、2番手でしかなくなってしまった。

この状況を少しでも緩和したい、という想いから、この大型商業映画の流れではない、ミニシアターで上映される作品や、その経済プロセスに入らない映画祭の情報を、継続的に発信する活動を開始し、現在に至ります。

この状況はが、(4)コロナ禍での映画制作への支援で作品は増える一方、配給宣伝費には支援がなく宣伝が行き届かないこと、という認識とシンクロします。

政府や映画業界で検討されたり、実施されているものは、中小の配給宣伝作品には、行き届いていないし、映画系メディアがそういう作品を取り扱う支援にもなっていない、ということです。海外では、フランスの[CNC」や韓国の「KOFIC」という活動の一部に制度化されていますが、日本では制度化・システム化されていません。

多様性の必要が求められているなかで、この情報を読んだ、経済界の方やメディア関係の方、支援者の方は、どのように考えるのでしょうか。この状況で生活する「日本の経済人」が海外へ飛び出した時、どうなるのでしょうか。

まずは、みなさんの住んでいる場所の近くにある、ミニシアターへ行ってみてください。そこで、シネコンが供給する「商業面」ではなく、「文化的な体験」に触れてみて下さい。感動したり、ショックを受けたりしてみてください。また、行ったあとには、家族や友人にその映画の話をしてみてください。

そして、経済活動の先に、自分たちの豊かな生活とは何か、文化的な生活とは何か、考えてみてください。

『君たちはどう生きるか』という映画のタイトルを想起しながら。

   【執筆者:藤井幹也】
映画情報「Life with movies」 の運営を担当。 年間400本以上の作品を映画館で鑑賞しつつ、国内で開催される映画祭(東京国際映画祭、大阪アジアン映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭、フランス映画祭、イタリア映画祭等)へ参加している。作品配給側の視点ではなく、作品鑑賞側・観客側の視点を持ちつつ、客観性と多様性を持つ映画情報を届けるべく、と日々活動中。活動エリアは、京都を中心に、関西地域ですが、映画祭へ参加のため全国各地を飛び回る日々。
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